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第32話 憎む理由 ソフィ―視点
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わたくしには、世界で一番嫌いな女がいる。その女の名前は、リュクレース・ハルトーン。
あの女を嫌いになった理由は、アイツだけ恵まれているからだ。
――わたくしとリュクレースは同性の弟子の中ではもっとも年齢が近く、そんな理由もあって同性の中では最も意識する存在だった――。
だからよく分かるのだけれど、わたくしはリュクレースよりも熱心にピアノに打ち込んでいた。
リュクレースより練習時間だって多いし、リュクレースより色々なコンサートを観て『聴く勉強』をしていた。
リュクレース、だけじゃない。他の弟子以上に日々頑張ってあらゆる角度から自分自身を磨き、散々努力をしてきた。
なのに――
……努力は、裏切らないのではなかったの……?
他の弟子に比べると受賞回数も最高位も多くも高くもなく、努力に相応しい成果がまったく出ていなかった。
まあそれでも、どちらもリュクレースには勝っていたからまだ納得できていた。努力は完全は裏切られていないと分かっていたから、プツンとなることもなかった。
なのに――
なんなのよ!?
相性のいい連弾のパートナーと出会った!? 先生の前座に抜擢された!? アルカンシエルの主催者推薦枠に選ばれた!?
おかしい!! おかしい!!
わたくしより全然努力していないのよ!? しかもわたくしは正々堂々『独奏』一本で勝負をしているというのに!! 自分が決めた道から逃げて二股をかけたリュクレースが、次々成功してゆくなんて!!
おかしい!! おかしい!!
有り得ない!! 有り得ない!!
こんなの間違っている!! 間違っている――のに、その間違いが修正されることはない。
わたくしは引き続き努力が報われずくすぶっているのに、アイツは光を浴び続けている。
――だったら、そうでしょう――?
――おかしい、有り得ない状況は、きっちりと正さないといけないでしょう――?
音楽の神様も世界の神様も、なんにもしないんだもの。
こんなにも努力をしている人を放っておいて、あんな女を贔屓しているんだもの。
世の中の『真面目なピアニストたち』のためにも、わたくしが止めるしかない。
「……公演も夢の舞台も辞退させて、なかったことにしてやりますわぁ……!!」
お父様も音楽の神様達と一緒で、真面目で使えない。だからわたくしが単独で行わないといけなくなり、その影響もあって、呪いを使った脅迫は失敗に終わった。
でも。大丈夫。
わたくしは同門故に、リュクレースの弱点を知っているのよね。
「緊張を消すお守り。あれがなくなれば、面白いことになりますわぁ」
もう二度と、大勢の前で演奏できなくなる。
「贔屓を享受し続けた、謙虚を知らない貴女が悪いのよぉ?」
今まで貯めてきたお金を叩(はた)いて適任を探し出して、残ったお金を全て注いで身分を偽装させた――上手いこと会場に忍び込ませることができた。
だ・か・ら。
9月19日日は最高の日になる。
はず、だったのに――
あの女を嫌いになった理由は、アイツだけ恵まれているからだ。
――わたくしとリュクレースは同性の弟子の中ではもっとも年齢が近く、そんな理由もあって同性の中では最も意識する存在だった――。
だからよく分かるのだけれど、わたくしはリュクレースよりも熱心にピアノに打ち込んでいた。
リュクレースより練習時間だって多いし、リュクレースより色々なコンサートを観て『聴く勉強』をしていた。
リュクレース、だけじゃない。他の弟子以上に日々頑張ってあらゆる角度から自分自身を磨き、散々努力をしてきた。
なのに――
……努力は、裏切らないのではなかったの……?
他の弟子に比べると受賞回数も最高位も多くも高くもなく、努力に相応しい成果がまったく出ていなかった。
まあそれでも、どちらもリュクレースには勝っていたからまだ納得できていた。努力は完全は裏切られていないと分かっていたから、プツンとなることもなかった。
なのに――
なんなのよ!?
相性のいい連弾のパートナーと出会った!? 先生の前座に抜擢された!? アルカンシエルの主催者推薦枠に選ばれた!?
おかしい!! おかしい!!
わたくしより全然努力していないのよ!? しかもわたくしは正々堂々『独奏』一本で勝負をしているというのに!! 自分が決めた道から逃げて二股をかけたリュクレースが、次々成功してゆくなんて!!
おかしい!! おかしい!!
有り得ない!! 有り得ない!!
こんなの間違っている!! 間違っている――のに、その間違いが修正されることはない。
わたくしは引き続き努力が報われずくすぶっているのに、アイツは光を浴び続けている。
――だったら、そうでしょう――?
――おかしい、有り得ない状況は、きっちりと正さないといけないでしょう――?
音楽の神様も世界の神様も、なんにもしないんだもの。
こんなにも努力をしている人を放っておいて、あんな女を贔屓しているんだもの。
世の中の『真面目なピアニストたち』のためにも、わたくしが止めるしかない。
「……公演も夢の舞台も辞退させて、なかったことにしてやりますわぁ……!!」
お父様も音楽の神様達と一緒で、真面目で使えない。だからわたくしが単独で行わないといけなくなり、その影響もあって、呪いを使った脅迫は失敗に終わった。
でも。大丈夫。
わたくしは同門故に、リュクレースの弱点を知っているのよね。
「緊張を消すお守り。あれがなくなれば、面白いことになりますわぁ」
もう二度と、大勢の前で演奏できなくなる。
「贔屓を享受し続けた、謙虚を知らない貴女が悪いのよぉ?」
今まで貯めてきたお金を叩(はた)いて適任を探し出して、残ったお金を全て注いで身分を偽装させた――上手いこと会場に忍び込ませることができた。
だ・か・ら。
9月19日日は最高の日になる。
はず、だったのに――
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