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第8話 気が付くと 俯瞰視点(3)
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「出てくるまでに費やした時間と、ボロボロの口。こちらの予想通りに踊ってくれたようですね」
「よそう……どおり……?」
「『目覚めて脱出を決意する』。『縄を噛んで脱出を試みる』。『苦労の末に縄を噛み切り、笑顔で脱出する』。『外に出た直後に絶望する』。すべて、僕が用意したシナリオなんですよ。貴方がたに、お礼をするためのね」
テレーズを――かつては『大切な新しい家族』で、今は『愛する人』への振る舞いのお礼。今日目の前に現れ、感情を逆撫でしたお礼。
すべては、そのために用意されていたのです。
「……本当なら、この場で殺してやりたいくらい憎いんですよね。彼女を散々な目に遭わせた、お前達が」
「「「ひっ!」」」
「でも僕が手を血で染めるとテレーズは悲しんでしまいますし、同じく、そんな真似をすればあらゆる資格を失ってしまいますのでね。このくらいで終わりにしておきましょうか」
((よ、よかった……。死には、しな――))
「僕のお礼は、ね」
安堵していたイヴェット――だけではなく、レジスとゾエも揃って息を呑みました。
「ぼくの、お礼……?」
「実を言いますと、貴方達に接触する前――事務所まで戻るそれよりも前に、面白い情報が届いていたんですよ。皆さんがよくご存じな、家令のライアンさんと御者のフィリップさんからね」
――再びイヴェットが問題を起こし、その結果両親も含め3人で逃亡をしたこと――。
――すでに国外にはおらず、コッソリこの国に入国したこと――。
――キックスという名の伯爵が、三人を探していること――。
それらを伝える手紙が、届いていたのでした。
「それを聞いて、つい数時間前に決めたんですよ。イヴェット、レジス、ゾエを捕えて、ラクラス伯爵家にお届けしようとね」
「「「……………………」」」
「元家族の三人は宿無し無一文、いずれウチに来るだろうと思ってはいました。なのでしばらくは、テレーズに面接を任せてはいけないなと思っていましたが――まさかこんなにも早いだなんてね。おかげでテレーズが不快な思いをしてしまいました」
「「「……………………」」」
「ですからちょっとだけ回りくどいやり方をして、これからラクラス伯爵家に出荷します。……さあ、輸送用の馬車に乗ってもらいましょうか」
「い、いや……。お、お願い、します……」
イヴェット、それにレジスとゾエも。その場に座り込み、胸の前で手を組みました。
「あの人は、わたくしを憎んでいますわ……。あちらに連れていかれたら……。大変なことになるから……。許して、ください……!!」
「こちらにとって、それは大歓迎。許しませんよ」
「な、なんでもしますから……! そ、それだけは止めてください……!!」
「なんでも? では、大人しく出荷されてください」
「そっ、そうじゃないですっ! それ以外ならなんでも――ぁあ!?」「ぐあ!?」「きゃあ!?」
懇願していたイヴェット、レジスとゾエは大男達によって組み伏せられ、手足を縄で縛られてしまいました。
「それでは向かいましょうか。……ふふ。どんな未来が待っているのか、楽しみですね」
そうして三人は馬車に投げ込まれ、イヴェット達を乗せた馬車は動き出し――
「よそう……どおり……?」
「『目覚めて脱出を決意する』。『縄を噛んで脱出を試みる』。『苦労の末に縄を噛み切り、笑顔で脱出する』。『外に出た直後に絶望する』。すべて、僕が用意したシナリオなんですよ。貴方がたに、お礼をするためのね」
テレーズを――かつては『大切な新しい家族』で、今は『愛する人』への振る舞いのお礼。今日目の前に現れ、感情を逆撫でしたお礼。
すべては、そのために用意されていたのです。
「……本当なら、この場で殺してやりたいくらい憎いんですよね。彼女を散々な目に遭わせた、お前達が」
「「「ひっ!」」」
「でも僕が手を血で染めるとテレーズは悲しんでしまいますし、同じく、そんな真似をすればあらゆる資格を失ってしまいますのでね。このくらいで終わりにしておきましょうか」
((よ、よかった……。死には、しな――))
「僕のお礼は、ね」
安堵していたイヴェット――だけではなく、レジスとゾエも揃って息を呑みました。
「ぼくの、お礼……?」
「実を言いますと、貴方達に接触する前――事務所まで戻るそれよりも前に、面白い情報が届いていたんですよ。皆さんがよくご存じな、家令のライアンさんと御者のフィリップさんからね」
――再びイヴェットが問題を起こし、その結果両親も含め3人で逃亡をしたこと――。
――すでに国外にはおらず、コッソリこの国に入国したこと――。
――キックスという名の伯爵が、三人を探していること――。
それらを伝える手紙が、届いていたのでした。
「それを聞いて、つい数時間前に決めたんですよ。イヴェット、レジス、ゾエを捕えて、ラクラス伯爵家にお届けしようとね」
「「「……………………」」」
「元家族の三人は宿無し無一文、いずれウチに来るだろうと思ってはいました。なのでしばらくは、テレーズに面接を任せてはいけないなと思っていましたが――まさかこんなにも早いだなんてね。おかげでテレーズが不快な思いをしてしまいました」
「「「……………………」」」
「ですからちょっとだけ回りくどいやり方をして、これからラクラス伯爵家に出荷します。……さあ、輸送用の馬車に乗ってもらいましょうか」
「い、いや……。お、お願い、します……」
イヴェット、それにレジスとゾエも。その場に座り込み、胸の前で手を組みました。
「あの人は、わたくしを憎んでいますわ……。あちらに連れていかれたら……。大変なことになるから……。許して、ください……!!」
「こちらにとって、それは大歓迎。許しませんよ」
「な、なんでもしますから……! そ、それだけは止めてください……!!」
「なんでも? では、大人しく出荷されてください」
「そっ、そうじゃないですっ! それ以外ならなんでも――ぁあ!?」「ぐあ!?」「きゃあ!?」
懇願していたイヴェット、レジスとゾエは大男達によって組み伏せられ、手足を縄で縛られてしまいました。
「それでは向かいましょうか。……ふふ。どんな未来が待っているのか、楽しみですね」
そうして三人は馬車に投げ込まれ、イヴェット達を乗せた馬車は動き出し――
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