上 下
38 / 48

番外編その2 在学時の出来事~叱責と反論と、~ 俯瞰視点(1)

しおりを挟む
「トリスタン、確認しておきたいことがある。学院の生徒会選挙での支持率が、2番手となっているとの情報を得たのだが――。それは事実なのか?」

 生徒会選挙が始まって、3週間目――ちょうど、活動期間の半分が経過した頃。ロールド邸内にある応接室では、苛立ちを含んだ声が響いていました。
 この声を出している、ややヒステリックな印象を受ける細身の中年男性。彼は、現当主の弟ドナルド。トリスタンの叔父にあたる人物でした。

「オレも兄さんも、父も、祖父も、曾祖父、その前も。在籍時は全員が、生徒会長に任命されている。わが家(いえ)にとっての『指定席』に、座れなくなってしまう可能性が高い――。その情報は、間違いないものなのか?」
「はい、叔父上。間違いございません」

 選挙管理委員の発表によると――現在の生徒間支持率は、リュシア子爵家のマリエットが全体の44%。トリスタンが、42%となっていました。
 現段階での差は2%と僅かではあるものの、彼女が相手ならば、逆転はまず叶わないだろう。トリスタンはそう考えており、静かに頷きを返しました。

「っっ! なにが『間違いございません』だっ!! トリスタンっ!! お前はこの状況が分かっているのか!?」

 ダン! と。両者の間にあったテーブルに拳が乱暴に振り下ろされ、更なる大声が響き渡ります。

「ロールド家始まって以来の、副会長が誕生してしまうのだぞ!? これまで我々偉大なる・・・・先人が築き上げてきたものに泥を塗ろうとしているのだぞ!?」
「はい、承知しております。申し訳ございません」
「謝って済む問題ではない!! この出来事は一生涯っ、永遠にっ、残ってしまうのだぞっっ!? それが分かっているのか!?」
「はい、理解しておりま――」
「いいやお前は理解できていない!! これがどれだけの事なのかを、全く理解できていないっ!! お前はロールドの名を汚したのだぞ!! こんな人間が次期当主とは……!! ロールド家の未来は不安だ!!」

 トリスタンを遮って捲し立て、まだ、終わりません。こういった事を執拗に繰り返し、荒々しく叱責をします。
 一族の名に傷がつくと、自分にも悪影響が出るかもしれないこと――。かつて自分が、そして今回は息子が次期当主に選ばれず、ずっと腹が立っていたこと――。そんな理由で感情を露わにし、トリスタンはそれをじっと受け入れます。

 ですが――。

 そんな時間は、そんな関係は。とある出来事を切っ掛けにして――

「しかもだっ!! 負けている相手は、子爵家の人間なのだぞ!? 情けない!! 明らかに格下の者に劣って悔しくはないのか!? ゴミみたいな女に敗れてなんとも思わないのかっ!?」

 ――マリエットへの罵倒を切っ掛けとして、大きく変わることになるのでした。

「………………叔父上。彼女は立派な人間だ。ゴミなどではありませんよ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。 妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。 しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。 父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。 レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。 その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。 だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

わがままな妹に『豚男爵』との結婚を押し付けられましたが、実際はとんでもないイケメンでした。

水垣するめ
恋愛
主人公イザベルは義理の妹と母に虐められて育ってきた。 そんな中、わがまま妹フェリシーに『豚男爵』と呼ばれている男爵との婚約を押し付けられる。 逆らうことが出来ないので向かったが、イザベルを迎えたのは『豚男爵』とは似ても似つかない超絶イケメンだった。

【完結】嫁ぎたくないと叫んだ妹の代わりに、私が嫁ぐ事になりました。

紫宛
恋愛
※素人作品、ご都合主義、ゆるふわ設定※ 3月30日、あらすじ訂正しました。 欲求→要求。変わる→代わる。ご指摘ありがとうございました(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝) 私達の家系は、代々龍神の巫女を担ってきた。龍神の巫女とは、龍神を癒す者の事です。龍神を癒し力を貸して貰うんです。 妹は、龍神の中でも最も力ある龍神王を呼び出しました。姉である私は、小さな龍神様と契約しました。 蛮国と噂される、砂漠に囲まれた隣国サンドリア王国国王が、妹に結婚を申し込んだ。 しかし、妹は……蛮国に嫁ぐなんて嫌よ!と叫んだ。 可愛く、愛らしい妹を溺愛する両親は、姉を身代わりにする事を決定した。姉の婚約者も、王も、妹を庇い姉を身代わりにする事に賛成した。 双子とは言え、愛されない姉は痩せ細りみすぼらしい。身代わっても直ぐにバレると思っていた。もちろん隣国の王は直ぐに身代わりと気付くが、様子見を決定した。 結婚式の日、妹は家族と共に隣国に渡る。 初めて見た王に一目惚れした妹は、姉に代わるよう要求した…… しかし…… 龍神王は果たして、本当は誰の元に降りたのか…… プロローグ含め、本編6話完結+おまけ2話。

婚約破棄されたので30キロ痩せたら求婚が殺到。でも、選ぶのは私。

百谷シカ
恋愛
「私より大きな女を妻と呼べるか! 鏡を見ろ、デブ!!」 私は伯爵令嬢オーロラ・カッセルズ。 大柄で太っているせいで、たった今、公爵に婚約を破棄された。 将軍である父の名誉を挽回し、私も誇りを取り戻さなくては。 1年間ダイエットに取り組み、運動と食事管理で30キロ痩せた。 すると痩せた私は絶世の美女だったらしい。 「お美しいオーロラ嬢、ぜひ私とダンスを!」 ただ体形が変わっただけで、こんなにも扱いが変わるなんて。 1年間努力して得たのは、軟弱な男たちの鼻息と血走った視線? 「……私は着せ替え人形じゃないわ」 でも、ひとりだけ変わらない人がいた。 毎年、冬になると砂漠の別荘地で顔を合わせた幼馴染の伯爵令息。 「あれっ、オーロラ!? なんか痩せた? ちゃんと肉食ってる?」 ダニエル・グランヴィルは、変わらず友人として接してくれた。 だから好きになってしまった……友人のはずなのに。 ====================== (他「エブリスタ」様に投稿)

処理中です...