全てを失った私ですが、以前より幸せです

柚木ゆず

文字の大きさ
2 / 20

プロローグ エレア・ファーティナ視点(2)

しおりを挟む
「………………」
「「「「「…………」」」」」
「お、お母様、皆さんっ、わたしです! お父様とお母様の娘のエレアです! わたしが分からないのですか!?」

 名前。生年月日。今日、朝起きてから今に至るまでの行動。お父様とお母様の趣味好みを含めた、家族でないと知り得ない情報。あらゆるものを、早口でお伝えしました。
 そうしたら――

「「「「「………………」」」」」
「わたくしは、エレアという名の子を産んだ覚えはないわ。もう少しマシな嘘を吐きなさい」

 ――それでも、変わらない。
 誰一人として、信じてくれる人はいませんでした。

「嘘ではありませんっ、確かに産んでいるんです! その証拠に――日記などの記録をご確認ください! わたしエレアに関する記載が多数あります!」

 出生時に作るコインなど、エレアが存在している証拠はあちこちにある。それらを調べてもらえたら、記憶はなくとも理解してもらえるはずです。

「お願いします!! お父様お母様!! 確認をしてみてください!!」
「…………確認による悪影響は、明らかにない。ならば……」
「そうね、あなた。そこまで言うなら確かめてみましょう」

 よかった。仰られているように害はまったくないため要求が通り、確認が行われることになりました。
 お父様とお母様はわたしの監視を命じてその場を離れ、20分くらい経ったでしょうか。しばらくすると揃って戻ってこられて――

「やはり、エレアに関する記載はなかったぞ」
「あちこち探したけれど、その三文字はどこにもなかった。あなたが訴えていた『記憶の欠如』は完全に否定されたわ」

 ――信じ、られません……。わたしに関する情報は、すべてなくなっていました……。
 しかも、おかしな点はそれだけではありません。
 ならばと、わたしの部屋の中も確認してもらったのですが……。いつの間にか姉の別室と認識されてしまっていた上に、エレアの実在を証明できるようなものが全てなくなっていたんです。

「……どういうこと、なのですか……? なぜ、こんなことに……?」
「エレアなんて人間は元から存在していないのだから、当たり前だ。……もう気は済んだな」
「侵入経路が不明な、意味不明な発言を繰り返す女。そんな人間、これ以上近くにおいておけないわ。連れて行って頂戴」
「お待ちください!! お父様お母様――あぁっ!!」

 懸命に訴えたものの、通じませんでした。わたしは拘束されてお屋敷から引きずり出され、まるでゴミを扱うかのように門の外へと放り出されてしまいました。

「今回は特別に見逃してやる。今度近づいたら命はないと思え。旦那様と奥様からのお言葉だ」
「死にたくなければ早急に去れ。いいな?」
「…………承知いたしました」

 存在していた記録も記憶もないのであれば、信じてもらえるはずがありません。わたしは説得を諦め、とにかくお屋敷から離れることにしました。

「……わたしに関する記憶が、すべてなくなっているだなんて……。何が起きているのでしょうか……」

「……伯爵令嬢のわたしが外を独りで歩いていても、誰も驚いていない……。異変が起きているのは、お屋敷の中だけではなかったのですね……」

 こんな荒唐無稽なことがこんな規模で起きるだなんて。どうなっているの……?
 突如起きた異変の原因を考えながら、当てもなく歩き――孤独な時間が、5分ほど続いた頃でした。不意にわたしは、予想外な形でその原因を知ることとなるのでした。


「ごきげんよう、エレア。ひとりで歩いているということは、上手くいったみたいね」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?

