1 / 48
プロローグ
しおりを挟む
「…………決めたわ、キトリー。私はもう、抵抗はやめるわ」
リュシア子爵家邸内の2階にある、小さめの部屋。自室の隅で三角座りをしていた私は、侍女にそう告げた。
『あら。マリエットお姉様のリング、よく見ると可愛いですわ。ねえお姉様、コレ頂戴』
『お前は、お姉ちゃんだろう。渡しなさい』
『「おじい様とおばあ様に、最期に買ってもらったものだから駄目」、ですって? そんなこと、知ったことではないわ。いいから、ミレーヌに渡しなさい』
私の実妹・ミレーヌは、私から宝物を奪うことに悦びを感じてしまう子。
実父・ドミニクと実母・ノエラは、自分達によく似ているミレーヌを最優先にする人。
そのため私は長年こういった目に遭い続けて、長年懸命に抵抗していた。
『ご、ごめんなさい、ミレーヌ。ミレーヌが欲しがっていたリングは、どこかで落としてしまったみたい』
全部そうするのは、不自然になってしまうから無理だったけど……。その中でも特に大事なものを狙われた時は嘘を吐いて隠し、奪われないようにしていた。
でも……。
それが通用したのは、今日まで。私の小さな抵抗は、1時間前にあっさりと破られてしまった。
『お姉様、み~つけた。こんなところに隠していたんですのね』
今日は、7年前に亡くなられたおじい様とおばあ様の命日。私がお墓参りから帰ってきたら、部屋のカギがこじ開けられていて……。クローゼットの一番奥に隠していた箱は――これまで隠していたものが詰まった箱は、ミレーヌの手に落ちてしまっていた。
『すっかり騙されていましたわ。けれど、それも今日まで。リングもネックレスもイヤリングも、わたくしが貰っておきますわ』
『無論、拒否は不可能だぞ。長年嘘を吐いた罰だ』
『次にこんな真似をしたら、ただではおかないわよ。二度とこんな小細工はしないようにしなさい』
おじい様とおばあ様からのプレゼントや形見を全て奪われてしまい、両親に訴えても意味はなし。無断侵入を咎められないどころか逆に私が叱責され、こうやって1時間泣き続けていたのだ。
「お嬢様……。わたくしは、自分が情けないです……っ。これまで殆どお助けすることができず、こうしてお心が折れてしまわれても何もできない……。忸怩たる思いしかございません……」
「貴方はウチに雇われた侍女兼護衛なのだから、仕方がないわよ。……それにね、キトリー。私の心は、折れてはいないわ」
ウサギのようになった目にまとわりついている、大粒の涙達。ソレらをハンカチで拭った私は、力強く立ち上がった。
「ついさっきね、おじい様とおばあ様のお声が聞こえてきたの。『『泣かないで、マリー』』『わたし達はいつもマリーを見ているよ』『物がなくても、いつも一緒だよ』って、言ってくれたの」
聞き間違いや願望なんかではない。あの時確かにそっと抱き締められている感覚があって、左右の耳にそんな声が流れ込んできた。
「お二人が……。そう、だったのですね……っ」
「それでね、そのおかげで考えが変わったの。今の私にとって、物は重要じゃないのよ」
一番大切なのは、思い出。それさえあれば悲しくないって、思うようになった。
「だから私はもう平気で、あれこれ考えてアホの相手をする時間が勿体ないって思ってる。抵抗なんてバカバカしいことはやめて、自由に、あの3人を意識せずに生きていくと決めたのよ」
隠している箱が見つからないか、いっつも気にする。次は何を狙われるのだろうかと、いっつも不安に思う。ミレーヌの玩具にされて翻弄される日々は、もうお仕舞い。
今日から私は妹や両親の存在を気にせず、のびのび生きていくと決めたのだ。
リュシア子爵家邸内の2階にある、小さめの部屋。自室の隅で三角座りをしていた私は、侍女にそう告げた。
『あら。マリエットお姉様のリング、よく見ると可愛いですわ。ねえお姉様、コレ頂戴』
『お前は、お姉ちゃんだろう。渡しなさい』
『「おじい様とおばあ様に、最期に買ってもらったものだから駄目」、ですって? そんなこと、知ったことではないわ。いいから、ミレーヌに渡しなさい』
私の実妹・ミレーヌは、私から宝物を奪うことに悦びを感じてしまう子。
実父・ドミニクと実母・ノエラは、自分達によく似ているミレーヌを最優先にする人。
そのため私は長年こういった目に遭い続けて、長年懸命に抵抗していた。
『ご、ごめんなさい、ミレーヌ。ミレーヌが欲しがっていたリングは、どこかで落としてしまったみたい』
全部そうするのは、不自然になってしまうから無理だったけど……。その中でも特に大事なものを狙われた時は嘘を吐いて隠し、奪われないようにしていた。
でも……。
それが通用したのは、今日まで。私の小さな抵抗は、1時間前にあっさりと破られてしまった。
『お姉様、み~つけた。こんなところに隠していたんですのね』
今日は、7年前に亡くなられたおじい様とおばあ様の命日。私がお墓参りから帰ってきたら、部屋のカギがこじ開けられていて……。クローゼットの一番奥に隠していた箱は――これまで隠していたものが詰まった箱は、ミレーヌの手に落ちてしまっていた。
『すっかり騙されていましたわ。けれど、それも今日まで。リングもネックレスもイヤリングも、わたくしが貰っておきますわ』
『無論、拒否は不可能だぞ。長年嘘を吐いた罰だ』
『次にこんな真似をしたら、ただではおかないわよ。二度とこんな小細工はしないようにしなさい』
おじい様とおばあ様からのプレゼントや形見を全て奪われてしまい、両親に訴えても意味はなし。無断侵入を咎められないどころか逆に私が叱責され、こうやって1時間泣き続けていたのだ。
