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第13話 氷解 アンナ視点(1)

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「そう、だったのですね……。ようやく、納得がいきました」

 ダヴィッド様から大事なお話を伺い、私の中で疑問が全て溶けていきました。


 オペラにローズティーを合わせようとしたのは、かつて好んでいた組み合わせだったから。
 夢で知らない場所で会っていたのは、そこが前世で暮らしていた場所だったから。
 そして。

『私達が婚約を破棄するつもりだとご存じで、お手紙のことも存じ上げている。もしかすると、ダヴィッドく――いえ。ダヴィッド様は……』

 私は時々、無意識的にダヴィッドくんと呼びそうになることがありました。
 それは私がかつて、『アドリアンくん』と呼んでいたから。


 数々、おかしなことが起きていた理由。それらは全部、前世で経験していたからでした。

「……パニックなどはなく、滑らかに信じて頂けたのですね。安心いたしました」
「仰られている通りそちらは荒唐無稽で、伺い始めた頃は頭の中がグルグル回っているような感覚がありました。ですが様々な不自然を経験していましたし、実は私も歳不相応な性質と不思議な感情があったのですよ」
「そう、だったのですか?」
「はい。きっと、アドリアンくんを看取った影響だと思います。私は幼い頃から、悲しみに耐性があるんですよ」

 そういった面があるため、裏切りを知っても動揺がありませんでした。あれもまた、前世の影響だったのですね。

「そんな部分がありましたし、それになにより……」
「? アンナ様?」
「貴方様にずっと抱いていた、不思議な感情。そちらの正体がやっと分かりました。私も無意識的に、ダヴィッド様を愛していたのです」

 お傍に居るだけで、無条件で安心できてしまう大きな安心感。そちらはずっと、人格者で優秀な方だからだと思っていました。
 でも、そこも勘違いでした。
 その理由は、ダヴィッド様がアドリアンくんだったから。最愛の人が傍にいるから、そうなっていたのです。

「この気持ちをしっかり見つめてみると、あの夢で得た感情と同じ――夢の中でダヴィッド様と……アドリアンくんとキスをした時に得た、幸せと同じでした。なので何より心で理解できて、殊更にすとんと腑に落ちました」
「アンナ様……っ! 貴方は――貴方も……っ。そういった感情をずっと、抱いてくださっていたのですね……っ」
「ダヴィッド様も。そういった感情を、ずっと、抱いてくださっていたのですね……っ」
「………………」
「………………」

 全ての意味を理解したから、だと思います。私達は自然と見つめ合って、無言で相手の存在を感じ合って。そして――

「アンナ様、すみません。今の僕にはまだ、その資格はありません」

 ――手を取り合おうと、していた時でした。ダヴィッド様は申し訳なさげに、首を左右に振られたのでした。

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