VTuberデビュー! ~自分の声が苦手だったわたしが、VTuberになることになりました~

柚木ゆず

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第16話 外で声(1)

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「美月、大丈夫?」
「美月さん、大丈夫ですか?」
「…………すー、はー、すー、はー、すー、はー。うん大丈夫。お母さん、翔くん、行けますっ」

 次の日の午後2時過ぎ。ウチの玄関の扉の前。わたしは3回深呼吸をして、右と左に頷きました。

「そう。じゃあ、行きましょうか」
「分かりました。行きましょう」
「はいっ。お母さん、翔くん、よろしくお願いします!」

 ドアを開けて外に出て、車に乗って出発します。
 わたし達はいつも車で20分くらいのところにあるスーパーマーケットに行っているので、目的地は今日もソコ。お母さんの運転で道路を進んでいって、

「美月さん。そこに、来月新しい店ができるみたいですね」
「…………………………………………」
「……けほっ、けっほ! けほっ!」
「…………っ!? 翔くんっ、大丈夫っ?」
「すみません、唾が気管に入ってしまいました。僕に熱はありませんが、咳が車内に充満するのはよくない。空気の入れ替えをしても構いませんか?」
「うん、もちろんだよっ。こっちもドアを開けるね――ドアじゃなかったっ。こっちの窓も開けるねっ」

 何度か普段はしないことがありながら、目的のスーパーに到着。着いたので翔くんとお母さんと一緒に車から降りて、お店に入りました。

((中に、入った。…………入ったから、その1をやろう……!))

 ――お母さん、カートとカゴを取ってくるね――。

 今日のわたしの目標は3つあって、まずはこれ。いつもやってることを、今日は声を出してから行うのです……!

((大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫))

 外で声を出すのは、あの時以来。4年ぶりだから。
 怖くない。分かってるけど、怖い。不安になっちゃう。
 だから、何回も自分に言い聞かせて……。夏休みから今日までの間にあったことを、思い出す……。


『突然ごめんなさいっ。僕のイラストを使って、VTuberになってくれませんか!』

『君の声はすごく可愛くて、僕の描いたキャラクターにピッタリだった。なのでVTuberになってくれませんか? って、お願いをさせてもらったんですよ』

《声可愛い》
《ええ!? マジ!?》
《逆にこっちがビックリ》
《本気で驚いてるっぽいから、本当なんですね。同じく可愛いと思いますよ》

『タブレットの続きですが。美月さんの声は決して恥ずかしいものではなく、むしろ大きな才能なんですよ。その証拠があのコメントで、これまで美月さんを笑って来た人達がおかしかっただけなのですよ』

 翔くん。
 視聴者のみなさん。
 翔くん。


 耳で聞いた『声』と、目で見た『コメント』を思い出す。

((そう。だから、大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫……! わたし、やろうっ!))

 色んなものに勇気をもらって。


 ありがとうございます。


 色んな人にお礼を言って。
 いきます!

「……………………お、お母さん。カートとカゴを取ってくるね!」

 言えた。言いました!
 でも。緊張の時間は、まだ終わってくれない。

 ドキン。ドキン。ドキンドキンドキンドキンドキンドキンドキン。

 それも、大丈夫だって分かってる。でもそこもやっぱり、気になって。
 声を出したわたしは、恐る恐る周りを見て……。そうしたら――


 ――誰も笑わない!――


 何回キョロキョロしても、カートとカゴを取って戻って来ても、誰も笑ってないっ。
 それだけじゃなくって。

「お、お母さん。今日はね、鶏の胸肉が安いみたいだよ」
「あら、そう。教えてくれてありがとう」
「どういたしましてっ」

「翔くん、卵が1人1パック限定で安いみたい。翔くんちは要りませんか?」
「電話で聞いてみますね。…………母さん、僕です。卵ってまだありましたか? はい、はい、はい、そうでしたか。それなら…………そうですね。買っておきましょう。……お待たせしました。購入します」
「分かりましたっ。じゃあ田宮家さんの分も入れておくねっ」

 買い物している最中も、そう。お肉コーナーで声を出しても卵コーナーで声を出しても、誰も笑いませんでした。
 それにっ、それにっっ!

「こちら、レシートになります。ありがとうございました」
「ありがとうございます」
「ありがとうございましたっ!」
「ご丁寧にありがとうございます。またのご来店をお待ちしております」

 4年生の時の先生と年齢が近そうなレジのお姉さんにお礼を言ったら、全然笑わなくって、ニコッって笑ってくれたんです。


 色んな場所で声を出しても悪いことは何もなかったし、人の前で声を出しても悪いことはなかった。


 だからっ。だからっっ。
 わたしは――

「翔くん、お母さんっ。わたし、もう大丈夫っ。外でもねっ、もう大丈夫だよっ!」
「そうね……! よく頑張ったわ……! おめでとう、美月……!」
「勇気ある大きな一歩、見せてもらいました。おめでとうございます、美月さん」

 ――お店に入ってから、何回目か分からない。ポロポロ涙を流して喜んで、目標は全部クリアできたから、翔くんとお母さんに抱き付いたのでしたっ。

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