17 / 37
第9話 続く予想外 エステェ視点(2)
しおりを挟む
「承知いたしました。私エステェは、貴方様に協力致します」
アドン様以上に、沈痛な面持ちで。『辛いけど愛する人のためにやる』という感情を全面的に出しながら、下がっている頭に向けて返事を行った。
「私にとって貴方様は、この世界で一番愛している方。そんな人と離れてしまうのは、とても悲しいことですが……。それでも、大好きな人が何よりの幸せを手に入れられるのなら……。喜んで動かせていただきます」
「エステェ……! ありがとうっ! ありがとう……っ!!」
バッと顔を上げたアドン様は大急ぎで立ち上がり、涙を零しながら身を乗り出して私の両手を握りしめた。
「こんな俺を許してくれた上に、手を差し伸べてくれて……。ありがとう……! すまない……! ありがとう……!!」
「お気になさらないでください。ではこちらのお話を、お父様にお伝えしてまいりますね」
「エステェ、卿にも謝罪をしておきたいんだ。俺も同行させてほしい」
「アドン様、そちらは少々待っていただきたく思います。そういったお話は性質上、二人きりの方が行いやすいので」
というのは偽りで、その場に同席させないのは別の理由がある。
こんなことになったけど、大金を得られる上にすでに素敵な恋人がいるんですよ。
そう伝えたら言わずもがな大歓迎されて、色々と手助けてしてくれる。アドン様に気付かれないように、会うことだってできる。
なので私は配慮をするフリをして、単身で執務室へと向かって――
「あのヴィラックラル商会の次期右腕と!? よくやったぞエステェっ! お前は素晴らしい先見の明の持ち主だっ!」
お父様は嬉々として、全てを受け入れてくれた。
「お父様、アドン様は私が好意を抱いていると思い込んでいるの。くれぐれも本心を悟られないようにしてくださいまし」
「無論だ。……ではわたしも合流し、作戦を練ろうじゃないか」
おじ様は私をいたく買っていて、『罪悪感があるから別れたい』と言い出したらあの手この手で引き留めようとする。非公式とはいえ婚約の書類を交わしている以上、強く出られると面倒なことになってしまう。
そこでそれをスムーズに捌けるようにするため、ここからはお父様も含め三人で思案を始めることになった。
((あちらは侯爵家で、こちらは伯爵家。アドン様の協力があっても、なかなかに苦労する問題だと思うけど――))
今はとてつもなく、良い流れが来てるんだもの。
きっと、大丈夫。するりとアイディアが浮かぶはずだわ。
アドン様以上に、沈痛な面持ちで。『辛いけど愛する人のためにやる』という感情を全面的に出しながら、下がっている頭に向けて返事を行った。
「私にとって貴方様は、この世界で一番愛している方。そんな人と離れてしまうのは、とても悲しいことですが……。それでも、大好きな人が何よりの幸せを手に入れられるのなら……。喜んで動かせていただきます」
「エステェ……! ありがとうっ! ありがとう……っ!!」
バッと顔を上げたアドン様は大急ぎで立ち上がり、涙を零しながら身を乗り出して私の両手を握りしめた。
「こんな俺を許してくれた上に、手を差し伸べてくれて……。ありがとう……! すまない……! ありがとう……!!」
「お気になさらないでください。ではこちらのお話を、お父様にお伝えしてまいりますね」
「エステェ、卿にも謝罪をしておきたいんだ。俺も同行させてほしい」
「アドン様、そちらは少々待っていただきたく思います。そういったお話は性質上、二人きりの方が行いやすいので」
というのは偽りで、その場に同席させないのは別の理由がある。
こんなことになったけど、大金を得られる上にすでに素敵な恋人がいるんですよ。
そう伝えたら言わずもがな大歓迎されて、色々と手助けてしてくれる。アドン様に気付かれないように、会うことだってできる。
なので私は配慮をするフリをして、単身で執務室へと向かって――
「あのヴィラックラル商会の次期右腕と!? よくやったぞエステェっ! お前は素晴らしい先見の明の持ち主だっ!」
お父様は嬉々として、全てを受け入れてくれた。
「お父様、アドン様は私が好意を抱いていると思い込んでいるの。くれぐれも本心を悟られないようにしてくださいまし」
「無論だ。……ではわたしも合流し、作戦を練ろうじゃないか」
おじ様は私をいたく買っていて、『罪悪感があるから別れたい』と言い出したらあの手この手で引き留めようとする。非公式とはいえ婚約の書類を交わしている以上、強く出られると面倒なことになってしまう。
そこでそれをスムーズに捌けるようにするため、ここからはお父様も含め三人で思案を始めることになった。
((あちらは侯爵家で、こちらは伯爵家。アドン様の協力があっても、なかなかに苦労する問題だと思うけど――))
今はとてつもなく、良い流れが来てるんだもの。
きっと、大丈夫。するりとアイディアが浮かぶはずだわ。
3
お気に入りに追加
1,779
あなたにおすすめの小説



誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。

完璧令嬢が仮面を外す時
編端みどり
恋愛
※本編完結、番外編を更新中です。
冷たいけど完璧。それが王太子の婚約者であるマーガレットの評価。
ある日、婚約者の王太子に好きな人ができたから婚約を解消して欲しいと頼まれたマーガレットは、神妙に頷きながら内心ガッツポーズをしていた。
王太子は優しすぎて、マーガレットの好みではなかったからだ。
婚約を解消するには長い道のりが必要だが、自分を愛してくれない男と結婚するより良い。そう思っていたマーガレットに、身内枠だと思っていた男がストレートに告白してきた。
実はマーガレットは、恋愛小説が大好きだった。憧れていたが自分には無関係だと思っていた甘いシチュエーションにキャパオーバーするマーガレットと、意地悪そうな笑みを浮かべながら微笑む男。
彼はマーガレットの知らない所で、様々な策を練っていた。
マーガレットは彼の仕掛けた策を解明できるのか?
全24話 ※話数の番号ずれてました。教えて頂きありがとうございます!
※アルファポリス様と、カクヨム様に投稿しています。

拝啓、王太子殿下さま 聞き入れなかったのは貴方です
LinK.
恋愛
「クリスティーナ、君との婚約は無かった事にしようと思うんだ」と、婚約者である第一王子ウィルフレッドに婚約白紙を言い渡されたクリスティーナ。
用意された書類には国王とウィルフレッドの署名が既に成されていて、これは覆せないものだった。
クリスティーナは書類に自分の名前を書き、ウィルフレッドに一つの願いを叶えてもらう。
違うと言ったのに、聞き入れなかったのは貴方でしょう?私はそれを利用させて貰っただけ。

【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?
のんのこ
恋愛
侯爵令嬢セイラは、両親を亡くした従姉妹(いとこ)であるミレイユと暮らしている。
両親や兄はミレイユばかりを溺愛し、実の家族であるセイラのことは意にも介さない。
そんなセイラを救ってくれたのは兄の友人でもある公爵令息キースだった…
本垢執筆のためのリハビリ作品です(;;)
本垢では『婚約者が同僚の女騎士に〜』とか、『兄が私を愛していると〜』とか、『最愛の勇者が〜』とか書いてます。
ちょっとタイトル曖昧で間違ってるかも?

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。
木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。
彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。
しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。
だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。
父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。
そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。
程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。
彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。
戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。
彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる