10年前にわたしを陥れた元家族が、わたしだと気付かずに泣き付いてきました

柚木ゆず

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第7話 二つめの自業自得 俯瞰視点(3)

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「…………そろそろ、頃合いですか。皆さん」
「「「? はい。なんでしょうか?」」」
「実はですね、皆さんに吐いている嘘があるんですよ」

 それは、三人が快哉を叫んでから10分ほどが経った頃でした。懐中時計を確認していたカノンが、不思議なことを呟きました。

「? うそ……?」「うそ……?」「うそ……?」
「貴方達と会った際に、宿屋の息子カノンと自己紹介をしましたよね? あれは真っ赤な嘘。僕はカノンでも、宿屋の息子でもありません」
「え……。え……? ま、またまた。ご冗談を。やめてください」
「いえ、冗談ではないのですよ。僕の本名は、テランス・ナリアリスといいます。聞き覚えがあるはずですが、分かりますか?」
「……てらんす・なりありす……。ど、どこかで聞いた、ような……?」

 イヴェットに――レジスとゾエにも、聞き覚えがありました。ですがそれがどこだったのかが、思い出せません。

「そうですか、ならもう一つ教えましょうか。そういえば『スロティアー農園』の園長の名前が、テランス・ナリアリスでした。……もう、ご理解いただけましたね?」
「「「………………」」」

 目の前にいるのは、ルナの夫。自分達が逃げてきた場所の、トップだった。
 そう気付いた三人は、仲良く言葉を失いました。

「あの場所で出会ったのは偶然ではなく、必然。すべて仕組まれたものだったのですよ」
「「「………………」」」
「なぜ、そんなことをしたのか? 次はそちらを教えましょうか。その理由は――」
「お父様お母様! にげっ、にげる!! 逃げないと殺される!!」

 氷のようになっていたイヴェットは、声と身体を震わせながら扉を指差しました。
 今馬車は動いていて、そんな状況で飛び出せば怪我をしかねない。それでも、車内に居続けるよりはずっとマシ。
 そんな判断によってイヴェット達は立ち上がり、負傷を覚悟で扉へと――

「「「……ぇ……?」」」

 ――扉へと動こうとしていた三人は、揃ってその場に崩れ落ちる。急に全身に力が入らなくなり、重なるようにして倒れ込んでしまいました。

「な、に……? なん、な、の……? こ、れ……?」
「これは、睡眠薬の影響ですね。さっき召し上がったクッキーの中に、入っていたんですよ」

 お菓子を渡したのは、体力回復のためではありません。このタイミングで無力化するためのものでした。

「これから貴方がたは眠り、その間にとある場所へと運びます。なにが起きるのかは、目覚めてからのお楽しみ。楽しみにしていてくださいね」
「い、いやっ! たのしくっ、ない! いやっ! いやだ! か、からだっ、動け! 動きなさいよっ! 動けったら――ぁ、ぁぁ、ぁぁぁ……。すぅ、すぅ、すぅ…………」

 イヴェットもレジスもゾエも必死に抵抗したものの、意味はなし。そうして熟睡している間に、馬車はとある建物の前で停まって――




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