上 下
15 / 24

第7話 二つめの自業自得 俯瞰視点(2)

しおりを挟む
「……病気の妹さん……娘さんを、救うために隣国から……。そうだったのですね……」
「はい、そうなんです……。妹は元々病弱で、そんな体質が原因で大きな病にかかってしまって……。どうしても、治療費を稼がないといけないんです……」

 三人が馬車に乗ってから、およそ十五分後。車内ではイヴェット、レジスとゾエも、神妙な面持ちを浮かべていました。

「もしかして……。先ほど仰られていた、順調だった商売で大失敗をしてしまったのは……」
「その通りでございます。……妹を救うには沢山のお金が必要で、少しでも早く用意しないと、と必死になりまして……」
「我々は無茶な勝負をし……。その結果、全てを失ったのでございます……」
「ですがどうにかして、手術費用を集めないといけない。でも祖国ではいつも足元を見られて、酷い条件を提示する仕事しかなく……。常識的な報酬を貰える、かつ、住み込みで働ける場所を探し、この国を訪れております……」

 農園の事務所で話した時とは、正反対。今度は全員が落ち着いた状態で、しっかりと説明をしてゆきます。

「とはいえこの国でも、足元を見られてしまうことが多く……。更には先ほどは…………盗賊まがいの者達に襲われかけました……」
「金を出せ! 出さないと殺すぞ! と、言われました……。刃物を出しながら……」
「ですのでわたくし達は必死になって、逃げて……。疲れ切っていたところを、運よくカノンさんに見つけていただき今に至ります……」
「まさか、あんなことがあるだなんて……。怖かった……。しばらくは、外を歩けそうにありません……」

 イヴェットは身体を震わせ、一生懸命振り絞って涙を浮かべます。
 ――同情して――。
 ――憐れんでわたくし達を雇って――。
 と、心の中で強く願いながら。

 目の前にいる、宿屋の息子カノン。彼の話の中で、それなりの規模の宿を営んでいると知りました。
 従業員の数は足りているかもしれないけど、カノンはわざわざ助けてくれたり、体力回復にとお菓子をくれるような人――『困っている人は親身になって助けなさい』をモットーにしている人。だったら困っているアピールをすれば雇ってくれるかもしれないし、上手くいけば住み込みで働ける可能性だってある。
 そんな理由で、ありもしない苦労話を逐一語っていたのです。

「働ける場所がすぐに見つかれば、いいんですけど……。その気配はなくて……。目の前が真っ暗になっています……」
「そう、なのですね……。……………………セリアさん、ケヴィンさん、レアさん」

 事務所で出した名前は縁起が悪いからと、急いで考えた新たな名前。イヴェット、レジス、ゾエの名を呼んだ彼は、

「そういうことなら、ウチで働きませんか? 住み込みで」

 三人が待ち望んでいた言葉を、口にしたのでした。
 そしてその瞬間、

((やった!))((やったぞ!))((やったわ!))

 三人は心の中で快哉を叫びましたが、残念ながらソレは幸せの始まりではありませんでした。彼女達を待っているのは――

しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

最後に笑うのは

りのりん
恋愛
『だって、姉妹でしょ お姉様〰︎』 ずるい 私の方が可愛いでしょ 性格も良いし 高貴だし お姉様に負ける所なんて ありませんわ 『妹?私に妹なんていませんよ』

殿下に裏切られたことを感謝しています。だから妹と一緒に幸せになってください。なれるのであれば。

田太 優
恋愛
王子の誕生日パーティーは私を婚約者として正式に発表する場のはずだった。 しかし、事もあろうか王子は妹の嘘を信じて冤罪で私を断罪したのだ。 追い出された私は王家との関係を優先した親からも追い出される。 でも…面倒なことから解放され、私はやっと自分らしく生きられるようになった。

愛さえあれば他には何も要らない? 貴方の新しい婚約者は、そう思ってはいないみたいですよ?

柚木ゆず
恋愛
※12月17日、本編が完結いたしました。明日18日より、番外編を投稿させていただきます。  真に愛すべき人と出逢い、興味がなくなった。そんな理由で私は一方的に、ロズオルヤ伯爵家のジル様から婚約を解消されました。  そうして私達の関係はなくなり、そのためウチが行っていたロズオルヤ家への金銭的な支援が止まることとなって―― 「支援がなくなれば、現在のような裕福な暮らしが出来なくなってしまう――リリアンに愛想を尽かされると、考えたんだろう」 「確かにもう高価なものを贈れなくなってしまうが、問題はない。リリアンは俺からの愛さえあればいいと思ってくれている清らかな人なのだからな!」  ――そうすればジル様はまるでウチが嫌がらせをしているかのように語り、私やお父様をたっぷり嗤って去られたのでした。  そう、なのですね。貴方様は、何もご存じないのですね。  ジル様が絶賛されているその方は、実は――

妹は私から奪った気でいますが、墓穴を掘っただけでした。私は溺愛されました。どっちがバカかなぁ~?

百谷シカ
恋愛
「お姉様はバカよ! 女なら愛される努力をしなくちゃ♪」 妹のアラベラが私を高らかに嘲笑った。 私はカーニー伯爵令嬢ヒラリー・コンシダイン。 「殿方に口答えするなんて言語道断! ただ可愛く笑っていればいいの!!」 ぶりっ子の妹は、実はこんな女。 私は口答えを理由に婚約を破棄されて、妹が私の元婚約者と結婚する。 「本当は悔しいくせに! 素直に泣いたらぁ~?」 「いえ。そんなくだらない理由で乗り換える殿方なんて願い下げよ」 「はあっ!? そういうところが淑女失格なのよ? バーカ」 淑女失格の烙印を捺された私は、寄宿学校へとぶち込まれた。 そこで出会った哲学の教授アルジャノン・クロフト氏。 彼は婚約者に裏切られ学問一筋の人生を選んだドウェイン伯爵その人だった。 「ヒラリー……君こそが人生の答えだ!!」 「えっ?」 で、惚れられてしまったのですが。 その頃、既に転落し始めていた妹の噂が届く。 あー、ほら。言わんこっちゃない。

結婚を先延ばしにされたのは婚約者が妹のことを好きだったからでした。妹は既婚者なので波乱の予感しかしません。

田太 優
恋愛
結婚を先延ばしにされ続け、私は我慢の限界だった。 曖昧な態度を取り続ける婚約者に婚約破棄する覚悟で結婚する気があるのか訊いたところ、妹のことが好きだったと言われ、婚約を解消したいと言われた。 妹は既婚者で夫婦関係も良好。 もし妹の幸せを壊そうとするなら私は容赦しない。

結婚式間近に発覚した隠し子の存在。裏切っただけでも問題なのに、何が悪いのか理解できないような人とは結婚できません!

田太 優
恋愛
結婚して幸せになれるはずだったのに婚約者には隠し子がいた。 しかもそのことを何ら悪いとは思っていない様子。 そんな人とは結婚できるはずもなく、婚約破棄するのも当然のこと。

勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い

猿喰 森繁
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」 「婚約破棄…ですか」 「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」 「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」 「はぁ…」 なんと返したら良いのか。 私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。 そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。 理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。 もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。 それを律儀に信じてしまったというわけだ。 金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。

格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう

柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」  最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。  ……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。  分かりました。  ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。

処理中です...