リオール
恋愛
両親に虐げられ 姉に虐げられ 妹に虐げられ そして婚約者にも虐げられ 公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。 虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。 それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。 けれど彼らは知らない、誰も知らない。 彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を── そして今日も、彼女はひっそりと。 ざまあするのです。 そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか? ===== シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。 細かいことはあまり気にせずお読み下さい。 多分ハッピーエンド。 多分主人公だけはハッピーエンド。 あとは……

【完結】私は駄目な姉なので、可愛い妹に全てあげることにします

リオール
恋愛
私には妹が一人いる。 みんなに可愛いとチヤホヤされる妹が。 それに対して私は顔も性格も地味。暗いと陰で笑われている駄目な姉だ。 妹はそんな私の物を、あれもこれもと欲しがってくる。 いいよ、私の物でいいのならあげる、全部あげる。 ──ついでにアレもあげるわね。 ===== ※ギャグはありません ※全6話

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。 だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。 世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何? せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。 貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます! ===== いつもの勢いで書いた小説です。 前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。 妹、頑張ります! ※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

姉にざまぁされた愚妹ですが何か?

リオール
恋愛
公爵令嬢エルシーには姉のイリアが居る。 地味な姉に対して美しい美貌をもつエルシーは考えた。 (お姉様は王太子と婚約してるけど……王太子に相応しいのは私じゃないかしら?) そう考えたエルシーは、自らの勝利を確信しながら動き出す。それが破滅への道とも知らずに…… ===== 性懲りもなくありがちな話。だって好きだから(•‿•) 10話完結。※書き終わってます 最初の方は結構ギャグテイストですがラストはシリアスに終わってます。 設定は緩いので何でも許せる方向けです。

王子を助けたのは妹だと勘違いされた令嬢は人魚姫の嘆きを知る

リオール
恋愛
子供の頃に溺れてる子を助けたのは姉のフィリア。 けれど助けたのは妹メリッサだと勘違いされ、妹はその助けた相手の婚約者となるのだった。 助けた相手──第一王子へ生まれかけた恋心に蓋をして、フィリアは二人の幸せを願う。 真実を隠し続けた人魚姫はこんなにも苦しかったの? 知って欲しい、知って欲しくない。 相反する思いを胸に、フィリアはその思いを秘め続ける。 ※最初の方は明るいですが、すぐにシリアスとなります。ギャグ無いです。 ※全24話+プロローグ,エピローグ(執筆済み。順次UP予定) ※当初の予定と少し違う展開に、ここの紹介文を慌てて修正しました。色々ツッコミどころ満載だと思いますが、海のように広い心でスルーしてください(汗

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

行き遅れ令嬢の婚約者は王子様!?案の定、妹が寄越せと言ってきました。はあ?(゚Д゚)

リオール
恋愛
父の代わりに公爵家の影となって支え続けてるアデラは、恋愛をしてる暇もなかった。その結果、18歳になっても未だ結婚の「け」の字もなく。婚約者さえも居ない日々を送っていた。 そんなある日。参加した夜会にて彼と出会ったのだ。 運命の出会い。初恋。 そんな彼が、実は王子様だと分かって──!? え、私と婚約!?行き遅れ同士仲良くしようって……えええ、本気ですか!? ──と驚いたけど、なんやかんやで溺愛されてます。 そうして幸せな日々を送ってたら、やって来ましたよ妹が。父親に甘やかされ、好き放題我が儘し放題で生きてきた妹は私に言うのだった。 婚約者を譲れ?可愛い自分の方がお似合いだ? ・・・はああああ!?(゚Д゚) =========== 全37話、執筆済み。 五万字越えてしまったのですが、1話1話は短いので短編としておきます。 最初はギャグ多め。だんだんシリアスです。 18歳で行き遅れ?と思われるかも知れませんが、そういう世界観なので。深く考えないでください(^_^;) 感想欄はオープンにしてますが、多忙につきお返事できません。ご容赦ください<(_ _)>

幼馴染の婚約者を馬鹿にした勘違い女の末路

今川幸乃
恋愛
ローラ・ケレットは幼馴染のクレアとパーティーに参加していた。 すると突然、厄介令嬢として名高いジュリーに絡まれ、ひたすら金持ち自慢をされる。 ローラは黙って堪えていたが、純粋なクレアはついぽろっとジュリーのドレスにケチをつけてしまう。 それを聞いたローラは顔を真っ赤にし、今度はクレアの婚約者を馬鹿にし始める。 そしてジュリー自身は貴公子と名高いアイザックという男と結ばれていると自慢を始めるが、騒ぎを聞きつけたアイザック本人が現れ…… ※短い……はず

処理中です...