上 下
7 / 39

第3話 変化と変化 アン視点(4)

しおりを挟む
((『実家に戻り、お父様に交渉してまいります』。そう言っておけば、簡単にこの場を離れられるのだけれど……。それはそれで、面倒なことになるわね))

 大喜びするイブライム様達と、笑顔で握手をしながら。わたしは心の中で眉根を寄せる。

((お父様が現状を知ったら……。絶対に、最悪な選択をしてしまうでしょうね))

 あの人は、自己顕示欲の塊。家や商会は二の次で、とにかく自分の地位を高めようとしている。
 商売では決して手に入らない、『名家』とのパイプ作りに執心している。
 この件を活かして服従路線に持ち込んでおけばいいものを、欲を出してより大きな魚を吊り上げようとする。今回のように相手をロクに分析せず敵対貴族に飛びついてしまい、やがて手酷く裏切られ、大失敗をしてしまう未来しか見えない。

((次の相手選びは、重要よね))

 男爵家とはいえ貴族の一員として生まれたという自覚はあって、わたしは幼い頃から家の発展のための『駒』であり『歯車』になる覚悟はしている。とっくに我は捨てていて、家の糧となるならどんな相手とでも結婚するし子どもを作るつもりでいる。
 なのでどんなに自己中心的で我が儘でも耐えられるのだけど、何があっても裏切らない『家』に属する人間を選ばないといけない。

((でも、それがお父様にはできないし……。あまつさえ、現状お父様を止める術はない))

 おじい様――ご先祖様たちが築き上げた財産や地位を譲り受けただけの存在だけど、当主であり商会頭という地位は非常に強い。副会頭である実弟叔父様に座を奪われないよう色んな人を味方につけていて――金で従わせていて、正論を以てしても両方どころか片方の席ですら奪い取れはしないのよね。

((はぁ。どうしたものかしらね))

 この場から脱出するには、お屋敷に戻る以外の選択肢はない。しかしながら戻って状況を伝えたら、更に酷い道に転換する羽目になってしまう。

((お屋敷に突然帰ったら理由を聞かれるし、状況を隠したままココに戻ってきたら暴走が待っている。どうすればいいのかしらね……))

 現状この二つしか選択肢がなく、どっちを選んでも待っているのはバッドエンド。おもわずこめかみを抑えたくなる酷さで現実逃避をしたくなるけど、考えることを放棄してしまったらご先祖様に申し訳が立たなくなってしまう。

((…………動きながら、どうにかして見つけるしかないわね。活路を))

『現状この二つしか選択肢がない』のだから、この先選択肢が増える可能性がないわけではない。
 どこかに光はあると、信じて。
 わたしは前を向き、思考を巡らせながら実家への帰り支度を始めて――。翌日。

 とある計画を胸に秘めた状態で、ハーニエル家が用意した馬車に乗り込んだのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚式の日取りに変更はありません。

ひづき
恋愛
私の婚約者、ダニエル様。 私の専属侍女、リース。 2人が深い口付けをかわす姿を目撃した。 色々思うことはあるが、結婚式の日取りに変更はない。 2023/03/13 番外編追加

えっと、幼馴染が私の婚約者と朝チュンしました。ドン引きなんですけど……

百谷シカ
恋愛
カメロン侯爵家で開かれた舞踏会。 楽しい夜が明けて、うららかな朝、幼馴染モイラの部屋を訪ねたら…… 「えっ!?」 「え?」 「あ」 モイラのベッドに、私の婚約者レニー・ストックウィンが寝ていた。 ふたりとも裸で、衣服が散乱している酷い状態。 「どういう事なの!?」 楽しかった舞踏会も台無し。 しかも、モイラの部屋で泣き喚く私を、モイラとレニーが宥める始末。 「触らないで! 気持ち悪い!!」 その瞬間、私は幼馴染と婚約者を失ったのだと気づいた。 愛していたはずのふたりは、裏切り者だ。 私は部屋を飛び出した。 そして、少し頭を冷やそうと散歩に出て、美しい橋でたそがれていた時。 「待て待て待てぇッ!!」 人生を悲観し絶望のあまり人生の幕を引こうとしている……と勘違いされたらしい。 髪を振り乱し突進してくるのは、恋多き貴公子と噂の麗しいアスター伯爵だった。 「早まるな! オリヴィア・レンフィールド!!」 「!?」 私は、とりあえず猛ダッシュで逃げた。 だって、失恋したばかりの私には、刺激が強すぎる人だったから…… ♡内気な傷心令嬢とフェロモン伯爵の優しいラブストーリー♡

婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい

今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。 父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。 そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。 しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。 ”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな” 失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。 実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。 オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。 その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。

完結 穀潰しと言われたので家を出ます

音爽(ネソウ)
恋愛
ファーレン子爵家は姉が必死で守って来た。だが父親が他界すると家から追い出された。 「お姉様は出て行って!この穀潰し!私にはわかっているのよ遺産をいいように使おうだなんて」 遺産などほとんど残っていないのにそのような事を言う。 こうして腹黒な妹は母を騙して家を乗っ取ったのだ。 その後、収入のない妹夫婦は母の財を喰い物にするばかりで……

厚かましい妹の言掛りがウザ……酷いので、家族総出でお仕置きしてみた。

百谷シカ
恋愛
「はあ!? 自分が愛されてるとでも思ってるの? ディーン様は私を愛しているのよ!!」 私はオーベリソン伯爵令嬢カルロッテ・バーン。 婚約者のディーンことシーヴ伯爵とは、超絶うまくいっている。 「お姉様みたいに血筋しか取り柄のない女どもは所詮ちんけな政治の道具! 図に乗らないで!」 このムカムカする女は年子の妹エヴェリーナ。 2ヶ月前、ライル侯爵令息アルヴィン・クーパー卿と婚約してからというもの図に乗っている。 「ディーンと私はラブラブよ」 「はあ!? 頭がおかしいんじゃない? 結婚なんて諦めて修道院にでも入ったらぁ?」 「はあ?」 「〝はあ!?〟 それしか言えないわけ? 本当に救いようのない馬鹿ね!」 たしかに超絶美少女のエヴェリーナはその美貌でアルヴィン卿を射止めたけど…… 「あの方の前では猫被ってるから」 私たち家族は頭を抱えた。 そして、私の婚約者ディーンはブチギレた。 「俺の愛しているのはカルロッテただひとりだ。むかつく!」 そこで私たちは計画を立てた。 エヴェリーナの本性をアルヴィン卿に晒してやるのだ……!

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

【完結】私の妹を皆溺愛するけど、え? そんなに可愛いかしら?

かのん
恋愛
 わぁい!ホットランキング50位だぁ(●´∀`●)ありがとうごさいます!  私の妹は皆に溺愛される。そして私の物を全て奪っていく小悪魔だ。けれど私はいつもそんな妹を見つめながら思うのだ。  妹。そんなに可愛い?えぇ?本当に?  ゆるふわ設定です。それでもいいよ♪という優しい方は頭空っぽにしてお読みください。  全13話完結で、3月18日より毎日更新していきます。少しでも楽しんでもらえたら幸いです。

処理中です...