10年前にわたしを陥れた元家族が、わたしだと気付かずに泣き付いてきました

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
12 / 24

第6話 終わりと、もうひとつの始まり  テレーズ視点(1)

しおりを挟む
「…………ふぅ。このくらいにしておきましょうか」

 顔を真っ青にして、震えながら逃げ出した三人。死に物狂いで飛び出していった姿を見届けたわたしは、ホイッスルを懐に仕舞いました。

『…………決めました。リンダ―さん達に捕えてもらったあとは、倉庫に閉じ込めて拷問をしましょう。死ぬまで、ず~っと』

 もちろん、あの台詞は嘘。自分達の状況を良くしたいがために『ルナ』の名を出したあの人達に、膨大な量の恐怖を与えるためについたものです。

「三人の、あの表情。あんなにも怯えていたら、もう人目の多い場所には出ていかないでしょうね」

 わたしが放った追っ手が目を光らせている。そう思い込んでいることでしょう。
 ですので今後は人気(ひとけ)がない場所で、ビクビクしながらヒッソリ生きるという人生になるはずです。

「可能ならもっと何かしらをしたかったですが、リンダーさん達にもご迷惑をかけられませんしね。これで我慢しておきましょう」

 気付かずに泣き付いてくる。これはまだ許せますが……。

『名前はっ、いっ、ルナといいます! 双子の妹でわたくしと同じ22歳で、とても優しい子なんです! どんな時も一緒にいてっ、本当に大切な妹なんです!』
『ルナはっ、自慢の子なんです!』
『ルナはっっ、大切な子なんです!』

 あの言葉は、許せませんでした。
 未だに、怒りの炎が燃えています。
 ですが、あの状況ではアレが精一杯ですしね。この件はこれで終わりにして、気持ちを切り替えて仕事にもど――

「まさか、就職希望者が元家族だったなんてね。テレーズ、お疲れ様。大変だったね」
「いえ、大丈夫ですよ。ある程度のことはできましたし、むしろ、今日という日に起きてよかったのかもしれませ――あれ? お母さん、どうしてあの人達の正体を知っているんですか……?」

 ――仕事に戻ろうとしているとゼナイドお母さんがやって来て、わたしは首を傾げました。
 あの三人はここから走って逃げたので、園内の人は泣き顔や泣き声を見て聞いています。ですが『元家族』という情報は、ここにいた人しか知らないはずです。
 どうして知っているんでしょう……?
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

最後に笑うのは

りのりん
恋愛
『だって、姉妹でしょ お姉様〰︎』 ずるい 私の方が可愛いでしょ 性格も良いし 高貴だし お姉様に負ける所なんて ありませんわ 『妹?私に妹なんていませんよ』

【完結】お忍びで占い師やってたら王子から「婚約破棄したい」と相談されました

恋愛
公爵令嬢であるアイシャは都の路地裏で『お忍び占い師』をやっていた。 ところがある日、占い師に変装したアイシャの元へ婚約者である王子が訪れる。 その相談内容は「婚約を破棄したいと思うんだが、どうだろうか」だった──。 心を閉ざした令嬢と突っ走る王子のドタバタ物語。 ※ ・当方気をつけてはおりますが、もし誤字脱字などを発見されたら遠慮なく申して下さい。すぐに直します。 ・2023/3/11(女性向け)HOTランキング2位ありがとうございました😊

婚約は破棄なんですよね?

もるだ
恋愛
義理の妹ティナはナターシャの婚約者にいじめられていたと嘘をつき、信じた婚約者に婚約破棄を言い渡される。昔からナターシャをいじめて物を奪っていたのはティナなのに、得意の演技でナターシャを悪者に仕立て上げてきた。我慢の限界を迎えたナターシャは、ティナにされたように濡れ衣を着せかえす!

愛人がいる夫との政略結婚の行く末は?

しゃーりん
恋愛
子爵令嬢セピアは侯爵令息リースハルトと政略結婚した。 財政難に陥った侯爵家が資産家の子爵家を頼ったことによるもの。 初夜が終わった直後、『愛する人がいる』と告げたリースハルト。 まごうことなき政略結婚。教会で愛を誓ったけれども、もう無効なのね。 好きにしたらいいけど、愛人を囲うお金はあなたの交際費からだからね? 実家の爵位が下でも援助しているのはこちらだからお金を厳しく管理します。 侯爵家がどうなろうと構わないと思っていたけれど、将来の子供のために頑張るセピアのお話です。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

聖女の私を追放?ちょうど私も出て行こうとしていたところです

京月
恋愛
トランプ王国で聖女として働いていたリリスをあまりよく思わない王子ガドラ。リリスに濡れ衣を着せ追放を言い渡す。ガドラ「リリス、お前はこの国から追放だ!!」(ドヤ) リリス「ちょうど私もこの国を出ようとしていたところなんですよ」(ニコ) ガドラ「……え?」

婚約破棄と言うなら「時」と「場所」と「状況」を考えましょうか

ゆうぎり
恋愛
突然場所も弁えず婚約破棄を言い渡された。 確かに不仲ではあった。 お互い相性が良くないのは分かっていた。 しかし、婚約を望んできたのはそちらの家。 国の思惑も法も不文律も無視しての発言。 「慰謝料?」 貴方達が払う立場だと思うわ。 どれだけの貴族を敵に回した事か分かっているのかしら? 隣国で流行りだからといって考えなしな行動。 それとも考えての事だったのか? とても不思議な事です。 ※※※ゆるゆる設定です。 ※※※オムニバス形式。

結婚を先延ばしにされたのは婚約者が妹のことを好きだったからでした。妹は既婚者なので波乱の予感しかしません。

田太 優
恋愛
結婚を先延ばしにされ続け、私は我慢の限界だった。 曖昧な態度を取り続ける婚約者に婚約破棄する覚悟で結婚する気があるのか訊いたところ、妹のことが好きだったと言われ、婚約を解消したいと言われた。 妹は既婚者で夫婦関係も良好。 もし妹の幸せを壊そうとするなら私は容赦しない。

処理中です...