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プロローグ アン・フェリルーザ視点
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((……あら? どうしたのかしら……?))
朝の、7時ちょうど。ハーニエル伯爵家所有の敷地内にある古びた『はなれ』を出て、同敷地内に建つ豪華なハーニエル伯爵邸に入る。
4か月前から日常となってしまった行動をとっていると、お屋敷の中ではいつもとは違うことが起きていた。
「…………………………」
「…………………………」
普段はわたしを見つけると、揃って鼻で笑っていたハーニエル伯爵家の家令や使用人。そんな人たちの顔が青ざめていて、全員がその場で右往左往していたのだった。
「ティボさん、おはようございます。なにかあったのですか?」
「…………まさか、こんなことになってしまうなんて……。どうすればいいのだ……」
「……ティボさん? わたしの声が、聞こえませんか? ティボさん?」
「…………まさか、こんなことになってしまうなんて……。どうすればいいのだ……」
一番近くにいた、初老の男性――この家の家令に話しかけてみたら、返ってくるのは頭を抱えながらの独り言だけ。念のためもう一回繰り返してみても結果は変わらず、肩に触れてみても一切反応しなかった。
((……何をやっても駄目みたいね。他の人を当たりましょうか))
別の人間なら、話が通じるかもしれない。そう思ってエントランスに居たわたしは、邸内を進み――
「レナさん、おはようございます。わたしの声が分かりますか?」
「…………………………」
「アンナさん、おはようございます。わたしの声が聞こえていますか?」
「…………………………」
――さっきと同じような出来事を繰り返しながら更に廊下を進み、やがて執務室の前で立ち止まる。
この部屋の中からは、大声が多数――複数人の話し声が聞こえてきていた。会話が出来ているのはある程度意思の疎通を図れる証なので、まずはノックをおこな――
「ああっ、ちょうどよかった! 今から会いに行こうと思っていたところなんだよっ!」
――ノックをしようとしていたら扉が開き、中から細いフレームの眼鏡をかけた細身の男性が現れた。
この方は、イブライム様。この家の嫡男であり今はまだわたしの婚約者であり、わたしが4か月前から冷遇されることになった発端になった方のひとり。
そんなイブライム様はおよそ4か月ぶりに、わたしへと無駄に優しい笑みを向けてきて――
「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」
――突然手を取りながら、信じれないことを仰ったのだった。
朝の、7時ちょうど。ハーニエル伯爵家所有の敷地内にある古びた『はなれ』を出て、同敷地内に建つ豪華なハーニエル伯爵邸に入る。
4か月前から日常となってしまった行動をとっていると、お屋敷の中ではいつもとは違うことが起きていた。
「…………………………」
「…………………………」
普段はわたしを見つけると、揃って鼻で笑っていたハーニエル伯爵家の家令や使用人。そんな人たちの顔が青ざめていて、全員がその場で右往左往していたのだった。
「ティボさん、おはようございます。なにかあったのですか?」
「…………まさか、こんなことになってしまうなんて……。どうすればいいのだ……」
「……ティボさん? わたしの声が、聞こえませんか? ティボさん?」
「…………まさか、こんなことになってしまうなんて……。どうすればいいのだ……」
一番近くにいた、初老の男性――この家の家令に話しかけてみたら、返ってくるのは頭を抱えながらの独り言だけ。念のためもう一回繰り返してみても結果は変わらず、肩に触れてみても一切反応しなかった。
((……何をやっても駄目みたいね。他の人を当たりましょうか))
別の人間なら、話が通じるかもしれない。そう思ってエントランスに居たわたしは、邸内を進み――
「レナさん、おはようございます。わたしの声が分かりますか?」
「…………………………」
「アンナさん、おはようございます。わたしの声が聞こえていますか?」
「…………………………」
――さっきと同じような出来事を繰り返しながら更に廊下を進み、やがて執務室の前で立ち止まる。
この部屋の中からは、大声が多数――複数人の話し声が聞こえてきていた。会話が出来ているのはある程度意思の疎通を図れる証なので、まずはノックをおこな――
「ああっ、ちょうどよかった! 今から会いに行こうと思っていたところなんだよっ!」
――ノックをしようとしていたら扉が開き、中から細いフレームの眼鏡をかけた細身の男性が現れた。
この方は、イブライム様。この家の嫡男であり今はまだわたしの婚約者であり、わたしが4か月前から冷遇されることになった発端になった方のひとり。
そんなイブライム様はおよそ4か月ぶりに、わたしへと無駄に優しい笑みを向けてきて――
「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」
――突然手を取りながら、信じれないことを仰ったのだった。
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