10年前にわたしを陥れた元家族が、わたしだと気付かずに泣き付いてきました

柚木ゆず

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第3話 元家族に思うこと テレーズ視点

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((……こんなことになっている理由なんて、どうでもいいですね。かつて家族だった人間たちが目の前にいて、雇って欲しいと言っている。ソレへの対応を考えましょう))

 あれこれ想像しても、答えが出るはずがない。そう気付いたわたしは、書類を確認するフリをしながら三人を見渡しました。

「よ、よろしくお願い致しますっ!」
「お願いっ、致しますっ!」
「お願い致しますっっ!」

 昔とは、大違い。低姿勢でペコペコしている、元父と母と姉。そんな姿を見ていたら――

 ドクン

 ――心臓が一回だけ強く鳴り、それを合図に心の奥底から『どす黒い感情』が湧いてくるのが分かりました。
 そこにいるのは、無関係の罪を着せた上に殺そうとした人間達。あまつさえ、一切悪びれなかった人間達です。

 ここはウチの事務所、この三人は檻に囚われているも同然。
 この状況と立場の差を利用して、心と身体に地獄の苦しみを与えてやりたい。
 かつてわたしにそうしようとしたように、苦しめたあと殺してやりたい。

 そんな気持ちが、瞬く間に心の中を満たしていきます。
 ですのですぐさま、それらを実行――したくなりますが……。小さく息を吐いて、どす黒い感情を体内から追い出しました。

((……殺す。そうしてしまったら、わたしは『資格』を失くしてしまうでしょうね))

 人間である資格。この農園で果物を育てる資格。家族の一員である資格。そしてなにより、あの人の隣にいる資格。
 それらをすべて、失ってしまうでしょう。

((こんな人間のために大事なものを失うのは、勿体ないですね。それに))

 この生き物達の様子を鑑みるに、放っておいても地獄が待っているでしょう。どうせ同じような目に遭うのですから、そちらで溜飲を下げるようにしましょう。

((……となれば、この人間に用はありませんね。さっさと目の前から消えてもらいましょう))

 面接の際に必ず出す質問を適当に投げかけて、返ってきた言葉に適当に相槌を打ち、義務的に行う三十分間の面接が終わりました。なので一応申し訳なそうな顔を作って、三人に『不合格』を伝えて――

「おっ、お待ちください! お考え直しを!!」

 ――不合格を伝えて退室を促そうとしていたら、イヴェットが――レジスさんとゾエさんも一緒になって走り寄ってきて、わたしの足元で両膝をつきました。

「わたくし達にはどうしてもお金が必要なのです! どうかっ、雇ってください!」
「我々はなんでも致します!」
「どんな雑用だってしますし、お給料は70パーセント――50パーセントでも構いませんっ! なにとぞお考え直しをっ!!」
「……申し訳ございません、この決定が覆ることはありません。わたくしにはこれから行わなければならないことがありますので、失礼致します」

 去るつもりがないなら外に出て、荒事の対処担当リンダーさんたちに頼んで園外に出してもらいましょう。そう思い踵を返していた、その時でした。
 おもわず……。
 足が止まってしまう言葉が、わたしの耳に飛び込んできたのでした。

「お願いですっ、どうかわたくし達を雇ってください! 実はっ、妹が――大事な妹・・・・が病気でしてっ! 愛する家族を・・・・・・救うために治療費を稼がないといけないんです!!」
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