困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

柚木ゆず

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第5話 行動開始 アン視点(3)

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ルシアン次期会頭・・・・。我々は貴男様につきます」

 1時間後、副会頭室。そこに集まり恭しく傅いたのは、ヴィッケルさんと9人の男性たち――残りの幹部、全員だった。
 この人達は皆が皆、名声とお金目当てで集っていたんだもの。つく相手を即座に変えるのは、当たり前よね。

「実を言いますと、以前からケヴィック会頭に不満を抱いていたのですよ」
「公私共に様々な問題がありました。この件がなくても、いずれ袂を分かちていましたよ」
「この商会を更に発展させるのは、貴方様の存在が必要不可欠。あの男・・・は要りませんよ」
「そして、エリオッツ君、君も不可欠のひとりだ。これからは我々で力を合わせて盛り上げていこうじゃないか!」

 あんなにもお父様にべったりだったのに、あんなにもお兄様を無下にしていたのに、この有様。
 ふふっ。
 人は呆れすぎると、噴き出しそうになってしまうものなのだと今日知った。

「……ありがとう。みなの英断に感謝する」
「はい、ミゲルさん。共に力を合わせて盛り上げてゆきましょう」

 叔父様もお兄様も、今現在わたしとおんなじ感情を抱いているはず。それでも本音を出してしまうと円滑に進まなくなるので、本心は心の隅の追いやっておく。

「では、行くとしようか。愚者に裁きを与えにな」

 そうしてわたし達は、副会頭室を出て会頭室を目指し――


 〇〇


「侯爵様とのパイプか……。ふふふ、ふふふ……! いいぞ! いいぞ……! いい調子だ……!!」

 アンが部屋を出てから、およそ1時間後。会頭室の中ではいまだに、ケヴィックが歓喜の声を上げていました。

裏切られた時あの時はどうなることかと思ったが、最高だ……! まさかあのクラスにお近づきになれるとは……! 最高だ! 最高だっ!」

 語彙が貧困になるほどに、大喜びするケヴィック。彼は顔をくしゃくしゃにしながら室内をクルクル回り、満面の笑みで天井を見上げました。

「よくやった! よくやったぞ! アン!! クラハ!!」

 ――よく色仕掛けを成功させた――。
 ――よくアンを器量よしに産んだ――。
 娘と、今は亡き妻。二人の顔を思い浮かべながら両者の名を呼び、更には大きく手を叩き始めました。

「いやぁすまなかったなっ、物分かりの悪い失敗作な娘だと思っていて悪かった! 治療費ばかりかかる貧乏神だと思っていて悪かった! お前達のおかげで、俺は更に高みを目指せるぞ! がははははははははは!!」

 他者が耳にしたら、おもわず顔を歪める暴言。醜い言霊を大量に吐き出したケヴィックは、上機嫌で更に続けようとしますが――それは、不意にできなくなります。
 なぜならば、

「なっ!? なにごとだ!?」

 アンやルシアンやエリオッツ達。娘や弟や自身の駒達が、無断で部屋に入って来たからです。


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