6 / 16
第3話 旧と新 アンリエット視点
しおりを挟む
「アンリエット。暴力と暴言の件を含め、不自然な点が多いと感じると思う。でも、全てに裏はないんだよ。俺は君に、ひとつも嘘を吐いてはいないんだ」
僅か1時間での手のひら返し。その理由を考えていたら、フェルナン様はまた自虐含みで唇を噛みました。
「俺があんな風に……半ば勢いで信じ込んで話を進めてしまったから、おかしなことになってしまった……。あのね、アンリエット。どうしてあんなにも急に、大した裏どりもせず俺らしくない行動を取ったのかというとね……。婚約者になった人に、嘘を吐かれたことが辛かったんだよ……」
婚約する際にわたしは、これまでの人生で後ろめたいことは一度もしておりません、とお伝えしました。
なのに、自分の知らないところで嫌がらせをしていた。
現場を見てしまった。
それによってショックを受け、ショックを受けたことで感情が爆発し、そのまま婚約破棄を宣告してしまったそうです。
「実はね……俺は、君に恋をして始めていたんだよ。3か月間多くの時間を過ごすようになって、素敵な部分を沢山知って……。異性として、意識するようになっていたんだ」
「……そう、だったのですね」
「恋をしたのは生まれて初めてで、恥ずかしくて言えなかったけどそうだったんだ。言い訳させてもらうと、そんな気持ちがショックを増幅させたんだと思う……」
「………………」
「君に特別な感情を抱いていなければ……もっと落ち着いてあの状況を俯瞰できていて、すぐにジュリーの思惑に気付けたはずだ。私情によって思い込み、先走ってしまうだなんて……。将来の商会頭としても、男としても失格だよ」
「………………」
「だから身を引くべきだと思ったんだけど、やっぱり、諦めきれなかった。だから急いで追いかけさせてもらって……。こうして、お願いをさせてもらってます」
曇りひとつないように見える、真摯な目。澄んだ目で真っすぐにわたしを見つめ、フェルナン様はゆっくりと片膝をつきました。
「アンリエット、俺にもう一度君とやり直す資格を与えてはくれませんか? あんな過ちは二度としないと誓いますから。一回だけ、こんな俺にチャンスをくれませんか?」
一言一言、噛み締めるように紡いでいって。最後の言葉を発したと同時に、フェルナン様の右腕が静かに動き始めます。
それはまるで劇のヒーローのように、真剣さだけを宿してわたしへと――
「面白い話をしていますね。僕も混ぜてもらいましょうか」
――わたしへと右手を差し出していた、その時でした。
背後から不意に、聞き覚えのあるお声が響いてきたのでした。
僅か1時間での手のひら返し。その理由を考えていたら、フェルナン様はまた自虐含みで唇を噛みました。
「俺があんな風に……半ば勢いで信じ込んで話を進めてしまったから、おかしなことになってしまった……。あのね、アンリエット。どうしてあんなにも急に、大した裏どりもせず俺らしくない行動を取ったのかというとね……。婚約者になった人に、嘘を吐かれたことが辛かったんだよ……」
婚約する際にわたしは、これまでの人生で後ろめたいことは一度もしておりません、とお伝えしました。
なのに、自分の知らないところで嫌がらせをしていた。
現場を見てしまった。
それによってショックを受け、ショックを受けたことで感情が爆発し、そのまま婚約破棄を宣告してしまったそうです。
「実はね……俺は、君に恋をして始めていたんだよ。3か月間多くの時間を過ごすようになって、素敵な部分を沢山知って……。異性として、意識するようになっていたんだ」
「……そう、だったのですね」
「恋をしたのは生まれて初めてで、恥ずかしくて言えなかったけどそうだったんだ。言い訳させてもらうと、そんな気持ちがショックを増幅させたんだと思う……」
「………………」
「君に特別な感情を抱いていなければ……もっと落ち着いてあの状況を俯瞰できていて、すぐにジュリーの思惑に気付けたはずだ。私情によって思い込み、先走ってしまうだなんて……。将来の商会頭としても、男としても失格だよ」
「………………」
「だから身を引くべきだと思ったんだけど、やっぱり、諦めきれなかった。だから急いで追いかけさせてもらって……。こうして、お願いをさせてもらってます」
曇りひとつないように見える、真摯な目。澄んだ目で真っすぐにわたしを見つめ、フェルナン様はゆっくりと片膝をつきました。
「アンリエット、俺にもう一度君とやり直す資格を与えてはくれませんか? あんな過ちは二度としないと誓いますから。一回だけ、こんな俺にチャンスをくれませんか?」
