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第4話 すべては自業自得 俯瞰視点(4)

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「…………ありがとうございます。わたくしの中にはもう、先の苦しみはありません」

 ヴィクトルの服を両手で強く握りしめたまま、十二分間泣いた後。彼から渡されたハンカチで涙を拭くと、クリスチアーヌの瞳は真っすぐ前を見られるようになっていました。

「頭の中はすっきりとしていて、考えも変わっております。先ほどまでとは、正反対。『あの段階で本質に気付けてよかった』と、思えるようになっております」
「それはよかった。……では、そのお祝いをしなければなりませんね」

『そう、だったのですね。魅了は、わたくしの勘違いだった。スッキリ致しました』

『事実がはっきりして、よかった。ずっとモヤモヤして曇り空となっていましたが、今心には上空のような青空が広がっております』

 あの状況で、あのように振る舞える人。温かな心を持つ人が、悪行から解き放たれた。それが嬉しいが故に、ヴィクトルはそんな言葉を紡いだのです。

「あいにくと僕はこのまま帰国の途に就かねばなりませんので、そうですね。お時間があれば再び同乗していただき、ミレヴォラードに調査ではなく遊びに来ませんか? 1日ほどお待たせすることになってしまっていますが、名所への案内などができますので」
「…………オーライエル様、ありがとうございます。是非、お願い致します」

 この方は本心で仰ってくださっていて、遠慮するのは失礼――。ヴィクトルの瞳を見て声を聞いたクリスチアーヌは、スカートを掴んでカーテシーを行いました。
 そうして二人の時間はまだ続くこととなり、

「ここは、『サンクトレスト湖』。ミレヴォラードを代表する観光名所であり、僕の好きな場所の一つです」
「……オーライエル様がお好きな理由が、よく分かります。水は底まで見えてしまうほどに澄んでいて、水面はキラキラとしていて……。とても、綺麗です」

「こちらはこの国の名物、『ジゴ・ダニョー・ロティ』です。どうぞ召し上がれ」
「…………表面の香ばしさと、中の柔らかさ……。それらを、これは…………ローズマリーやマジョランですね。いくつものハーブが引き立っていて……、とても美味しゅうございます」

 有名なスポットに出かけたり、オーライエル公爵邸で食事をしたり。クリスチアーヌはたっぷりと、『お祝い』を心から楽しみました。
 そうして3日に渡るイベントを終えて帰国の日となり、今度こそお別れの時となります。ですが――二人の縁は、そこで切れることはありませんでした。

((ヴィクトル様・・・・・・は、とてもお優しくて……。もっと一緒に、居させていただきたい。もっともっと、この方を知りたいですわ……))

((クリスチアーヌ様は、本当に清らかな人だ。……もっとこの方を、知りたい))

 魅了の解明と、3日間。それらによって二人ともに相手を意識するようになっており、二人は後日の再会を約束します。
 そして『会う』『話す』『知る』を繰り返すうちに、人としての好きが異性としての好きへと姿を変え――。

 清く優しい心の持ち主であること。
 カタコトではなく流暢に異国語を扱えるほどに、優秀であること。

 それらによって公爵夫妻からも太鼓判を捺され、二人は交際を始めていたのでした。


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