わたし、何度も忠告しましたよね?

柚木ゆず

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第10話 3つめの異変 ミシェル視点(1)

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「お嬢様、失礼致します。お水をお持ちいたしました」

 楽しい時間があっという間に過ぎ去って、久しぶりに笑顔で眠りについたあと。時計は午前3時をさしているから、ベッドに入って3時間くらい経った頃だった。
 控えめなノックと共に、水差しとコップを携えたアンナが入ってきた。

「ありがとう。いただくわ」

 きっと、普段よりも沢山喋った影響なんでしょうね。喉が渇いていたわたくしは7割ほど水が注がれたコップを受け取り、一気に飲み干した。

「アンナ、もう一杯ちょうだい」
「畏まりました」

 物足りなさがあったから今度は5割くらいの量を頼み、次も一気に飲み干した。

「充分ですわ。下がっていいわよ」
「はい、お嬢様。おやすみなさいませ」
「ええ、お休み。……ふぅ。もう一度寝ましょうか」

 理想的なタイミングで水を持ってきたことを褒めてあげるべきだったと気付いたけど、まあいいわ。だってわたくし達は主従の関係、『従』が『主』に尽くすのは当たり前のことなんだものね。
 わたくしはベッドに入り、再び眠りの世界へと落ちていって――

「すぅ。すぅ。すぅ。すぅ。すぅ」

 ――…………。
 ………………。
 ………………。
 ………………。

「すぅ。すぅ。すぅ。すぅ。すぅ――」
「お嬢様、失礼致します。ビスケットをお持ちいたしました」

 ――…………。時計を見たら午前4時になっていたから、さっきから1時間後ね。
 控えめなノックと共に、わたくしが好きなチョコビスケットをトレーに載せたアンナがやって来た。

「……………………」
「お嬢様、どちらでお召し上がりに――お嬢様……? どうかなさいましたか……?」
「どうかなさいましたかって、アナタねえ。なにを考えていますの? こんな時間にビスケットなんて食べられるはずないでしょ?」

 午前4時なんかに食べたら身体に悪いし、また歯を磨かないといけなくなってしまう。
 いったい、なにをしているの……?

「まさか、水の礼も言わない、って嫌がらせをしてるの? そうなよね?」
「? え……?」
「……え? なにを驚いてますの?」

 慌てて否定するのではなく、ぽかんとする。不思議な反応が気になり、その理由を確認してみると――

「お嬢様……? お嬢様が『ビスケットを持ってきて』と、仰ったのですよ……?」

 ――? ??
 アンナは、おかしなことを言い出したのだった。

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