わたし、何度も忠告しましたよね?

柚木ゆず

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プロローグ ジネット視点(2)

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「……何をされてもちっとも泣きも喚きもしない、反応がつまらないくてただでさえムカムカしているのに……! とことん面白くない女ですわね……!!」

 攻撃した相手が理想的な反応をしないから、腹が立つ。相変わらずの醜悪な理由でお怒りになられているミシェル様は、ガンッと――。傍に置いていた空になったバケツを、乱暴に蹴りました。

「……これだから、毎回100パーセントスッキリできないのよねぇ。むしろ、別のモヤモヤが増える……!」
「み、ミシェル様。お水をまた汲んでまいりましょうか?」
「そ、そうですねっ。そういたしましょうっ」
「…………あと少ししたら、清掃員が通るはずですわ。もういい。エリア―ヌさんクレールさん、戻りますわよ。お部屋に戻ってお茶でも飲んで、お菓子も食べますわ」
「は、はいっ。ご一緒させていただきますっ」
「承知いたしました! ご一緒させていただきますっ」

 目撃されないようにする――保身の技術だけは一流ですね。正確にタイミングを把握されているミシェル様は、下品に舌打ちをしながらその場を去りました。

「……こんな姿を先生方やほかの生徒に見られてしまったら、少々面倒くさいことになってしまいますね。こちらも早々に戻りましょう」

 わたしもすぐに移動を始め、濡れた姿を見られないようにしながら8分ほど歩き、誰にも目撃されることなく寮内にある自室に戻ったのでした。
 すると――

「お嬢様……。今日は一段と酷い有様ですね……」

 ――ちょうど部屋のお掃除をしてくれていた侍女エミリアスが、わたしの上から下を見渡し大きなため息をつきました。

「お庭に招待されて訪れてみたら、水をかけられてしまったの。ミシェル様2回、エリア―ヌ様1回、クレール様1回の、合わせて4回」
「……はぁ、相変わらずの者達ですね……。お嬢様」
「? なあに、エミリアス?」
「今日は7月19日、攻撃が始まってからちょうど3か月目です。そろそろ『いい頃合い』ではありませんか?」

 エミリアスの視線が、室内にあるデスク――その上から2番目の引き出しへと動き、わたしの顔へと戻ってきました。

「その様子ですと、可能性はほぼ0でしょうし。いかがでしょうか?」
「タイミング的にはそうなのだけれどね。相手が相手だけに、惜しいのよ」

 エリア―ヌ様は子爵令嬢で、クレール様は伯爵令嬢。この2人はまだいいのだけれど、ミシェル様は侯爵令嬢。
 その先の未来を考えると、できるかぎり終わりにはしたくありません。

「とはいえ、ザユテイワ侯爵家には次女と三女がいらっしゃる。あちらとしても、対応するなら早いに越したことはないでしょうし……。次でよい兆候がなければ、決断することにするわ」

 チャンスは、あと1回。
 ミシェル様は――クレール様もエリア―ヌ様も。改めてくれないものでしょうか。

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