全てを失った私ですが、以前より幸せです

柚木ゆず

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第2話 感謝 エレア視点(2)

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((ヴァロット様。わたしは、あの家に生まれるべきではなかった人間なんですよ))

 ファーティナ家は、伯爵家。貴族の中でも中位に相当する地位を持つ家で、そうであるが故により『貴族らしく』生きなければいけなかった。

 ――貴族は、ハクチョウ――。

 美味しいものを食べて綺麗な服を着て大きなお屋敷で過ごす。一見するとキラキラと輝いて見えるのですが、目に見えないところでは必死に足を動かしている。
 その地位を守りつつ更に発展させていくために、醜い行動に手を染めているのです。

 ――家の脅威になりそうな者を、潰す――。

 精神的な嫌がらせや捏造による蹴落としなどなど。貴族界――特に伯爵家クラス以上になると、そういった『黒い』ことが当たり前。常に理不尽なことが行われていて、当主に命じられたら実行しなければならないのです。

((……それは、仕方がないことだと思います))

 お父様もおじい様も、ひいおじい様も、それより前のご先祖様もそう。全員生まれた時から当たり前に行われていることですし、貴族として生まれたからには家を守る義務があるため、そんな風に生きていくのは当然だと思います。
 貴族にとっては、おかしいことではないのです。

((でも……。わたしは、受け入れられずにいました))

 いくら家のためでも、他者を傷付けるのはいけない。他のやり方があるんじゃないか? こんなのは間違っている。
 そんな思いがあって長年葛藤していて、そうしなくてもいい方法を模索していました。18歳になると――成人になると活動範囲が広がるため更に#酷い__・・#行いに手を染めることになるため、懸命になって探していました。

((けど……。見つからなかった))

 そのため、心を殺して生きてゆく覚悟を決めていました。
 ですが、それでもやっぱり割り切れなくて……。さっきヴァロット様に言ったように、それこそ目の前が真っ暗になったような気分で生きていました。

『だ、誰だ貴様は!? 何者だ!?』

 そんな時に起きたのが、あの出来事。
 呪いによる、エレア・ファーティナの消失。
 それによってわたしの日常は崩壊し、貴族の輪から弾き出された。これまで抱えていた悩みから解放されたため、あのような感謝の言葉が生まれていたのでした。

((何もかも失いましたが、それでも、これまでの日常よりはずっと良い))

 一からのスタートは多くの苦労や困難が伴うでしょうが、今までのような絶望感はありません。
 不安よりも希望の方が遥かに多い。
 わたしはそんな状態で、

「いきましょう」

 新たな一歩を踏み出したのでした。


 〇〇


 そうしてエレアは、ルアンの予想とは大きく異なる心持ちで第二の人生のスタートを切り――。やがてその行動が、ルアンに大きな大きな悲劇をもたらすこととなるのでした。



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