8 / 88
第4話 出逢い リュクレース視点(1)
しおりを挟む
「リュクレース様、ごきげんよう。奇遇ですね」
それは、マトローシュルズ湖に到着して間もなくのこと。5分も経っていない頃だと思います。
わたしは不意に、予想外なお声を聞くことになったのでした。
「フィリベール様! ごきげんよう。奇遇ですね」
振り向いた先にいらっしゃる、艶のある銀髪と整ったツリ目が印象的な――知的な銀狼を連想させる、大人びた雰囲気を纏う品のある男性。
こちらの方は、レイオズン伯爵家令息フィリベール様。わたしと同じ先生に師事している所謂ピアノの兄弟子でして、先生主催の演奏発表会やパーティーなどでよくご一緒する――先生に指導を受けるようになった6年前から、存じ上げている方なんです。
「リュクレース様のお話が切っ掛けでマトローシュルズ湖を訪れてみたら、リュクレース様がいらっしゃった。すごい偶然で、驚いてしまいました」
「わたしも、驚きました。まさかこんな場所でお会いできると思っていませんでした」
フィリベール様がいらっしゃるお屋敷からはウチ以上の距離があり、以前発表会の待機中に『実際に行った』というお話をした時は、『僕も行ってみたいけど時間が……』と仰っていました。先週お会いした際も当分は遠くへ行けないと仰られていたので、本当にビックリしました。
「とある理由によって当面は遠出ができるようになり、せっかくなので普段は行けない場所に行ってみようと思ったんです。ですのでこちら、以前から気になっていた場所を訪れてみました」
「そう、だったのですね。わたしも似たような理由でして。急遽自由な時間をいただけることになったので、普段は来れないマトローシュルズ湖を眺めに来たのです」
ラウルとの婚約解消やコダヴァルア様の件を、口外するわけにはいきませんからね。大事な部分は伏せて、事由をお伝えしました。
「…………なるほど。透き通った水面や緑豊かな景色は、のんびり過ごすにはうってつけですね」
「はい。うってつけです」
先週あった定期発表会でお会いした際に、わたしは『来週ラウルが久しぶりに帰って来て、会える』というお話をしました。
その話によると今日も婚約者と過ごしているはずなのに、ひとりでいる。
何かしらがあったと気付いたフィリベール様は、意図的にソコに触れずに流してくださりました。
「ああ、そういえば。せっかくお会いしたのだし、お誘いをしてみましょうか」
「?? フィリベール様?」
「こちらから二十数分ほど北に進んだ地点に、先日父の旧友が移転オープンをしたカフェが――ウチ以外の貴族も何名かお忍びで通っている、ケーキと紅茶が美味しいお店があるのですよ。挨拶がてらにあとで寄ろうと思っておりまして、お時間に余裕はございますか?」
「はっ、はいっ。本日は他の予定は入れておらず、時間に余裕があります。ですが、今回はお気持ちだけいただいておきます」
前回お会いした際にフィリベール様は、『週末は婚約者と過ごす』と仰っていました。
その方は――ラワトルス伯爵令嬢ミシェル様は、独占欲がとてもお強い方でして。ラワトルス様がいらっしゃる場では、異性は殆どお話しすることができないほどなのです。
いくら励ましてくださるためとはいえ、同席するとなるとラワトルス様が不快な思いをされてしまいますし、なによりフィリベール様が精神的に疲れてしま――
((ぁ……))
――しまう。そう思っていて、ようやく気が付きました。
ラワトルスが一緒にいらっしゃる際は、必ずラワトルス様はフィリベール様の隣にピッタリとくっつかれていました。なのにお姿が見えないし、数分経っても現れる気配すらありません。
((まさか……。でも……))
お相手はあのラワトルス様です。そんなことになるとは思えません。
ですが、今の状況を鑑みるに――
それは、マトローシュルズ湖に到着して間もなくのこと。5分も経っていない頃だと思います。
わたしは不意に、予想外なお声を聞くことになったのでした。
「フィリベール様! ごきげんよう。奇遇ですね」
振り向いた先にいらっしゃる、艶のある銀髪と整ったツリ目が印象的な――知的な銀狼を連想させる、大人びた雰囲気を纏う品のある男性。
こちらの方は、レイオズン伯爵家令息フィリベール様。わたしと同じ先生に師事している所謂ピアノの兄弟子でして、先生主催の演奏発表会やパーティーなどでよくご一緒する――先生に指導を受けるようになった6年前から、存じ上げている方なんです。
「リュクレース様のお話が切っ掛けでマトローシュルズ湖を訪れてみたら、リュクレース様がいらっしゃった。すごい偶然で、驚いてしまいました」
「わたしも、驚きました。まさかこんな場所でお会いできると思っていませんでした」
