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第10話 翌日~決行の時~ エステェ視点

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「なんだって……!? 婚約者を辞退したい、だって……!?」

 次の日の正午過ぎ。豪奢で広々としたオーテラング侯爵邸内、その中にある応接室に大きな驚き声が響き渡った。
 なぜならアドリアンおじ様にとっては予想外な言葉が、私の口から出たのだから。

「…………いや、聞き間違いだな。酷い聞き間違えをしてしまったようだ」
「いえ、おじ様……。そちらは聞き間違いではございません。私は先ほど、そのような内容をお伝えいたしました」

 大事な幼馴染から大切な人を奪う形となってしまい、ずっと悩んでいたこと。時間が解決してくれるものと思っていたものの、薄まるどころか大きくなっていっていたこと。アドン様と過ごす時間は大好き、でも、苦しさが幸せを上回ってしまったこと。これ以上はメンタルがもたなくて、破滅してしまうこと。このまま関係を持ち続けてしまったら、オーテラング家に多大なるご迷惑をかけてしまうこと。
 それらを改めて、しっかりと落胆や絶望や罪悪感を交えてお伝えした。

「そ、そんなことが……。もしやっ! アドンっ、お前――いや、なんでもない」

 私は婚約を果たした日からニコニコしていて、おじ様はその姿をよく知っている。なので『アドンが協力を頼み、愛しているから協力している』、と思ったはず。
 でもその姿を見ているからこそ『もしアドンの裏切りを知れば力を貸すはずがない』と考えて、計算通りその可能性を頭から消してしまった。

「おじ様、申し訳ございません……。このままで、まともな夫婦生活を送れるはずがなく……。我が儘をお許しください……」
「父上、こればっかりはしょうがない」(こんな状態では、パイプの役割なんて果たせない。切っておくべきだ)
「……………………。しかし、だな……。………………エステェ嬢。それは君が罪悪感を覚える問題ではないさ。2番であるメリッサ・ヴァラメットに飛びついてしまったこの者に非があり、心変わりを許してしまったメリッサ・ヴァラメットにも問題がある――」
「オーテラング侯爵様。どうしてもお伝えしたいものがございます故、二人のみで会話を行うお時間をいただきたく思います」

 予想通りおじ様は難色を示して、お父様が動き出す。こうして深々と頭を下げ、私達を残して応接室を出て――

 お屋敷での私の様子を、事細かに知らせる。

 絶対に上手くいかないよ? 破綻するよ? 損をするよ? 諦めた方がいいよ?
 それらを立て続けに出して、手を引かせるようにするの。

(父上は、商会の発展に重きを置いている。だったら)
(ええ。確実にうまくいきますね)

 3人でシミュレーションをした結果、成功率は100パーセント。失敗する未来が見えないから私達は笑い合って戻りを待って、十数分でお父様とおじ様は戻って来た。
 ふふふっ、お父様お疲れ様です。これでこの婚約は――

「エステェ、考え直そう。やはりアドン様との関係は、維持するべきだ」

 ――白紙には、ならない……?
 お、お父様……? なにを言っているの……!?

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