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プロローグ アンリエット視点

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「一つ目のお話を聞いた時は、どうなることかと思いましたよ。アンリエット、よかったですね」
「ええ、そうですねレリア。とても悪い記憶は、とても良い記憶で上書きしてもらえた。こんなにも嬉しい、幸せなことはありません」

 学院を卒業して1年後に行われる、母校の伝統行事となっている『同窓パーティー』。その帰路――馬車の中でわたしは、対面にいる侍女と護衛を兼ねた友人に笑みを返しました。

 今夜起きた、とても悪い記憶。それは、突然起きた嘘だらけの婚約破棄でした。


『アロメリス伯爵令嬢、アンリエット。お前との婚約を破棄する』

 学院時代の同級生である、レーズリック子爵家のジュリー様。わたしはパーティーやお茶会でジュリー様に会うたびに、『子爵家令嬢のくせに生意気だ』などと密かに嫌がらせをしていたそう。

『蛮行に耐えられなくなった彼女がお前の婚約者である俺に助けを求め、その主張を信じられずにいたが……。さっきお前たち2人がコッソリ会っているところを陰で監視し、暴言を吐き暴力を振るっている姿を目撃した。だから婚約破棄をすることにしたんだ』

『あいにくその証拠はこの場で出せないが、この目と耳が確かに見て聞いた。罪には問えないがある程度の罰を与えることはできるからな。皆(みな)がいる前で事実を突きつけ、お前との関係を絶つことにしたんだ』

 そのため三か月前に政略的な婚約を行ったタズアール伯爵家の嫡男フェルナン様が、パーティーの終盤で不意にそう言い放ったのです。


「……わたしはジュリー様に『大切なお話がある』と裏庭に呼び出されていて、実際に二人きりで会ってしまっていた。そのせいで信憑性が生まれてしまっていて……。同級生のみなさんから、白い目で見られるようになってしまった……」

 どんなに否定しても信用してもらえなくて、冷めた目が360度から飛んでくる。
 それは『辛い』という言葉では表しきれない程のものがあり、悔しさと合わさって思わず涙が零れてしまいました。

「でも。そんな悔し涙は、嬉し涙へと変わるのですよね?」
「うん、そう。わたしは俯いてしまって、パーティー会場から逃げ出そうとしていたその時――」

「あんりえっとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 大事な話があるんだああああああああああああああああああああ!! 馬車をとめてくれぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 レリアに頷きながら、言葉を紡いでいた時でした。突如車内に、そんな大声が響いてきました。

「…………噂をすれば、なんとやら。あの声は、フェルナンのそれですね」
「そうですね。でも……レリア。わたし達が話しをしているのは、動いている馬車の中ですよね?」
「はい。間違いなく、わたくしたちは移動中の馬車にいます」
「そんな状態でも、こんな大きさで聞こえてくるだんて。あの方はどれだけ声を張っているのかしら。信じられない――そんなことを言っている場合ではありませんね。ターニックさん、馬車を停めてください」

 あの方のお顔は二度と見たくなかったけど、ここまでの声を出す理由が気になった。そこで御者に頼んで安全な場所で停めてもらい、護衛も務めてくれているレリアと共に外へと出ました。

「あ、ありがとう! ありがとうアンリエットっ!! まずはっ、単刀直入に言わせてもらうねっ!」

 そうすると、大急ぎで馬車を降りてきたフェルナン様が全力疾走でやって来て――。
 信じられないことを、仰られたのでした。


「さっき行った婚約破棄をっ、撤回したい! アンリエットっ、君と再び婚約させて欲しいんだ!!」



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