わたし、何度も忠告しましたよね?

柚木ゆず

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第10話 3つめの異変 ミシェル視点(2)

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「わたくしが、ビスケットを……? いつ? どこで? いつどこで誰にそう言ったというの?」
「時間は10分ほど前で、場所は1階階段傍の廊下でございます。わたくしが歩いておりましたらお嬢様が階段を使って降りていらっしゃって、『水を飲んだせいか小腹が空いたから、チョコビスケットを持ってきて頂戴』と仰りお部屋に戻られました」
「……は? わたくし、そんなことしてないわよ……?」

 だってアンナが来るまで、ベッドで眠っていたんだもの。アンナにそんなこと言うはずないし、そもそも、部屋を出るはずがない。

「……嘘を吐いている様子は、ないわね……。アナタ、疲れてるのよ。立ったまま夢をみてしまったのよ」
「いえお嬢様、その可能性はございませんよ。その際には偶然旦那様もいらっしゃりまして、旦那様も一部始終を確認しておられますので」
「…………なんですって……?」

 また信じられない話が出てきて、おもわず急いでお父様に確認しに行って――

「…………アンナ、アナタが言った通りでしたわ……」

 確かに見たと、お父様は仰った。
 アンナとお父様、ふたりが同時に同じ夢を見るはずがなくて……。わたくしはアンナに、ビスケットを持ってくるように言っていた、みたい……。

「そんなバカな……。無意識の状態で、勝手に動いていたというの……? ね、ねえアンナっ。その際のわたくしに不自然な点はなかったの!? 目がトロンとしているとかっ、違和感はなかったの!?」
「そういったものは、まったくございませんでした。お水を希望された時と同じく、いつも通りのお嬢様で――」
「お水を希望ですって!? あの水もそうなの!? アンナが喉の渇きを予想して気を利かせたんじゃなかったの!?」
「ち、違います。お嬢様がわたくしめのもとにいらっしゃり、『喉が渇いたから水を持ってきてちょうだい』と仰ったのでございます」
「……………………」

 そういえば。アンナはあの時……

『お嬢様、失礼致します。お水をお持ちいたしました』

 と言っていた。
 もしアンナが、気を利かせて運んできたのであれば……。そうじゃなくて、『お水はいかがですか?』とか違った聞き方をしているはず……。

「…………そっちの方も、わたくしが命じていただなんて……。頭がどうにかなってしまいそうだわ……!」

 無意識の状態で勝手に動く。それは実際にある出来事。
 ただその際は、完全に普段通りの素振りにはならないと聞いた。
 だから、違う。
 違うはずなのに、実際に動いてしまっている……。


「なんなの……!? せっかく気持ちよく過ごせていたのにぃぃ……!! なんなのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!」
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