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第2話(2)

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「リルっ! リルっっ! リルっっっ! リルっっっっ!!」
「うん、うん……っ。アルフレッド……っ。あたしもずっと会いたくって、すっごく幸せ……っ。…………だけど……。そろそろ、回るのは止めてくれないかな……」

 アルフレッドは感極まっちゃって、抱き締めたままクルクル回り始めちゃった。
 高速人力(じんりき)カルーセル。これ以上このアトラクションに乗っていると、戻しちゃいそう。

「ワリィリルっ。大丈夫かっ?」
「なんとか、大丈夫。……アルフレッド。すぐに飛んで来てくれて、ありがとね」

 無事降りたあたしは、まず深呼吸。ゆっくりと三半規管を落ち着けて、アルフレッドの両手を握り締めた。

「それと、ずっと想ってくれてありがとう。別れ際に言ってくれた、『離れてても心はいつも一緒だ』『俺が愛するのは、一生リルだけだから』。その言葉のおかげで、あたしは今日まで生きてこれたんだよ」

 もしも婚約が切っ掛けで、この人が遠ざかってしまっていたら……。きっと完全に心が折れてしまって、自ら命を絶っていたんだよね。

「あの時ってさ、その前に『本当に、アナタに興味はなくなったの。あたしを忘れて、他の人と幸せになって』って言ったよね? でもそれでも、アルフレッドはそう言ってくれた」
「そりゃそうだろ。だってアレは、本心だけど本心じゃなかったからな」

 ちょっとでも嘘が混ざってる時は、右の親指と人差し指の爪を擦り合わせる。幼馴染だけが知る秘密だ。
 彼はそう言って笑い、続ける。

「だからさ。そっちがそう想ってくれてるなら、こっちだって遠慮なく想い続けるに決まってる。先に約束したのは俺なんだから、何があっても諦めはしないっての」
「っっ……っ。アルフレッド……っ」
「とはいえ、結局何もできなかったんだよなぁ。う~ん。あともう少し早ければなぁ」
「??? もう少し? なにかしようとしてくれてたの?」
「え? ぁっ。………………………………」

 アルフレッドも同じように沈黙して、3人は『あ~あ』と言いたげな白眼視をしている。
 なんなの? さっきの謎の箱といい、何が起きていたの?

「あのさ。ちょっと――」
「リル、今日はおめでたい日だ。そんなしょうもない、それこそクソみたいな話は忘れようじゃないか」
「そうね。アルフレッドくんも来てくれた事ですし、クソみたいなお話はここまで。積もる話もあるでしょうから、5人でのんびりとしましょ」

 お父様が無駄に爽やかな顔でテーブルを指差し、あたしは背中を押されて再びテーブルに戻される。
 お父様と母様らしくない言葉とか、色々気になるけど……。そういうことを出されると、今のあたしは抵抗できなくなっちゃう。

 だって、アルフレッドと話したいことは山ほどあるんだもん。

「父さん達は、二人のやり取りを見ているだけで幸せなんだ。こちらは気にせず、たっぷりと言葉を交わしてくれ」
「うん、ありがとう。……アルフレッド。あのね――」

 アルフレッドと再会できてどれほど嬉しいのかを、改めて伝えたり。
 辛い時はアルフレッドのことを考えていたって、伝えたり。
 今は夢みたいと伝えたり。

 あたしが居ない間に、どんな風に生活をしていたかを教えてもらったり。
 再会を一度も諦めたことはなかったと、教えてもらったり。
 10ヵ月の間にあったドジ話を教えてもらったり。

 話して、聞いて、2人で笑って、みんなで笑って。
 ウチではそれから4時間もの間、賑やかな声が響き渡ったのでした。

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