1 / 4
プロローグ シュゼット・ノムゾロット視点(1)
しおりを挟む
「シュゼット。すまんが、そこのカゴを取っておくれ」
「……………………」
「? シュゼット……?」
「? シュゼット? どうかしたの?」
熱い日差しが燦燦と照り付ける、8月初旬の正午過ぎ。お父様とお母様と一緒に畑で野菜の収穫作業をしていたわたしは、首を傾げながら周りを見回しました。
「今……。変な声が、聞こえませんでしたか……?」
うっすらと。聞こえるか聞こえないくらいの声量だったはず。
女性の声が、聞こえたような気がしたんです。
「わたしより少し高めで、大人びた優しい声だったような……。そんな声が、聞こえませんでしたか……?」
「…………いや、私には聞こえなかったな。タイスはどうだい?」
「わたくしにも、聞こえなかったわね。空耳じゃないかしら?」
現在畑にいるのはわたしたち家族達3人と、お手伝いをしてくれている人が6名。その中の2名は女性ですが、昔からお屋敷で働いてくれている人たちなので違うと分かります。
だとしたら、そうなりますよね。
「…………………………。でも……。確かに、聞こえたような気がするんですよね」
さっき言ったように声量はとても小さくて、周りに該当する声色の人は誰もいない。わたし自身も何かの勘違いだと感じているのですが、本能……と、いうのでしょうか。そちらが、『確かに聞こえた』と訴えています。
「こんな感覚は、初めてです……。なんなのでしょうか……?」
17年生きてきていますが、今までこんな不思議な感覚を経験したことはありません。これは何か、重要なことがある……?
それとも、本能の件も含め、大きな違いをしているだけ……?
「う~ん。なんなのだろうな……?」
「誰にもいないのに、聞こえる……。幽霊の声…………は、ないわね」
わたしは霊感がなく、これまで一度も霊を見たことがありません。逆にお母様には少しだけ霊感があって、そんなお母様に聞こえていないのだからあり得ませんよね。
「霊の類でもないとしたら……。動物、なわけもないよなあ」
「鳥は空にいるけれど、人語を喋るはずないものね。不思議だわ」
「……………………お父様お母様、戸惑わせてしまいすみません。声のことは忘れて作業をしましょう」
いくら考えても、これ以上の進展はなさそうです。明日からは公務が続くため作業は今日中に終わらせないといけないので、これ以上止めてはいけません。
「お父様、さっき頼まれていたカゴです。どうぞ」
「あ、ああ、ありがとう。……そうだね。作業に集中しようか」
そうしてわたし達は収穫を再開させ、陽が沈むまでせっせと働いてどうにか終了。無事やるべきことは全て終わったので、お屋敷に戻って湯浴みをして夕食を摂って、眠――
「っ!?」
――眠ろうとしていた、その時でした。
わたしは不意に、今日のお昼に起きたことは間違いではなかったのだと、知ることになるのでした。
《この方法ならば、貴女にわたくしの声が届くことでしょう。
シュゼット。この文字を理解できますよね?
貴女は『聖女』に覚醒しました 》
「……………………」
「? シュゼット……?」
「? シュゼット? どうかしたの?」
熱い日差しが燦燦と照り付ける、8月初旬の正午過ぎ。お父様とお母様と一緒に畑で野菜の収穫作業をしていたわたしは、首を傾げながら周りを見回しました。
「今……。変な声が、聞こえませんでしたか……?」
うっすらと。聞こえるか聞こえないくらいの声量だったはず。
女性の声が、聞こえたような気がしたんです。
「わたしより少し高めで、大人びた優しい声だったような……。そんな声が、聞こえませんでしたか……?」
「…………いや、私には聞こえなかったな。タイスはどうだい?」
「わたくしにも、聞こえなかったわね。空耳じゃないかしら?」
現在畑にいるのはわたしたち家族達3人と、お手伝いをしてくれている人が6名。その中の2名は女性ですが、昔からお屋敷で働いてくれている人たちなので違うと分かります。
だとしたら、そうなりますよね。
「…………………………。でも……。確かに、聞こえたような気がするんですよね」
さっき言ったように声量はとても小さくて、周りに該当する声色の人は誰もいない。わたし自身も何かの勘違いだと感じているのですが、本能……と、いうのでしょうか。そちらが、『確かに聞こえた』と訴えています。
「こんな感覚は、初めてです……。なんなのでしょうか……?」
17年生きてきていますが、今までこんな不思議な感覚を経験したことはありません。これは何か、重要なことがある……?
それとも、本能の件も含め、大きな違いをしているだけ……?
