だからあの時、忠告をしましたよね?

柚木ゆず

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第4話 一週間後 シブリアン視点(3)

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「端的に申し上げますと、わたしはハニートラップだったのですよ」

 美しい夕焼けをバックにした、俺達の口づけを収めた写真。そんな一枚を愕然と見つめていたら、クロエの口から信じられない言葉が聞こえて来た。
 ハニー……。トラップ……。

「シブリアンが一目惚れしそうな女が居る店を探して連れて行き、声をかけさせて、二人きりの時間を作って関係を発展させていく。それがオレの計画だ」
「……………………」
「シブリアンは『偶然の出逢い』とか『運命の出逢い』とか、思っていただろう? 残念だけど大ハズレ。全てオレが仕組んだものなんだよ」
「……………………」
「ちなみにシブリアン様がいつも褒めてくださっていた性格も、偽りのものですよ。ますますわたしを好きになりそうな言動を選び、目の前で使っていただけなんです」

『趣味ですか? 趣味はボランティアです。困っている人を助けるのが好きなんです』

『今日のお誘いを受けた理由、ですか? わたし、人を見る目には自信があるんです』

『シブリアン様の瞳は澄んでいて、真面目でお優しい方だと一目で分かりました。わたしが嫌な思いをするようなことはなさらない方だと確信があって、今この場にいます』

 は、嘘……。

『わたしもシブリアン様も惹かれておりまして……もっと……これからもずっと、お話しをさせていただきたいと思っています。……ご迷惑をおかけしないと誓います。今後も、わたしと会ってくださりませんか? 二人きりの時だけは、わたしを貴方様の恋人にしてはくださりませんか……?』

 これも、嘘……。
 なにもかもが……。『クロエ』という名前と素性と容姿と声音以外はすべて、作られたものだった……。

「一週間前にシブリアン様に提案した、ラヴィータの丘のお話。あれもデタラメで、そんな言い伝えはどこにもないんですよ」
「お前はいつも個室で口づけを交わしていた。あそこじゃ、こんな風に写真に収められないからな。お前が外でキスをするくらい惚れた段階で誘い出すようになっていて、アレはその一環だったというワケだ」
「…………………………」

 そんな……。
 お互いの愛がたっぷり込められていたと思っていたキスも、うそ……。甘い極上の口づけだと思っていたのは俺だけで、クロエはなんとも思っていなかった……。
 気を許させれば許させるほど、ロバートから報酬をもらえるから……。やっていただけ、だった……。

「……………………。…………………………」
「かなりのショックを受けているみたいだが、話を進めさせてもらうぞ。……なあシブリアン。こんな写真が公になったら、大変だよな? 婚約は解消となるし、次期当主は弟のウジェーヌになるし、責任を取って『コクユイファ子爵家』を追放されるだろうな」

 ……そう、なってしまう……。
 父上や、おじさん、だけじゃない……。コクユイファ家とナジューラル家の両方の怒りを買い、何もかも失う羽目になってしまう……。

「だが、そうならない方法が存在している」
「……なんだって……? ほ、本当か……!?」
「ああ、本当だ。お前に頼みたいこと・・・・・・があって、それを実現してくれたらこの写真をお前に返してやるよ」




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