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第4話 お茶の相手 アニエス視点(1)
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「お時間を設けてくださり、ありがとうございます。そして、いつも申し訳ございません。お茶やお話しを行う場所が、毎回こんなところになってしまって」
護衛の方に囲まれた車内で暫く時間を過ごし、訪れた場所。それはデレアス男爵家邸内の2階にある、大切な方の私室でした。
例えるなら、穏やかな白馬の王子様。
サラサラの髪を僅かに揺らしながら、気品あふれる柔らかな笑顔で出迎えてくださったシャルル様。この方はいつものように、真っ先に感謝と謝罪のお言葉を口にされた。
「シャルル様、お気になさらないでください。そちらは大きな事情があってのことですし、なにより……っ。大好きな方と過ごす時間は、どこであっても幸せなものとなりますので」
今からおよそ9月前。ノズエルズ様と縁を切って、1か月と少しが経った頃。突然、シャルル様から――かつて学院でクラスメイトだった方から、お手紙が届いた。
《級友として3年間貴方の傍で過ごし、その間に好意を抱いていました》
《こういったタイミングでこのようなお話をさせていただくのは、不適切だと重々理解しております。ですがどうしてもお伝えしておきたいものがありまして、よろしければ後日直接お会いする機会をいただけないでしょうか?》
あちらの一方的な言い分と侯爵家の力を臭わせた力押しにより、『とある事情によって円満に解消された』となってしまった婚約。その経緯はどうであれ、こんなタイミングで同様の話を持ち出すことは、この国ではマナー違反となっている。シャルル様はそれを承知の上で、提案されたこと。
便箋を5枚も使った、心の籠った文章でお手紙が紡がれていたこと。
それが気になりお受けし、その後ケティリア邸内でお会いしました。そしてその際にシャルル様の想いと――どうしてこのタイミングでしかお伝えすることができなかったのか、などなど。この方に関する非常に重要なお話を明かしていただき、
「……以上が、僕の秘密です。もちろん、すぐに受け入れていただけるなどと思ってはおりません。貴方様のお気が済むまで、この男を見極めてください。そのためにどうか今後も、貴方様と言葉を交わすことをお許しください」
「……はい。お言葉に甘え、そうさせていただきます」
事情を理解していても、異性に対する不安であり不信感はある。この方はそれを理解してくださっていて、その日からシャルル様曰く『お試し期間』が始まった。
そうして私達は定期的にこの部屋でお会いすることになって、それは毎回、とても楽しい時間となりました。
ですので。そうなるのは、必然的でした。
「シャルル様。私は今、貴方様と同じ気持ちになっています」
「……アニエス様、ありがとうございます。…………わたしシャルルは、貴方の心身を守護する騎士となります。アニエス様の人生を眩しいものとすると、お約束したします」
2人の時間が始まって、8か月後――1か月前に、私アニエスはこの方の婚約者となっていたのです。
護衛の方に囲まれた車内で暫く時間を過ごし、訪れた場所。それはデレアス男爵家邸内の2階にある、大切な方の私室でした。
例えるなら、穏やかな白馬の王子様。
サラサラの髪を僅かに揺らしながら、気品あふれる柔らかな笑顔で出迎えてくださったシャルル様。この方はいつものように、真っ先に感謝と謝罪のお言葉を口にされた。
「シャルル様、お気になさらないでください。そちらは大きな事情があってのことですし、なにより……っ。大好きな方と過ごす時間は、どこであっても幸せなものとなりますので」
今からおよそ9月前。ノズエルズ様と縁を切って、1か月と少しが経った頃。突然、シャルル様から――かつて学院でクラスメイトだった方から、お手紙が届いた。
《級友として3年間貴方の傍で過ごし、その間に好意を抱いていました》
《こういったタイミングでこのようなお話をさせていただくのは、不適切だと重々理解しております。ですがどうしてもお伝えしておきたいものがありまして、よろしければ後日直接お会いする機会をいただけないでしょうか?》
あちらの一方的な言い分と侯爵家の力を臭わせた力押しにより、『とある事情によって円満に解消された』となってしまった婚約。その経緯はどうであれ、こんなタイミングで同様の話を持ち出すことは、この国ではマナー違反となっている。シャルル様はそれを承知の上で、提案されたこと。
便箋を5枚も使った、心の籠った文章でお手紙が紡がれていたこと。
それが気になりお受けし、その後ケティリア邸内でお会いしました。そしてその際にシャルル様の想いと――どうしてこのタイミングでしかお伝えすることができなかったのか、などなど。この方に関する非常に重要なお話を明かしていただき、
「……以上が、僕の秘密です。もちろん、すぐに受け入れていただけるなどと思ってはおりません。貴方様のお気が済むまで、この男を見極めてください。そのためにどうか今後も、貴方様と言葉を交わすことをお許しください」
「……はい。お言葉に甘え、そうさせていただきます」
事情を理解していても、異性に対する不安であり不信感はある。この方はそれを理解してくださっていて、その日からシャルル様曰く『お試し期間』が始まった。
そうして私達は定期的にこの部屋でお会いすることになって、それは毎回、とても楽しい時間となりました。
ですので。そうなるのは、必然的でした。
「シャルル様。私は今、貴方様と同じ気持ちになっています」
「……アニエス様、ありがとうございます。…………わたしシャルルは、貴方の心身を守護する騎士となります。アニエス様の人生を眩しいものとすると、お約束したします」
2人の時間が始まって、8か月後――1か月前に、私アニエスはこの方の婚約者となっていたのです。
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