幼馴染と結婚するために、私との婚約を一方的に解消した元婚約者様へ。貴方の幼馴染には、好きな人がいるみたいですよ?

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
12 / 28

第6話 あれから7か月後~ある夜の、いつもとは違う夢~ ドニ視点(1)

しおりを挟む
 あの日――二度と思い出したくない、忌々しいコンクールがあった日。最悪の出来事があった日の夜から、毎日見るようになった夢がある。
 それは、決まって同じ内容。まずは控え室にいる愛する人を訪ね、タキシードで身を固めた俺は流麗に愛の告白を行う。そして、

「新進気鋭のピアノ奏者、ルーフェ侯爵家のラファエル様。わたしはその方を、愛していますの」

 愛する人の口から予期せぬ言葉が飛び出し、

「『あんな男なんかより』。好きな人を貶されて、不快にならない人はいませんのよ?」

 やがては、ちょっとした間違いによって怖い顔になってしまう。
 そして……。そして…………。

「取り込み中だからこそだ。失礼させてもらうよ」

 怖くなってしまった顔を元に戻すために、二人きりで話しをしたいのに……!
 腹が立つ男ラファエル・・・・・が現れ、

「お待たせしました。大事なお話は、馬車の中で伺いますね」
「ご迷惑をおかけいたしました。……ありがとうございます、ラファエル様」

 シルヴィは幸せそうな顔をして、そんなラファエルと共に去って行く……。
 そんな『悪夢』が毎晩やって来て、俺を更に絶望のどん底へと叩き落としていた。もう見たくはないのに、何をやっても必ず出てきて……。
 そのせいもあって、俺は生きる気力を失くしていた。

((ああ、もう嫌だ……。こんな夢、もう見たくない……))


「新進気鋭のピアノ奏者、ルーフェ侯爵家のラファエル様。わたしはその方を、愛していますの」


 その日もやはり、そうだった。
 俺に向けている表情とは、まるで正反対……。
 どんなに嘆いても頬をピンク色に染めたシルヴィが出てきて、あの地獄のような時間が始まって――だが。その日は、違うこともあった。

「お待たせしました。大事なお話は、馬車の中で伺いますね」
「ご迷惑をおかけいたしました。……ありがとうございます、ラファエル様」

 最も苦痛を伴う、最後の場面。そこが終わって、いつものように俺が控え室で崩れ落ちた直後のことだった――


「よろしければ、こちらをお使いください。少しは楽になると思いますので」


 突然、懐かしい光景が蘇ってきたのだった。
 それは、今から1年と10か月前。リゼットと出会った夜の出来事で――

しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

結婚式間近に発覚した隠し子の存在。裏切っただけでも問題なのに、何が悪いのか理解できないような人とは結婚できません!

田太 優
恋愛
結婚して幸せになれるはずだったのに婚約者には隠し子がいた。 しかもそのことを何ら悪いとは思っていない様子。 そんな人とは結婚できるはずもなく、婚約破棄するのも当然のこと。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

殿下に裏切られたことを感謝しています。だから妹と一緒に幸せになってください。なれるのであれば。

田太 優
恋愛
王子の誕生日パーティーは私を婚約者として正式に発表する場のはずだった。 しかし、事もあろうか王子は妹の嘘を信じて冤罪で私を断罪したのだ。 追い出された私は王家との関係を優先した親からも追い出される。 でも…面倒なことから解放され、私はやっと自分らしく生きられるようになった。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

待ち合わせの時間になっても婚約者は迎えに来ませんでした。平民女性と駆け落ちしたですって!?

田太 優
恋愛
待ち合わせの時間になっても婚約者は迎えに来なかった。 そして知らされた衝撃の事実。 婚約者は駆け落ちしたのだ。 最初から意中の相手がいたから私は大切にされなかったのだろう。 その理由が判明して納得できた。 駆け落ちされたのだから婚約破棄して慰謝料を請求しないと。

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

処理中です...