フィリベール様がいらっしゃるお屋敷からはウチ以上の距離があり、以前発表会の待機中に『実際に行った』というお話をした時は、『僕も行ってみたいけど時間が……』と仰っていました。先週お会いした際も当分は遠くへ行けないと仰られていたので、本当にビックリしました。
「とある理由によって当面は遠出ができるようになり、せっかくなので普段は行けない場所に行ってみようと思ったんです。ですのでこちら、以前から気になっていた場所を訪れてみました」
「そう、だったのですね。わたしも似たような理由でして。急遽自由な時間をいただけることになったので、普段は来れないマトローシュルズ湖を眺めに来たのです」
ラウルとの婚約解消やコダヴァルア様の件を、口外するわけにはいきませんからね。大事な部分は伏せて、事由をお伝えしました。
「…………なるほど。透き通った水面や緑豊かな景色は、のんびり過ごすにはうってつけですね」
「はい。うってつけです」
先週あった定期発表会でお会いした際に、わたしは『来週ラウルが久しぶりに帰って来て、会える』というお話をしました。
その話によると今日も婚約者と過ごしているはずなのに、ひとりでいる。
何かしらがあったと気付いたフィリベール様は、意図的にソコに触れずに流してくださりました。
「ああ、そういえば。せっかくお会いしたのだし、お誘いをしてみましょうか」
「?? フィリベール様?」
「こちらから二十数分ほど北に進んだ地点に、先日父の旧友が移転オープンをしたカフェが――ウチ以外の貴族も何名かお忍びで通っている、ケーキと紅茶が美味しいお店があるのですよ。挨拶がてらにあとで寄ろうと思っておりまして、お時間に余裕はございますか?」
「はっ、はいっ。本日は他の予定は入れておらず、時間に余裕があります。ですが、今回はお気持ちだけいただいておきます」
前回お会いした際にフィリベール様は、『週末は婚約者と過ごす』と仰っていました。
その方は――ラワトルス伯爵令嬢ミシェル様は、独占欲がとてもお強い方でして。ラワトルス様がいらっしゃる場では、異性は殆どお話しすることができないほどなのです。
いくら励ましてくださるためとはいえ、同席するとなるとラワトルス様が不快な思いをされてしまいますし、なによりフィリベール様が精神的に疲れてしま――
((ぁ……))
――しまう。そう思っていて、ようやく気が付きました。
ラワトルスが一緒にいらっしゃる際は、必ずラワトルス様はフィリベール様の隣にピッタリとくっつかれていました。なのにお姿が見えないし、数分経っても現れる気配すらありません。
((まさか……。でも……))
お相手はあのラワトルス様です。そんなことになるとは思えません。
ですが、今の状況を鑑みるに――
1,160
お気に入りに追加
2,058
あなたにおすすめの小説
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
星名柚花
恋愛
魔法が使えない伯爵令嬢セレスティアには美しい双子の妹・イノーラがいる。
国一番の魔力を持つイノーラは我儘な暴君で、セレスティアから婚約者まで奪った。
「もう無理、もう耐えられない!!」
イノーラの結婚式に無理やり参列させられたセレスティアは逃亡を決意。
「セラ」という偽名を使い、遠く離れたロドリー王国で侍女として働き始めた。
そこでセラには唯一無二のとんでもない魔法が使えることが判明する。
猫になる魔法をかけられた女性不信のユリウス。
表情筋が死んでいるユリウスの弟ノエル。
溺愛してくる魔法使いのリュオン。
彼らと共に暮らしながら、幸せに満ちたセラの新しい日々が始まる――
※他サイトにも投稿しています。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら
キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。
しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。
妹は、私から婚約相手を奪い取った。
いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。
流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。
そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。
それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。
彼は、後悔することになるだろう。
そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。
2人は、大丈夫なのかしら。
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる