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第8話 理由~偶然と必然怪我の功名~ ノラン視点(1)
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「…………もしかして……。シャリィの体質も、こいつが原因なんじゃないか……?」
それはシャリィを救うと決めて、9年が経った頃だった。自室のベッドで体力を回復させていた俺は、昨日起きた出来事を思い出していた。
その時から2か月前、俺は突然体調不良に襲われた。しかも薬を呑んでも休んでもまったく改善の兆しはなく、だからそれは藁にも縋る思いだった。
奇行を繰り返して医学会から追放された過去があるという、『薬で治せない病の専門家』を自称する人物。隣国にいらっしゃるケヴィック先生にかかり、その際に予想外のことを告げられたのだった。
「貴方様は真っすぐな目をされていますから、悪用の心配はなさそうですねえ。特別に、真実をお教えしましょうか」
「……しんじつ……? それは一体、なんなのでしょうか……?」
「驚かないでくださいねえ? 実を言いますとノラン・ワズリエア様には、軽度の呪いがかかっているのですよ」
「呪い……? よく創作物に出てくる、あの呪いですか……?」
「ええ、あの呪いです。呪いって、実在しているんですよねえ」
先生はしばしば発生する原因不明かつ対処不可能な発熱などを訝しみ、39年調査し続けソレを知得されていた。しかしながら呪いの存在が認知されると、先述されたように悪用する者が増えてしまうため――誰でも彼でも明かせない。
そのため色々と伏せる必要があり、その結果そのような評判となっていたのだった。
「確か貴方様の国には、未成年の子を捨てた両親の変死、がありましたでしょう? あれも呪いなんですよねえ」
「シャリィが捨てられなかった理由、あれがソレで――ああいえ、すみません。なんでもありません。……先生。僕は誰に、呪われてしまっているのでしょうか?」
「かけた相手の特定はできませんが、そうですねえ。恐らくは、同業者の仕業でしょうねぇ」
成功。
それを妬まれ、そういったものをかけられていたらしい。
「呪いは厄介なもんでしてねえ。相手を激しく怨む気持ちと知識さえあれば、誰でも簡単に仕掛けられてしまうんですよ。ノラン様の場合は体調不良を招くもので、何をやっても効かなかったのはこれが原因ですねえ」
「……ケヴィック先生。そちらを治す方法は、あるのですか?」
「この呪いは本来強力な効果をもたらすものなんですが、恐らく手順を間違えたんでしょうねえ。いやぁ、よくあるんですよ。呪う方法を声で伝えると相手に多少かかってしまうから、原則伝承は記述でしてねえ。記した人の死後――保管している間に一部が劣化などして、正しく読めなくなってしまうことが」
「は、はぁ……。そうなのですか……」
「今回はまさにそれでして、ノラン様は運がよろしいですねえ。濃いものなら厄介なんですが、その程度なら1時間程度で簡単にできますよ」
そして俺は青のインクで描かれた魔法陣の上に座らされ、先生が不思議な呪文を唱えて1時間が経過すると――身体から黒い煙が上がり、熱や倦怠感があっさりと消え去ってしまったのだった。
「…………シャリィのは俺以上に、異常だ……。その可能性は、ある!」
そう結論づけた俺はすぐさま再び越境し、先生に相談をした。すると、
「ええ。そちらは、呪いでほぼ間違いないでしょうねえ」
予想通りの答えが返ってきた。のだけれど、そこから先は予想通りとはいかなかった。
予想外の、大きな壁が立ちはだかったのだった。
それはシャリィを救うと決めて、9年が経った頃だった。自室のベッドで体力を回復させていた俺は、昨日起きた出来事を思い出していた。
その時から2か月前、俺は突然体調不良に襲われた。しかも薬を呑んでも休んでもまったく改善の兆しはなく、だからそれは藁にも縋る思いだった。
奇行を繰り返して医学会から追放された過去があるという、『薬で治せない病の専門家』を自称する人物。隣国にいらっしゃるケヴィック先生にかかり、その際に予想外のことを告げられたのだった。
「貴方様は真っすぐな目をされていますから、悪用の心配はなさそうですねえ。特別に、真実をお教えしましょうか」
「……しんじつ……? それは一体、なんなのでしょうか……?」
「驚かないでくださいねえ? 実を言いますとノラン・ワズリエア様には、軽度の呪いがかかっているのですよ」
「呪い……? よく創作物に出てくる、あの呪いですか……?」
「ええ、あの呪いです。呪いって、実在しているんですよねえ」
先生はしばしば発生する原因不明かつ対処不可能な発熱などを訝しみ、39年調査し続けソレを知得されていた。しかしながら呪いの存在が認知されると、先述されたように悪用する者が増えてしまうため――誰でも彼でも明かせない。
そのため色々と伏せる必要があり、その結果そのような評判となっていたのだった。
「確か貴方様の国には、未成年の子を捨てた両親の変死、がありましたでしょう? あれも呪いなんですよねえ」
「シャリィが捨てられなかった理由、あれがソレで――ああいえ、すみません。なんでもありません。……先生。僕は誰に、呪われてしまっているのでしょうか?」
「かけた相手の特定はできませんが、そうですねえ。恐らくは、同業者の仕業でしょうねぇ」
成功。
それを妬まれ、そういったものをかけられていたらしい。
「呪いは厄介なもんでしてねえ。相手を激しく怨む気持ちと知識さえあれば、誰でも簡単に仕掛けられてしまうんですよ。ノラン様の場合は体調不良を招くもので、何をやっても効かなかったのはこれが原因ですねえ」
「……ケヴィック先生。そちらを治す方法は、あるのですか?」
「この呪いは本来強力な効果をもたらすものなんですが、恐らく手順を間違えたんでしょうねえ。いやぁ、よくあるんですよ。呪う方法を声で伝えると相手に多少かかってしまうから、原則伝承は記述でしてねえ。記した人の死後――保管している間に一部が劣化などして、正しく読めなくなってしまうことが」
「は、はぁ……。そうなのですか……」
「今回はまさにそれでして、ノラン様は運がよろしいですねえ。濃いものなら厄介なんですが、その程度なら1時間程度で簡単にできますよ」
そして俺は青のインクで描かれた魔法陣の上に座らされ、先生が不思議な呪文を唱えて1時間が経過すると――身体から黒い煙が上がり、熱や倦怠感があっさりと消え去ってしまったのだった。
「…………シャリィのは俺以上に、異常だ……。その可能性は、ある!」
そう結論づけた俺はすぐさま再び越境し、先生に相談をした。すると、
「ええ。そちらは、呪いでほぼ間違いないでしょうねえ」
予想通りの答えが返ってきた。のだけれど、そこから先は予想通りとはいかなかった。
予想外の、大きな壁が立ちはだかったのだった。
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