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第24話 勇気を出す日。告白の日 アルフレッド(14歳)視点(3)

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「よかったぁ……っ。よかったよぉ……っ。怖かったよぉ……っ」

 返事が終わるや否や、リルが泣きじゃくりながら胸に飛び込んで来た。
 えっ? へっ? よかった? 怖かった?

「あたしね……っ。ずっと、嫌われたのかなって思ってたの……っ。急に顔を背けたりとか離れたりとか……っ。アルフレッドの様子が変になってたから……っ。嫌われたのかもって思ってて……っ。不安になってたの……っ」
「……そっか。そうだったんだ……」

 とっくにリルは、気付いていた。
 もし父さんのアドバイスがなくて、じっと隠そうとしていたら――。考えただけでも、ゾッとする。

「アルフレッドが離れていくかもって思ってたら、怖くって……っ。悲しくってね……っ。一日中、アルフレッドのことを考えててね……っ。そしたら、気付いちゃったの……っ。こんなに辛いのは、アルフレッドが兄妹で家族だからじゃないんだって……っ。兄弟と家族の好きの他に、もう一つの好きもあるからなんだって気付いたの……っ!」
「っっ!」

 リルも……。俺のことを……。想って、くれていた。

「そしたらもっともっと悲しくなって、不安になってね……っ。最近はそういうのがなくなってて、安心してたし……っ。6月にここに誘ってくれたからっ、もしかしてって思ってたけど……っ。違う意味があったらどうしようとかっ、告白ってあたしが勘違いをしてるかもとかっ、色々考えちゃってて……っ。照れちゃったり怖くなっちゃったり、頭がごちゃごちゃになってたの……っ」
「ごめん、ホントにごめんよリル……っ。心配させてごめん……っ。許してくれ……っ」
「ぎゅーっとしてくれたらっ、許す……っ。ずっと落ち着かなくって、大好きなアルフレッドの匂いとかを感じられなかったの……っ。だから、ぎゅーっとして……っ。あたしがいいって言うまでっ、ぎゅーっとして……っ」
「うん、分かったよ。……リル。昔も今もね、ずっと大好きだよ」

 要望に応えてギュッと抱き締めて、それから俺達は無言。どちらも喋らず、互いの感触や体温を感じ合う。
 そんな時が、5分くらい流れたかな。「ありがとう」という声がして、俺らは少しだけ距離を取った。

「……………………」
「……………………」
「……………………そ、その、あれですね、アルフレッド。感情のままに喋っちゃったり、お洋服を濡らしちゃったりして、ごめんなさい。えっと。あたしの涙を、お、お拭き、しますね」
「あ、いえ、お構いなく。こちらの、責任ですし。これは、あれです、一生の思い出になる水滴たちでございますので。あれですね。ぜひ、このままでお願いします」

 俺達は油が切れたブリキ人形のようにギギギっと妙な動きで会釈をして、えへへへへと愛想笑いを浮かべる。
 ………………。……………………。
 俺達。お互い冷静になったら、恋人ってことを変に意識するようになってしまったようです。

「え~、あ~。さ、最初は、誰でもこんな感じになるのかな? リルさんは、いかが思われるでございます?」
「だ、だと思いますね、ええ。と、とにかくとりあえず、湖の周りを歩きましょうか? いつも通りにしていたら、はい。元通りかもしれませんし」
「そ、そうですね。元通りになるかもしれませんね。6月の伝説は、告白とデートで成立しますしね。はっきりとしたデートをして伝説を成立させつつ関係を戻してまいりましょうですね」
「あたしも同感ですね、ええ。ええ、ええ。ウロウロしましょう」

 そうして俺達は肩を並べて歩き出し、2人仲良く(?)恋人としての第一歩を踏み出したのでした――。



 ちなみに。この妙なギクシャクが取れたのは、それから十数分後。
 本当に俺達らしいことが切っ掛けで、元通りとなるのだった。

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