「お嬢様……。わたくしは、自分が情けないです……っ。これまで殆どお助けすることができず、こうしてお心が折れてしまわれても何もできない……。忸怩たる思いしかございません……」
「貴方はウチに雇われた侍女兼護衛なのだから、仕方がないわよ。……それにね、キトリー。私の心は、折れてはいないわ」
ウサギのようになった目にまとわりついている、大粒の涙達。ソレらをハンカチで拭った私は、力強く立ち上がった。
「ついさっきね、おじい様とおばあ様のお声が聞こえてきたの。『『泣かないで、マリー』』『わたし達はいつもマリーを見ているよ』『物がなくても、いつも一緒だよ』って、言ってくれたの」
聞き間違いや願望なんかではない。あの時確かにそっと抱き締められている感覚があって、左右の耳にそんな声が流れ込んできた。
「お二人が……。そう、だったのですね……っ」
「それでね、そのおかげで考えが変わったの。今の私にとって、物は重要じゃないのよ」
一番大切なのは、思い出。それさえあれば悲しくないって、思うようになった。
「だから私はもう平気で、あれこれ考えてアホの相手をする時間が勿体ないって思ってる。抵抗なんてバカバカしいことはやめて、自由に、あの3人を意識せずに生きていくと決めたのよ」
隠している箱が見つからないか、いっつも気にする。次は何を狙われるのだろうかと、いっつも不安に思う。ミレーヌの玩具にされて翻弄される日々は、もうお仕舞い。
今日から私は妹や両親の存在を気にせず、のびのび生きていくと決めたのだ。
172
あなたにおすすめの小説
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?
江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。
大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて……
さっくり読める短編です。
異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。
妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。
雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」
妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。
今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。
私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。
両親に溺愛されて育った妹の顛末
葉柚
恋愛
皇太子妃になるためにと厳しく育てられた私、エミリアとは違い、本来私に与えられるはずだった両親からの愛までも注ぎ込まれて溺愛され育てられた妹のオフィーリア。
オフィーリアは両親からの過剰な愛を受けて愛らしく育ったが、過剰な愛を受けて育ったために次第に世界は自分のためにあると勘違いするようになってしまい……。
「お姉さまはずるいわ。皇太子妃になっていずれはこの国の妃になるのでしょう?」
「私も、この国の頂点に立つ女性になりたいわ。」
「ねえ、お姉さま。私の方が皇太子妃に相応しいと思うの。代わってくださらない?」
妹の要求は徐々にエスカレートしていき、最後には……。
婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?
百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」
あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。
で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。
そんな話ある?
「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」
たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。
あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね?
でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する?
「君の妹と、君の婚約者がね」
「そう。薄情でしょう?」
「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」
「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」
イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。
あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。
====================
(他「エブリスタ」様に投稿)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる