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第4話 久しぶりの再会は、予想外 アン視点(1)
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「すまん、所用のせいで少しばかり待たせる羽目になってしまった。……久しぶりだな、アン。会えて嬉しいよ」
「久しぶりですね、アン。またこうして会えること、嬉しく思います」
馬車に2時間ほど揺られ、目的地に着いたあと。サロンに通されて紅茶を飲みながら5~6分待っていると、扉が開いて二人の男性が入って来た。
向かって右側にいる、やせ型の眼鏡をかけた男性。この方がお父様の実弟、ルシアン叔父様。
向かって左側にいる、優しいブルーの瞳が印象的な落ち着いた雰囲気を持つ美男子。こちらは…………。
「アン? どうかしましたか?」
「え? な、なんでもありません。お気になさらないでください」
こちらは、ルシアン叔父様の子どもであるエリオッツお兄様。
この人達がわたしの数少ない味方で、唯一の希望だ。
「叔父様、お兄様、わたしも同じ気持ちです。それに『待つ』に関しては、突然要望を出した弊害ですよ。叔父様お兄様、多忙な時期にもかかわらず急な提案を呑んでくださり感謝いたします」
「……我々はあの時、結局兄の暴走を止められなかったからな。できることがあるのならば、なんでもやらせてもらうさ」
「そうですね。それにずっと、余計な耳がないところで直接聞きたいことがありました。あの手紙は、僕達にとっても願ったり叶ったりだったのですよ」
エリオッツお兄様は静かに頷いたあと、北西の方角――たぶんウチのお屋敷、お父様がいる方向を一瞥した。
「『アンが上手いことやった』『やはり男は性欲で籠絡できる』『見た目こそ正義だ』と兄が馬鹿笑いをしていたが、そんなはずがない」
「イブライムはどんな理由があれ、格下と見下している人間と無意味に関係を持つはずがない。あの心変わりの裏には何かしらの大事(おおごと)が隠されていると僕達は考えていて、ずっと真実を知りたかったのですよ」
やっぱり、思った通り。叔父様とお兄様は相手を正しく分析されていて、あの報告に疑問を持たれていた。
「アン、教えてください。あちらで何があったのですか?」
「流石お兄様と叔父様、前置きを省けるのは助かります。実はですね、ハーニエル家は――」
信頼していたビジネスパートナーに裏切られたこと。
それによって全財産の半分以上をあっさり失ってしまったこと。
ファレルーザ家に主導権を握られるパターンおよび、敵対貴族に協力されるパターンを恐れていること。
わたしを味方につけ、お父様に真実を隠したままファレルーザ家から支援を受けようとしていること。
それを細かく伝え、そうしてわたしは――…………。『思った通り』ではないことを耳にし、おもわず唖然としてしまうのだった。
なぜ、そんな風になったのかというと――
「そうだったのですね。それはよかった。……そういうことなら、秘密裏に動かしていた計画が役に立ちます」
――突然わたしの前に、渇望していた選択肢が現れたのだから。
「久しぶりですね、アン。またこうして会えること、嬉しく思います」
馬車に2時間ほど揺られ、目的地に着いたあと。サロンに通されて紅茶を飲みながら5~6分待っていると、扉が開いて二人の男性が入って来た。
向かって右側にいる、やせ型の眼鏡をかけた男性。この方がお父様の実弟、ルシアン叔父様。
向かって左側にいる、優しいブルーの瞳が印象的な落ち着いた雰囲気を持つ美男子。こちらは…………。
「アン? どうかしましたか?」
「え? な、なんでもありません。お気になさらないでください」
こちらは、ルシアン叔父様の子どもであるエリオッツお兄様。
この人達がわたしの数少ない味方で、唯一の希望だ。
「叔父様、お兄様、わたしも同じ気持ちです。それに『待つ』に関しては、突然要望を出した弊害ですよ。叔父様お兄様、多忙な時期にもかかわらず急な提案を呑んでくださり感謝いたします」
「……我々はあの時、結局兄の暴走を止められなかったからな。できることがあるのならば、なんでもやらせてもらうさ」
「そうですね。それにずっと、余計な耳がないところで直接聞きたいことがありました。あの手紙は、僕達にとっても願ったり叶ったりだったのですよ」
エリオッツお兄様は静かに頷いたあと、北西の方角――たぶんウチのお屋敷、お父様がいる方向を一瞥した。
「『アンが上手いことやった』『やはり男は性欲で籠絡できる』『見た目こそ正義だ』と兄が馬鹿笑いをしていたが、そんなはずがない」
「イブライムはどんな理由があれ、格下と見下している人間と無意味に関係を持つはずがない。あの心変わりの裏には何かしらの大事(おおごと)が隠されていると僕達は考えていて、ずっと真実を知りたかったのですよ」
やっぱり、思った通り。叔父様とお兄様は相手を正しく分析されていて、あの報告に疑問を持たれていた。
「アン、教えてください。あちらで何があったのですか?」
「流石お兄様と叔父様、前置きを省けるのは助かります。実はですね、ハーニエル家は――」
信頼していたビジネスパートナーに裏切られたこと。
それによって全財産の半分以上をあっさり失ってしまったこと。
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それを細かく伝え、そうしてわたしは――…………。『思った通り』ではないことを耳にし、おもわず唖然としてしまうのだった。
なぜ、そんな風になったのかというと――
「そうだったのですね。それはよかった。……そういうことなら、秘密裏に動かしていた計画が役に立ちます」
――突然わたしの前に、渇望していた選択肢が現れたのだから。
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