「う~ん。なんなのだろうな……?」
「誰にもいないのに、聞こえる……。幽霊の声…………は、ないわね」
わたしは霊感がなく、これまで一度も霊を見たことがありません。逆にお母様には少しだけ霊感があって、そんなお母様に聞こえていないのだからあり得ませんよね。
「霊の類でもないとしたら……。動物、なわけもないよなあ」
「鳥は空にいるけれど、人語を喋るはずないものね。不思議だわ」
「……………………お父様お母様、戸惑わせてしまいすみません。声のことは忘れて作業をしましょう」
いくら考えても、これ以上の進展はなさそうです。明日からは公務が続くため作業は今日中に終わらせないといけないので、これ以上止めてはいけません。
「お父様、さっき頼まれていたカゴです。どうぞ」
「あ、ああ、ありがとう。……そうだね。作業に集中しようか」
そうしてわたし達は収穫を再開させ、陽が沈むまでせっせと働いてどうにか終了。無事やるべきことは全て終わったので、お屋敷に戻って湯浴みをして夕食を摂って、眠――
「っ!?」
――眠ろうとしていた、その時でした。
わたしは不意に、今日のお昼に起きたことは間違いではなかったのだと、知ることになるのでした。
《この方法ならば、貴女にわたくしの声が届くことでしょう。
シュゼット。この文字を理解できますよね?
貴女は『聖女』に覚醒しました 》
76
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました ~後になって私の力に気付いたってもう遅い! 私は新しい居場所を見つけました~
日之影ソラ
ファンタジー
アルカンティア王国の聖女として務めを果たしてたヘスティアは、突然国王から追放勧告を受けてしまう。ヘスティアの言葉は国王には届かず、王女が新しい聖女となってしまったことで用済みとされてしまった。
田舎生まれで地位や権力に関わらず平等に力を振るう彼女を快く思っておらず、民衆からの支持がこれ以上増える前に追い出してしまいたかったようだ。
成すすべなく追い出されることになったヘスティアは、荷物をまとめて大聖堂を出ようとする。そこへ現れたのは、冷徹で有名な公爵様だった。
「行くところがないならうちにこないか? 君の力が必要なんだ」
彼の一声に頷き、冷徹公爵の領地へ赴くことに。どんなことをされるのかと内心緊張していたが、実際に話してみると優しい人で……
一方王都では、真の聖女であるヘスティアがいなくなったことで、少しずつ歯車がズレ始めていた。
国王や王女は気づいていない。
自分たちが失った者の大きさと、手に入れてしまった力の正体に。
小説家になろうでも短編として投稿してます。
聖女の私を追放?ちょうど私も出て行こうとしていたところです
京月
恋愛
トランプ王国で聖女として働いていたリリスをあまりよく思わない王子ガドラ。リリスに濡れ衣を着せ追放を言い渡す。ガドラ「リリス、お前はこの国から追放だ!!」(ドヤ) リリス「ちょうど私もこの国を出ようとしていたところなんですよ」(ニコ) ガドラ「……え?」
【完結】慈愛の聖女様は、告げました。
BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう?
2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は?
3.私は誓い、祈りましょう。
ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。
しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。
後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。
聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】
青緑
ファンタジー
聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。
———————————————
物語内のノーラとデイジーは同一人物です。
王都の小話は追記予定。
修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。
偽物の女神と陥れられ国を追われることになった聖女が、ざまぁのために虎視眈々と策略を練りながら、辺境の地でゆったり楽しく領地開拓ライフ!!
銀灰
ファンタジー
生まれたときからこの身に宿した聖女の力をもって、私はこの国を守り続けてきた。
人々は、私を女神の代理と呼ぶ。
だが――ふとした拍子に転落する様は、ただの人間と何も変わらないようだ。
ある日、私は悪女ルイーンの陰謀に陥れられ、偽物の女神という烙印を押されて国を追いやられることとなった。
……まあ、いいんだがな。
私が困ることではないのだから。
しかしせっかくだ、辺境の地を切り開いて、のんびりゆったりとするか。
今まで、そういった機会もなかったしな。
……だが、そうだな。
陥れられたこの借りは、返すことにするか。
女神などと呼ばれてはいるが、私も一人の人間だ。
企みの一つも、考えてみたりするさ。
さて、どうなるか――。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
聖女なのに王太子から婚約破棄の上、国外追放って言われたけど、どうしましょう?
もふっとしたクリームパン
ファンタジー
王城内で開かれたパーティーで王太子は宣言した。その内容に聖女は思わず声が出た、「え、どうしましょう」と。*世界観はふわっとしてます。*何番煎じ、よくある設定のざまぁ話です。*書きたいとこだけ書いた話で、あっさり終わります。*本編とオマケで完結。*カクヨム様でも公開。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる