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第18話 似た者同士 俯瞰視点(1)

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「俺のせいだって!? なにもかもお前のせいだろうが!!」

 ぷつり――。そんな音が頭の中で聞こえた瞬間、今度はアドンの身体がひとりでに動き出します。
 喉は耳を劈く大音声を放ち、右手はエステェの頬を思い切り叩(はた)きました。

「お前はあの日俺に近づいてこなかったら何も起きていないんだ!! 責任はお前にあるに決まってるだろ!! 被害者は俺で加害者はお前だ!!」
「逆よ!! 被害者は私で加害者はアンタよ!! 私は相手が居なかったから仕方がないけどっ、アンタにはメリッサという婚約者がいたでしょ!! なにあっさりと心変わりをしてるのよ!!」
「心変わりをするように接触してきたんだからそうなるのは当たり前だ!! そういうお前こそっ!! 幼馴染が幸せになっているのにっ、よく奪う気になったな!! なんてクズなんだ!!」

 悪いのは、両方。メリッサを裏切った二人ともに、非があります。
 ですがアドンとエステェは互いに『相手悪い』と確信していて、だからその発言が許せない。二人は喉が裂けんばかりに大声を発し合い、激しい憎悪を込めて頬を叩き合います。

「アンタがっ!! 悪いのよ!!」
「いいや違う!! 悪いのはお前だ!! 元凶なんだから大人しく殴られていろ!!」
「それはこっちの台詞よ!! そこに座って顔を差し出さしなさいよ!! 今のアンタにできるのはせいぜいそのくらいなんだから!! せめて大人しく従いなさいよ!!」
「殴れるっ、怒りをぶつける資格があるのは俺だけだ!! お前にその権利はないんだよっっ!! いいから大人しくしていろ!!」

「ぼっ、坊ちゃまっ! 奥様っ! おやめに――」

「うるさい外野は黙ってなさい!!」「うるさい外野は黙っていろ!!」

 騒ぎを聞きつけた使用人が駆け付けますが、収まるどころか悪化してゆきます。
 頬を叩き合っていた二人はやがて相手の髪の毛を引っ張るようになり、バランスを崩して転倒してしまいました。しかしながら止まることはなく――

「アンタのせいでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」「お前のせいでぇえええええええええええええ!!」

 髪を掴み合ったまま廊下を転がり回り、馬乗りになったりなられたり。たまらず使用人が目をそらしてしまう程に、激しく醜い争いが繰り広げられてゆき――。

 体力が尽きるまで止まらない。

 そう思われていた取っ組み合いは、その後2分ほどで止まることになってしまいました。なぜならば――

「アドン様っ! 緊急事態発生とのことで、旦那様が戻られました!!」
「エステェ様っ! 緊急事態発生とのことでして、コンタン様がいらっしゃっております!!」

 アドンの従者とエステェの侍女。そんな二人が、血相を変えてやって来たからです。

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