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第36話 大好きと大好き~2つの大好き~ シャーリィ視点(2)

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((でも…………。この気持ちをお伝えできる時は、来ませんね……))

 お兄様に恋をしている――。そう気が付いた私は、すぐにその気持ちに蓋をしました。
 なぜなら私は、貧乏神だから。


『シャリィは優しい子だから、これからきっと沢山の罪悪感を抱くと思う。そんな罪悪感も、再会したら俺が消して見せるから。自分を責めないで待っていて欲しい。その時が訪れたらメイプルの木まで来てくれ』――。

『金の件は生まれつきで、シャーリィは何も悪くないだろ? なのにおじさん達はあんな風に言ってて、父さんも見て見ぬフリをしてる。だったら俺がシャーリィを守る!』

『ごめんなシャーリィ。俺はそのための準備を始めるから、多分もうその日まではコッソリ会うこともできない。遊んだり励ましたりはできないけど、その分再会したらまとめてするからさ。信じて待っていてくれ』


 お兄様はそう仰ってくださっていて、そんなお兄様は絶対に約束を破らない方。ですのでありがたいことに、何かしらの形で『この日常』を変えていただけるのだと確信していました。
 ですがそれは、数多くの努力によって成り立つものですので……。そんなことを生んでしまった私に、恋をする資格なんてないと――そもそも、そういった気持ちを口にする資格さえもないと考えていました。

「……お兄様、私は貴方様が大好きでした……」

 ですのでワズリエア家のお屋敷がある方角に向けて伝えたあと、二度と表に出しはしないと決めたのでした。
 そうして私は引き続き学院と自室を往復する生活を続け、そうしている間に――。改めて、『貧乏神』の恐ろしさを思い知ることとなりました。

((駄目です……。この体質は…………誰にも、どうにもすることはできません……))

 わずか十八年間で、莫大な財を3分の1にしてしまった。
 ノランお兄様は有言実行な方なのですが、相手が悪すぎます。努力で乗り越えられる範疇を超えてしまっている、そう確信してしまっていました。
 なので私はあの日、卒業式が終わったあと――

「ごめんなさい」

((もしも生まれ変わることができたら、その時は……。普通の女の子として生まれて……。お兄様と恋人になれますように))

 私はメイプルの木ではなく橋へと向かい、身投げを行おうとしました。
 約束を破ってしまったことや、十年間の努力を無駄にしてしまったこと。それらに謝罪をしながら欄干に手をかけ、そうして私の人生は――終わりはせず、一変することになりました。

「シャリィ。そっちは約束の場所じゃないぞ?」

 そんな私をお兄様が止めてくださり、貧乏神でもビクともしないお力を持たれているのだと知って。これは体質ではなく呪いだと知って。ついには…………

「そう、前に行っていた解呪の証。……おめでとう、シャリィっ!」

 貧乏神では、なくなったのでした。

 …………それだけでも、幸せなのに。充分すぎるものをいただいているのに。

「シャリィ。結婚を前提として、俺と交際をしてくれませんか?」

 こんなお言葉を、いただきました。
 ………………私にとってノランお兄様は、二つの大好きを抱いている方。恋をしている方でした。
 ですので私は今日、5年前に施した蓋を外して――


「はい……っ、お願いいたします……っ。私もお兄様が、大好きです……っ!」


 差し出された右手に、右手を重ねさせていただいたのでした。
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