7 / 24
第3話 元家族に思うこと テレーズ視点
しおりを挟む
((……こんなことになっている理由なんて、どうでもいいですね。かつて家族だった人間たちが目の前にいて、雇って欲しいと言っている。ソレへの対応を考えましょう))
あれこれ想像しても、答えが出るはずがない。そう気付いたわたしは、書類を確認するフリをしながら三人を見渡しました。
「よ、よろしくお願い致しますっ!」
「お願いっ、致しますっ!」
「お願い致しますっっ!」
昔とは、大違い。低姿勢でペコペコしている、元父と母と姉。そんな姿を見ていたら――
ドクン
――心臓が一回だけ強く鳴り、それを合図に心の奥底から『どす黒い感情』が湧いてくるのが分かりました。
そこにいるのは、無関係の罪を着せた上に殺そうとした人間達。あまつさえ、一切悪びれなかった人間達です。
ここはウチの事務所、この三人は檻に囚われているも同然。
この状況と立場の差を利用して、心と身体に地獄の苦しみを与えてやりたい。
かつてわたしにそうしようとしたように、苦しめたあと殺してやりたい。
そんな気持ちが、瞬く間に心の中を満たしていきます。
ですのですぐさま、それらを実行――したくなりますが……。小さく息を吐いて、どす黒い感情を体内から追い出しました。
((……殺す。そうしてしまったら、わたしは『資格』を失くしてしまうでしょうね))
人間である資格。この農園で果物を育てる資格。家族の一員である資格。そしてなにより、あの人の隣にいる資格。
それらをすべて、失ってしまうでしょう。
((こんな人間のために大事なものを失うのは、勿体ないですね。それに))
この生き物達の様子を鑑みるに、放っておいても地獄が待っているでしょう。どうせ同じような目に遭うのですから、そちらで溜飲を下げるようにしましょう。
((……となれば、この人間に用はありませんね。さっさと目の前から消えてもらいましょう))
面接の際に必ず出す質問を適当に投げかけて、返ってきた言葉に適当に相槌を打ち、義務的に行う三十分間の面接が終わりました。なので一応申し訳なそうな顔を作って、三人に『不合格』を伝えて――
「おっ、お待ちください! お考え直しを!!」
――不合格を伝えて退室を促そうとしていたら、イヴェットが――レジスさんとゾエさんも一緒になって走り寄ってきて、わたしの足元で両膝をつきました。
「わたくし達にはどうしてもお金が必要なのです! どうかっ、雇ってください!」
「我々はなんでも致します!」
「どんな雑用だってしますし、お給料は70パーセント――50パーセントでも構いませんっ! なにとぞお考え直しをっ!!」
「……申し訳ございません、この決定が覆ることはありません。わたくしにはこれから行わなければならないことがありますので、失礼致します」
去るつもりがないなら外に出て、荒事の対処担当に頼んで園外に出してもらいましょう。そう思い踵を返していた、その時でした。
おもわず……。
足が止まってしまう言葉が、わたしの耳に飛び込んできたのでした。
「お願いですっ、どうかわたくし達を雇ってください! 実はっ、妹が――大事な妹が病気でしてっ! 愛する家族を救うために治療費を稼がないといけないんです!!」
あれこれ想像しても、答えが出るはずがない。そう気付いたわたしは、書類を確認するフリをしながら三人を見渡しました。
「よ、よろしくお願い致しますっ!」
「お願いっ、致しますっ!」
「お願い致しますっっ!」
昔とは、大違い。低姿勢でペコペコしている、元父と母と姉。そんな姿を見ていたら――
ドクン
――心臓が一回だけ強く鳴り、それを合図に心の奥底から『どす黒い感情』が湧いてくるのが分かりました。
そこにいるのは、無関係の罪を着せた上に殺そうとした人間達。あまつさえ、一切悪びれなかった人間達です。
ここはウチの事務所、この三人は檻に囚われているも同然。
この状況と立場の差を利用して、心と身体に地獄の苦しみを与えてやりたい。
かつてわたしにそうしようとしたように、苦しめたあと殺してやりたい。
そんな気持ちが、瞬く間に心の中を満たしていきます。
ですのですぐさま、それらを実行――したくなりますが……。小さく息を吐いて、どす黒い感情を体内から追い出しました。
((……殺す。そうしてしまったら、わたしは『資格』を失くしてしまうでしょうね))
人間である資格。この農園で果物を育てる資格。家族の一員である資格。そしてなにより、あの人の隣にいる資格。
それらをすべて、失ってしまうでしょう。
((こんな人間のために大事なものを失うのは、勿体ないですね。それに))
この生き物達の様子を鑑みるに、放っておいても地獄が待っているでしょう。どうせ同じような目に遭うのですから、そちらで溜飲を下げるようにしましょう。
((……となれば、この人間に用はありませんね。さっさと目の前から消えてもらいましょう))
面接の際に必ず出す質問を適当に投げかけて、返ってきた言葉に適当に相槌を打ち、義務的に行う三十分間の面接が終わりました。なので一応申し訳なそうな顔を作って、三人に『不合格』を伝えて――
「おっ、お待ちください! お考え直しを!!」
――不合格を伝えて退室を促そうとしていたら、イヴェットが――レジスさんとゾエさんも一緒になって走り寄ってきて、わたしの足元で両膝をつきました。
「わたくし達にはどうしてもお金が必要なのです! どうかっ、雇ってください!」
「我々はなんでも致します!」
「どんな雑用だってしますし、お給料は70パーセント――50パーセントでも構いませんっ! なにとぞお考え直しをっ!!」
「……申し訳ございません、この決定が覆ることはありません。わたくしにはこれから行わなければならないことがありますので、失礼致します」
去るつもりがないなら外に出て、荒事の対処担当に頼んで園外に出してもらいましょう。そう思い踵を返していた、その時でした。
おもわず……。
足が止まってしまう言葉が、わたしの耳に飛び込んできたのでした。
「お願いですっ、どうかわたくし達を雇ってください! 実はっ、妹が――大事な妹が病気でしてっ! 愛する家族を救うために治療費を稼がないといけないんです!!」
79
お気に入りに追加
1,090
あなたにおすすめの小説


