10年前にわたしを陥れた元家族が、わたしだと気付かずに泣き付いてきました

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
14 / 24

第7話 二つめの自業自得 俯瞰視点(1)

しおりを挟む
「ひぃ!?」「うああ!?」「ぎゃあ!?」

 嬉し涙を零しながら抱き合っていた、イヴェット、レジス、ゾエ。そんな三人は揃って悲鳴をあげ、おもわずその場に尻もちをついてしまいました。
 喜びと安堵が、一瞬に消えてなくなる。その理由は、馬車が停まったから。
 大切に使い込まれていると分かる、年季を感じる中型の馬車。そんなものが突如として自分達の目の前で停まったため、三人はこのようになっていたのです。

「るっ、ルナがっ、おっ、追いかけてきた!? にげっ、にげ!!」
「にげっ! にげぇ!」
「ぁぁぁ!! にげぇぇぇ!! 逃げたいっ、のにぃぃ!!」

 一度安心してしまい、疲労がどっと押し寄せていたこと。予想外なことが起きて、激しく動揺してしまっていること。
 それらによって立ち上がることさえもできなくなり、イヴェット達はさらに狼狽え始めます。

「あぁぁあぁ!!」「うああああああああ!!」「ぎいあああああ!!」

 ジタバタジタバタジタバタ。滂沱の涙を流しながら手足をバタつかせていると、馬車の扉が開き――穏やかそうに見える男性が、降りてきました。
 清潔感のあるブラウンの髪の毛と温厚なタレ目が印象的な、20代半ばに見える男。そんな彼は護衛役も兼ねた御者と共に、イヴェット達に駆け足で近づいていき――

「大丈夫ですか!? どうされたのですか!?」

 ――三人を、心配そうに覗き込みました。

「「「…………。え……?」」」
「あ、驚かせてすみません。膝や肘などから血を流している……満身創痍な人の姿が偶然目に入り、心配になってお声をかけています」

 逃走中に入った茂みで切ったり、転んですりむいたりした傷。男性は三人の身体を見渡しながら、丁寧に会釈を行いました。

「身体はボロボロですし、精神的にもかなりダメージを受けていらっしゃるようにお見受けします。皆様さえよければ、ウチで休まれていきませんか?」
「「「…………へ? うち……? やすむ……?」」」
「僕は――僕達親子は、そうですね、ここから西に10キロほど離れた場所で宿屋を営んでいるんです。ここでお会いしたのも何かの縁ですし、なにより、『困っている人は親身になって助けなさい』という曾祖父の言葉を大切にしておりましてね。よろしければ、お世話を焼かせてはもらえませんか?」

 他意を一切感じない、柔らかい微笑み。それを向けられた三人は――

「おっ、お願いしますっ。お言葉に甘えさせてもらいますわっ!」

 ――しばらくヒソヒソ話で相談したあと、イヴェットが代表して返事をしました。

 よくよく考えてみたら、この馬車は進行方向から来た――農園の関係者じゃない。
 実際にもうヘトヘトで、動けないくらい疲労が溜まっている。

 そんな理由で三人は休ませてもらうことになり、男性に促されて馬車に乗り込んで――
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

最後に笑うのは

りのりん
恋愛
『だって、姉妹でしょ お姉様〰︎』 ずるい 私の方が可愛いでしょ 性格も良いし 高貴だし お姉様に負ける所なんて ありませんわ 『妹?私に妹なんていませんよ』

愛人がいる夫との政略結婚の行く末は?

しゃーりん
恋愛
子爵令嬢セピアは侯爵令息リースハルトと政略結婚した。 財政難に陥った侯爵家が資産家の子爵家を頼ったことによるもの。 初夜が終わった直後、『愛する人がいる』と告げたリースハルト。 まごうことなき政略結婚。教会で愛を誓ったけれども、もう無効なのね。 好きにしたらいいけど、愛人を囲うお金はあなたの交際費からだからね? 実家の爵位が下でも援助しているのはこちらだからお金を厳しく管理します。 侯爵家がどうなろうと構わないと思っていたけれど、将来の子供のために頑張るセピアのお話です。

こんな人とは頼まれても婚約したくありません!

Mayoi
恋愛
ダミアンからの辛辣な一言で始まった縁談は、いきなり終わりに向かって進み始めた。 最初から望んでいないような態度に無理に婚約する必要はないと考えたジュディスは狙い通りに破談となった。 しかし、どうしてか妹のユーニスがダミアンとの縁談を望んでしまった。 不幸な結末が予想できたが、それもユーニスの選んだこと。 ジュディスは妹の行く末を見守りつつ、自分の幸せを求めた。

残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください

mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。 「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」 大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です! 男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。 どこに、捻じ込めると言うのですか! ※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

聖女の私を追放?ちょうど私も出て行こうとしていたところです

京月
恋愛
トランプ王国で聖女として働いていたリリスをあまりよく思わない王子ガドラ。リリスに濡れ衣を着せ追放を言い渡す。ガドラ「リリス、お前はこの国から追放だ!!」(ドヤ) リリス「ちょうど私もこの国を出ようとしていたところなんですよ」(ニコ) ガドラ「……え?」

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪

百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。 でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。 誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。 両親はひたすらに妹をスルー。 「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」 「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」 無理よ。 だって私、大公様の妻になるんだもの。 大忙しよ。

処理中です...