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第4話 ひとつめの異変 ミシェル視点(2)
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((…………ちっ))
わたくしは心の中で舌打ちをしながら、教室の前方を――午前8時10分を示している掛け時計を眺めていた。
『今日は朝に用事がありますので、午前8時にミシェル様のもとに伺います』と、前日エリア―ヌさんは言っていた。なのに、10分過ぎても現れない。
子爵令嬢ごときが、侯爵令嬢であるわたくしを待たせるだなんて……! 朝からあまりにも無礼なことが起きていて、わたくしはひどくイライラしていたのだった。
「…………ねえ、クレールさん」
「っ! はっ、はいっ! いかがなさいましたかっ?」
「『用事は8時までには絶対に終わっている』。昨夜エリア―ヌさんは間違いなく、そう口にしていたわよね?」
「は、はいミシェル様。どんなに予定が押してしまったとしても、午前7時30分には終わっている――絶対に午前8時には間に合うと言っていました」
「だとしたら、とっくに登校しているはずよね……? それなのにこんなにも待たせるだなんて、どうなっているのかしらねぇ……?」
「そ、そう、でございますね……。なにをしているので、しょうね……?」
「……これ以上は待てませんわ。クレールさん、エリア―ヌさんをここに連れて来て頂戴」
1‐3の教室へ行き、不届き者を引っ張ってこい。クラスメイトの目があるからわたくしはやんわりとその旨を告げ、クレールさんはすぐに急いで教室を出ていった。
そうして、5~6分くらいが経った頃かしらね。出て行ったクレールさんが、問題児の子爵令嬢を連れて――来なかった。扉を開けて入って来たのはクレールさんただひとりで、エリア―ヌさんの姿はどこにもなかったのだった。
「? ひとりですの? エリア―ヌさんはどうしたんですの?」
「ミシェル様、約束の時間になっても現れない理由が判明いたしました。エリア―ヌさんは、本日欠席をされるそうなんです」
1‐3の教室を覗いてもエリア―ヌさんが見当たらず、しばらくするとやって来た担任教師に訪ねてみた。そうすると、『実家に帰ることになったため欠席する』と彼女の侍女経由で連絡があったという返事があったそう。
「朝の用事の際に、予想外の何かが発生したものと思われます。お家の都合でしたら仕方がありませんね」
「………………」
「っ? み、ミシェル、さま……?」
「………………そうね、仕方がないと思うわ。でもね、わたくしと約束をしているのよ? 真っ先にわたくしにその旨を伝えるのが筋じゃないのかしらねぇ?」
わたくしは生まれであり身分に相応しく寛大な心の持ち主で、約束がキャンセルになったことに関して怒ってはいない。教師に連絡をさせる際にわたくしにも連絡をさせなかったことに、怒っているんですの。
とっても。
「お、仰る通りでございます。その通りでございます」
「……明日会ったら……。厳しく、叱らないといけませんわね」
そうしない限り――直接怒鳴り、ビンタをするまで、この怒りは静まりそうにない。そのためわたくしはイライラしながらその時が来るのを待ち、ようやく次の日になった。
コン コン コン
バカな女が実家から帰ってきたらすぐ部屋に連れてこれるように、クレールさんに寮の出入り口のチェックを命じていた。なので午前7時20分ごろ、ノックと共にクレールさんがわたくしのもとへとやって来て――
「…………ミシェル様……。落ち着いてお聞きください……」
「? どうしたんですの? なにがあったんですの?」
「…………エリア―ヌさんは……。退学されたそうです……」
――信じられないことを、口にしたのだった……。
わたくしは心の中で舌打ちをしながら、教室の前方を――午前8時10分を示している掛け時計を眺めていた。
『今日は朝に用事がありますので、午前8時にミシェル様のもとに伺います』と、前日エリア―ヌさんは言っていた。なのに、10分過ぎても現れない。
子爵令嬢ごときが、侯爵令嬢であるわたくしを待たせるだなんて……! 朝からあまりにも無礼なことが起きていて、わたくしはひどくイライラしていたのだった。
「…………ねえ、クレールさん」
「っ! はっ、はいっ! いかがなさいましたかっ?」
「『用事は8時までには絶対に終わっている』。昨夜エリア―ヌさんは間違いなく、そう口にしていたわよね?」
「は、はいミシェル様。どんなに予定が押してしまったとしても、午前7時30分には終わっている――絶対に午前8時には間に合うと言っていました」
「だとしたら、とっくに登校しているはずよね……? それなのにこんなにも待たせるだなんて、どうなっているのかしらねぇ……?」
「そ、そう、でございますね……。なにをしているので、しょうね……?」
「……これ以上は待てませんわ。クレールさん、エリア―ヌさんをここに連れて来て頂戴」
1‐3の教室へ行き、不届き者を引っ張ってこい。クラスメイトの目があるからわたくしはやんわりとその旨を告げ、クレールさんはすぐに急いで教室を出ていった。
そうして、5~6分くらいが経った頃かしらね。出て行ったクレールさんが、問題児の子爵令嬢を連れて――来なかった。扉を開けて入って来たのはクレールさんただひとりで、エリア―ヌさんの姿はどこにもなかったのだった。
「? ひとりですの? エリア―ヌさんはどうしたんですの?」
「ミシェル様、約束の時間になっても現れない理由が判明いたしました。エリア―ヌさんは、本日欠席をされるそうなんです」
1‐3の教室を覗いてもエリア―ヌさんが見当たらず、しばらくするとやって来た担任教師に訪ねてみた。そうすると、『実家に帰ることになったため欠席する』と彼女の侍女経由で連絡があったという返事があったそう。
「朝の用事の際に、予想外の何かが発生したものと思われます。お家の都合でしたら仕方がありませんね」
「………………」
「っ? み、ミシェル、さま……?」
「………………そうね、仕方がないと思うわ。でもね、わたくしと約束をしているのよ? 真っ先にわたくしにその旨を伝えるのが筋じゃないのかしらねぇ?」
わたくしは生まれであり身分に相応しく寛大な心の持ち主で、約束がキャンセルになったことに関して怒ってはいない。教師に連絡をさせる際にわたくしにも連絡をさせなかったことに、怒っているんですの。
とっても。
「お、仰る通りでございます。その通りでございます」
「……明日会ったら……。厳しく、叱らないといけませんわね」
そうしない限り――直接怒鳴り、ビンタをするまで、この怒りは静まりそうにない。そのためわたくしはイライラしながらその時が来るのを待ち、ようやく次の日になった。
コン コン コン
バカな女が実家から帰ってきたらすぐ部屋に連れてこれるように、クレールさんに寮の出入り口のチェックを命じていた。なので午前7時20分ごろ、ノックと共にクレールさんがわたくしのもとへとやって来て――
「…………ミシェル様……。落ち着いてお聞きください……」
「? どうしたんですの? なにがあったんですの?」
「…………エリア―ヌさんは……。退学されたそうです……」
――信じられないことを、口にしたのだった……。
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