一言一言、噛み締めるように紡いでいって。最後の言葉を発したと同時に、フェルナン様の右腕が静かに動き始めます。
それはまるで劇のヒーローのように、真剣さだけを宿してわたしへと――
「面白い話をしていますね。僕も混ぜてもらいましょうか」
――わたしへと右手を差し出していた、その時でした。
背後から不意に、聞き覚えのあるお声が響いてきたのでした。
15
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
婚約者と家族に裏切られた公爵令嬢は復讐の鬼となる
ルー
恋愛
その日はヒルテミィナ王国王宮でパーティーがひらかれていた。王太子ヴィオの婚約者フェナ・レディアナ公爵令嬢は失意のうちにいた。それもそのはずついさっき婚約者であった王太子ヴィオに婚約破棄を告げられたのだった。理由は聖女であるフェナの妹リーナを虐めた、だった。フェナは無罪を主張した。しかし結局のことは捕まり、地下牢にいれられていた。そして今に至る。
私をはめた妹、私を切り捨てた元婚約者の王子――私を貶めた者たちは皆新たな時代に達するまで生き延びられませんでした。
四季
恋愛
私をはめた妹、私を切り捨てた元婚約者の王子――私を貶めた者たちは皆新たな時代に達するまで生き延びられませんでした。
完結 勇者様、己の実力だといつから勘違いしてたんですか?
音爽(ネソウ)
恋愛
勇者だと持ち上げられた彼はこれまでの功績すべてが自分のものと思い込む。
たしかに前衛に立つ彼は目立つ存在だった、しかしペアを組んだ彼女がいてこそなのだが……。
婚約破棄にはなりました。が、それはあなたの「ため」じゃなく、あなたの「せい」です。
百谷シカ
恋愛
「君がふしだらなせいだろう。当然、この婚約は破棄させてもらう」
私はシェルヴェン伯爵令嬢ルート・ユングクヴィスト。
この通りリンドホルム伯爵エドガー・メシュヴィツに婚約破棄された。
でも、決して私はふしだらなんかじゃない。
濡れ衣だ。
私はある人物につきまとわれている。
イスフェルト侯爵令息フィリップ・ビルト。
彼は私に一方的な好意を寄せ、この半年、あらゆる接触をしてきた。
「君と出会い、恋に落ちた。これは運命だ! 君もそう思うよね?」
「おやめください。私には婚約者がいます……!」
「関係ない! その男じゃなく、僕こそが君の愛すべき人だよ!」
愛していると、彼は言う。
これは運命なんだと、彼は言う。
そして運命は、私の未来を破壊した。
「さあ! 今こそ結婚しよう!!」
「いや……っ!!」
誰も助けてくれない。
父と兄はフィリップ卿から逃れるため、私を修道院に入れると決めた。
そんなある日。
思いがけない求婚が舞い込んでくる。
「便宜上の結婚だ。私の妻となれば、奴も手出しできないだろう」
ランデル公爵ゴトフリート閣下。
彼は愛情も跡継ぎも求めず、ただ人助けのために私を妻にした。
これは形だけの結婚に、ゆっくりと愛が育まれていく物語。
馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます
白桃
恋愛
子爵令嬢のメアリーの元に届けられた婚約者の第三王子ポールからの手紙。
そこには毎回毎回勝手に遊び回って自分一人が楽しんでいる報告と、メアリーを馬鹿にするような言葉が書きつられていた。
最初こそ我慢していた聖女のように優しいと誰もが口にする令嬢メアリーだったが、その堪忍袋の緒が遂に切れ、彼女は叫ぶのだった。
『あの馬鹿王子にこちらから婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』
一体だれが悪いのか?それはわたしと言いました
LIN
恋愛
ある日、国民を苦しめて来たという悪女が処刑された。身分を笠に着て、好き勝手にしてきた第一王子の婚約者だった。理不尽に虐げられることもなくなり、ようやく平和が戻ったのだと、人々は喜んだ。
その後、第一王子は自分を支えてくれる優しい聖女と呼ばれる女性と結ばれ、国王になった。二人の優秀な側近に支えられて、三人の子供達にも恵まれ、幸せしか無いはずだった。
しかし、息子である第一王子が嘗ての悪女のように不正に金を使って豪遊していると報告を受けた国王は、王族からの追放を決めた。命を取らない事が温情だった。
追放されて何もかもを失った元第一王子は、王都から離れた。そして、その時の出会いが、彼の人生を大きく変えていくことになる…
※いきなり処刑から始まりますのでご注意ください。
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる