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番外編その2 在学時の出来事~叱責と反論と、~ 俯瞰視点(1)
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「トリスタン、確認しておきたいことがある。学院の生徒会選挙での支持率が、2番手となっているとの情報を得たのだが――。それは事実なのか?」
生徒会選挙が始まって、3週間目――ちょうど、活動期間の半分が経過した頃。ロールド邸内にある応接室では、苛立ちを含んだ声が響いていました。
この声を出している、ややヒステリックな印象を受ける細身の中年男性。彼は、現当主の弟ドナルド。トリスタンの叔父にあたる人物でした。
「オレも兄さんも、父も、祖父も、曾祖父、その前も。在籍時は全員が、生徒会長に任命されている。わが家(いえ)にとっての『指定席』に、座れなくなってしまう可能性が高い――。その情報は、間違いないものなのか?」
「はい、叔父上。間違いございません」
選挙管理委員の発表によると――現在の生徒間支持率は、リュシア子爵家のマリエットが全体の44%。トリスタンが、42%となっていました。
現段階での差は2%と僅かではあるものの、彼女が相手ならば、逆転はまず叶わないだろう。トリスタンはそう考えており、静かに頷きを返しました。
「っっ! なにが『間違いございません』だっ!! トリスタンっ!! お前はこの状況が分かっているのか!?」
ダン! と。両者の間にあったテーブルに拳が乱暴に振り下ろされ、更なる大声が響き渡ります。
「ロールド家始まって以来の、副会長が誕生してしまうのだぞ!? これまで我々偉大なる先人が築き上げてきたものに泥を塗ろうとしているのだぞ!?」
「はい、承知しております。申し訳ございません」
「謝って済む問題ではない!! この出来事は一生涯っ、永遠にっ、残ってしまうのだぞっっ!? それが分かっているのか!?」
「はい、理解しておりま――」
「いいやお前は理解できていない!! これがどれだけの事なのかを、全く理解できていないっ!! お前はロールドの名を汚したのだぞ!! こんな人間が次期当主とは……!! ロールド家の未来は不安だ!!」
トリスタンを遮って捲し立て、まだ、終わりません。こういった事を執拗に繰り返し、荒々しく叱責をします。
一族の名に傷がつくと、自分にも悪影響が出るかもしれないこと――。かつて自分が、そして今回は息子が次期当主に選ばれず、ずっと腹が立っていたこと――。そんな理由で感情を露わにし、トリスタンはそれをじっと受け入れます。
ですが――。
そんな時間は、そんな関係は。とある出来事を切っ掛けにして――
「しかもだっ!! 負けている相手は、子爵家の人間なのだぞ!? 情けない!! 明らかに格下の者に劣って悔しくはないのか!? ゴミみたいな女に敗れてなんとも思わないのかっ!?」
――マリエットへの罵倒を切っ掛けとして、大きく変わることになるのでした。
「………………叔父上。彼女は立派な人間だ。ゴミなどではありませんよ」
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「はい、叔父上。間違いございません」
選挙管理委員の発表によると――現在の生徒間支持率は、リュシア子爵家のマリエットが全体の44%。トリスタンが、42%となっていました。
現段階での差は2%と僅かではあるものの、彼女が相手ならば、逆転はまず叶わないだろう。トリスタンはそう考えており、静かに頷きを返しました。
「っっ! なにが『間違いございません』だっ!! トリスタンっ!! お前はこの状況が分かっているのか!?」
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「ロールド家始まって以来の、副会長が誕生してしまうのだぞ!? これまで我々偉大なる先人が築き上げてきたものに泥を塗ろうとしているのだぞ!?」
「はい、承知しております。申し訳ございません」
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「はい、理解しておりま――」
「いいやお前は理解できていない!! これがどれだけの事なのかを、全く理解できていないっ!! お前はロールドの名を汚したのだぞ!! こんな人間が次期当主とは……!! ロールド家の未来は不安だ!!」
トリスタンを遮って捲し立て、まだ、終わりません。こういった事を執拗に繰り返し、荒々しく叱責をします。
一族の名に傷がつくと、自分にも悪影響が出るかもしれないこと――。かつて自分が、そして今回は息子が次期当主に選ばれず、ずっと腹が立っていたこと――。そんな理由で感情を露わにし、トリスタンはそれをじっと受け入れます。
ですが――。
そんな時間は、そんな関係は。とある出来事を切っ掛けにして――
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「………………叔父上。彼女は立派な人間だ。ゴミなどではありませんよ」
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(他「エブリスタ」様に投稿)
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