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第3話 提示と要求 俯瞰視点(1)

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「手紙では伝えられない、非常に大事な話が俺にあるそうだね? いったい何なのかな、ミレーユ嬢」

 白磁の城。そんな印象を受ける、大きく豪奢な建造物・ネズザルク侯爵邸。その中にある、煌びやかな空間・応接室。
 そこでは、指や首に貴金属を纏った美男が――この家の嫡男ジャックが、優雅に足を組んでいました。

「今日はこのあと商会絡みの会合があってね、無理をして予定を空けているんだよ。申し訳ないが、早々に伝えてもらえるかな?」
「畏まりました。では、お伝えいたしますね」

 どうしてもと言うから、わざわざ付き合ってやっているんだ――。感謝しろよ――。
 そんな視線をミレーユは淡々と受け止め、要望に応えるべく口を動かしてゆきます。

「フロリアーヌ・オフェティリア様。本日は貴方様の婚約者様に関する、抗議を行いに参りました」

『どんなに頑張ってもわたし達の1000分の1も稼げないけれど、それでも羨ましいわぁ。わたしもそういうレベルの低い方と一緒になれば、できていたのだけれど……。残念だわ』

『持ちすぎる方が婚約者だと、こういう苦労もあるんですの。本当に、持ち過ぎない方を婚約者とした貴方様が羨ましいですわぁ』

『でもそれは、仕方がないことですよねぇ。優秀な人のもとには優秀な人が来る、優秀じゃない人には優秀じゃない人が来る。そう決まっているんですもの』

 などなど。忘れもしないあの夜の発言、その際の表情を、事細かに伝えました。

「あらゆる侮辱を平然と行われ、私は憤りを感じております。ですので――」
「俺に注意をしてもらいたい、謝罪を促してもらいたい。それが君の目的なのか」

 ミレーユの言葉は遮られ、その直後でした。ジャックの口からは、呆れのため息が吐き出されました。

「バカバカしい。フロリアーヌは自慢などする女ではない。言いがかりはやめてもらおうか」
「……ネズザルク様。証拠はなく目撃者もいませんが・・・・・・・・・・・・・・、私は事実を申し上げて――」
「彼女がそんな真似をしない人間だということは、俺が誰よりも分かっている。証拠があり目撃者でもいれば話は変わってくるが、ないのだろう? ならこれ以上話すことはない、可及的速やかに出ていってくれ」

 ジャックはもちろん、それは事実だと感じていました。ですが『子爵家如きに従うつもりはない』という感情がありました。
 ですので相手の言葉を利用し、このような形で手っ取り早く終わらせにかかったのです。


 ――すでに、ミレーユ達の術中にはまっているとも知らずに――。

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