わたし、何度も忠告しましたよね？

第１０話 ３つめの異変 ミシェル視点（３）

「もしかして……。わたくしめが言葉を交わしたのは、お嬢様のドッペルゲンガーなのでしょうか……？」

　頭の中が爆発しそうになって、蹲りながら頭を掻きむしっている時だった。アンナが、ポツリと呟いた。

「どっぺる……？　ドッペルって、あのドッペル……？」
「はい。状況を考えますと、そうとしか思えません」

　自分と瓜二つの存在。それがドッペルゲンガー。
　確かに……。無意識での行動は医学的な観点で以て否定されるのだから、そうなってしまうわね。
　ただ、それは……。

「ドッペルゲンガーは、創作物に登場するものですわよ……？」

　現実で視認されたことのない、いわゆる架空の存在。
　実在するとは思えませんわ。

「わたくしめも、そう思っておりました。ですが時折、その時間その場所には居ないはずの人間に会った、という話を聞きます」
「待ちなさいアンナ。それは俗に言う怪談に近い話で、証拠がまるでないでしょうが」
「そうなのですが、そちらが作り話だという証拠もございません。……荒唐無稽であるが故に信用されていない、実話なのだとしたら……」
「…………存在、してる、わね……」

　アンナの言い分は、もっとも。
　存在していた――証言者が実際に見ていた可能性は、ある。

「だとしたら、わたくしのドッペルゲンガーで――…………………………」

　とあることに気が付いて、言葉を失ってしまう。
　ものすごい勢いで、身体が震え始めてしまう。

「お、お嬢様！？　どうなさったのですか！？」
「じっ、自分がドッペルゲンガーって言い出したのに忘れているの！？　もしドッペルゲンガーを本人が見てしまったら死ぬっていう話もあるでしょうが！！」

　厳密に言うと、目が合ったら死ぬらしい。
　それも、真実味がない話だけど……。ドッペルゲンガーが実在した以上、真実だと思っていい……。

「う、うああああああああああああああああああああああああ！！　死ぬの！？　死んでしまうの！？　いやっ、いやぁああ！！　死にたくない！！」

　せっかくパニックが収まっていたのにっ。これまで以上の不安が！　恐怖が押し寄せてくる！！

「もういやぁああああ！！　なんでこんな苦しまないといけないのよぉ！？　なんで急にこんなことになるのよ！？　お屋敷に戻って来る時までは何もなかったのにっ！　ドッペルゲンガーなんて出てこなかったのに！！　どうして戻って来た途端にこんな目に遭うのよぉぉぉぉぉぉぉぉ――」
「……まさか……」

　さっきよりも激しく頭を掻きむしっていたら、またアンナがポツリと呟いた。
　な、なに！？　またなにか悪いことが出てくるの！？
　違うわよね！？　ねえ！？　そう言いなさいよ！！