わたし、何度も忠告しましたよね?

柚木ゆず

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第10話 3つめの異変 ミシェル視点(5)

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「……エリア―ヌ様とクレール様は、残念ながら学院に戻ってはこられませんでした。お二人ができなかったこと……学院に戻ることができたのならば、助かるのではないでしょうか……?」

 学院からお屋敷に移動してスイッチが入るのならば、お屋敷から学院に移動すればスイッチは切れるのではないか? それが、アンナの言い分だった。

「卒業後はちゃんとお屋敷に戻れるのか……そちらは分かりません。が、少なくともこのまま最悪の事態に陥ってしまうことは、防げるのではないかと思います」
「っっ! お手柄ですわ!!」

 そうよ! そうだわ! きっとそう!
 学院に戻れば助かるっ!!

「アンナ! そうと分かればすぐ戻りますわよ!!」

 深夜の移動は危険。それでも、このままここに居続けるよりは遥かに安全なんだもの。
 寝間着のまま急いで部屋を飛び出し――飛び出そうとして、止まる。

「ドッペルゲンガーは……。目が合ってしまうことが、悲劇発生の条件だったわよね?」
「は、はい。そのように言われております」
「目の前にドッペルゲンガーが現れても目が合ってしまわないように、わたくしは目を閉じていますわ。手を引いてお父様のもとに連れていって頂戴」
「承知いたしました」

 そうしてアンナに導かれてお父様の部屋を訪ね、事情を説明して大急ぎで馬車の準備をしてもらい、出発する。

「お屋敷を離れたら、もう出てこないはず。よね……?」
「そういった保証はございません。念のために、到着するまではこちらをおつけください」
「それは、目隠し……? そうね。目隠しをしておくわ」

 これなら目が合う心配はない……と思うけど、相手は常識が通じない人外。化け物のようなもの。
 どんな不測の事態が起きるか分からないから、それでも心配。ものすごい速さで心臓が鳴り続ける。

 ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン!!

 普段の倍以上の速さで脈を打ち続けたまま、緊張で手足が氷のように冷たくなったまま、移動を続ける。

 ――1分が1時間以上にも感じる、異常な時を流れを感じながら――。

 安全地帯……聖域への到着を、目指す。
 ……大丈夫。きっと、絶対に、大丈夫。わたくしは、あの2人とは同じ道を辿りはしない。
 あの2人と違って無事に戻れる。ちゃんと生きて戻って、そのあともずっと――

「っっっ!?」

 ――ずっと生きていく! そう心の中で言い聞かせていたら、突然……。
 馬車が、停まったのだった……。




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