愛人がいる夫との政略結婚の行く末は?
しゃーりん
恋愛
子爵令嬢セピアは侯爵令息リースハルトと政略結婚した。
財政難に陥った侯爵家が資産家の子爵家を頼ったことによるもの。
初夜が終わった直後、『愛する人がいる』と告げたリースハルト。
まごうことなき政略結婚。教会で愛を誓ったけれども、もう無効なのね。
好きにしたらいいけど、愛人を囲うお金はあなたの交際費からだからね?
実家の爵位が下でも援助しているのはこちらだからお金を厳しく管理します。
侯爵家がどうなろうと構わないと思っていたけれど、将来の子供のために頑張るセピアのお話です。

こんな人とは頼まれても婚約したくありません!
Mayoi
恋愛
ダミアンからの辛辣な一言で始まった縁談は、いきなり終わりに向かって進み始めた。
最初から望んでいないような態度に無理に婚約する必要はないと考えたジュディスは狙い通りに破談となった。
しかし、どうしてか妹のユーニスがダミアンとの縁談を望んでしまった。
不幸な結末が予想できたが、それもユーニスの選んだこと。
ジュディスは妹の行く末を見守りつつ、自分の幸せを求めた。

残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください
mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。
「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」
大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です!
男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。
どこに、捻じ込めると言うのですか!
※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

聖女の私を追放?ちょうど私も出て行こうとしていたところです
京月
恋愛
トランプ王国で聖女として働いていたリリスをあまりよく思わない王子ガドラ。リリスに濡れ衣を着せ追放を言い渡す。ガドラ「リリス、お前はこの国から追放だ!!」(ドヤ) リリス「ちょうど私もこの国を出ようとしていたところなんですよ」(ニコ) ガドラ「……え?」

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪
百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。
でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。
誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。
両親はひたすらに妹をスルー。
「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」
「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」
無理よ。
だって私、大公様の妻になるんだもの。
大忙しよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる