復縁して欲しい? 嫌です

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
6 / 33

第4話 お茶の相手 アニエス視点(1)

しおりを挟む
「お時間を設けてくださり、ありがとうございます。そして、いつも申し訳ございません。お茶やお話しを行う場所が、毎回こんなところになってしまって」

 護衛の方に囲まれた車内で暫く時間を過ごし、訪れた場所。それはデレアス男爵家邸内の2階にある、大切な方シャルル様の私室でした。

 例えるなら、穏やかな白馬の王子様。

 サラサラの髪を僅かに揺らしながら、気品あふれる柔らかな笑顔で出迎えてくださったシャルル様。この方はいつものように、真っ先に感謝と謝罪のお言葉を口にされた。

「シャルル様、お気になさらないでください。そちらは大きな・・・事情があってのことですし、なにより……っ。大好きな方と過ごす時間は、どこであっても幸せなものとなりますので」

 今からおよそ9月前。ノズエルズ様と縁を切って、1か月と少しが経った頃。突然、シャルル様から――かつて学院でクラスメイトだった方から、お手紙が届いた。


《級友として3年間貴方の傍で過ごし、その間に好意を抱いていました》

《こういったタイミングでこのようなお話をさせていただくのは、不適切だと重々理解しております。ですがどうしてもお伝えしておきたいものがありまして、よろしければ後日直接お会いする機会をいただけないでしょうか?》


 あちらの一方的な言い分と侯爵家の力を臭わせた力押しにより、『とある事情によって円満に解消された』となってしまった婚約。その経緯はどうであれ、こんなタイミングで同様の話を持ち出すことは、この国ではマナー違反となっている。シャルル様はそれを承知の上で、提案されたこと。
 便箋を5枚も使った、心の籠った文章でお手紙が紡がれていたこと。

 それが気になりお受けし、その後ケティリア邸内応接室でお会いしました。そしてその際にシャルル様の想いと――どうしてこのタイミングでしかお伝えすることができなかったのか、などなど。この方に関する非常に重要なお話を明かしていただき、

「……以上が、僕の秘密です。もちろん、すぐに受け入れていただけるなどと思ってはおりません。貴方様のお気が済むまで、この男を見極めてください。そのためにどうか今後も、貴方様と言葉を交わすことをお許しください」
「……はい。お言葉に甘え、そうさせていただきます」

 事情を理解していても、異性に対する不安であり不信感はある。この方はそれを理解してくださっていて、その日からシャルル様曰く『お試し期間』が始まった。
 そうして私達は定期的にこの部屋でお会いすることになって、それは毎回、とても楽しい時間となりました。
 ですので。そうなるのは、必然的でした。

「シャルル様。私は今、貴方様と同じ気持ちになっています」
「……アニエス様、ありがとうございます。…………わたしシャルルは、貴方の心身を守護する騎士となります。アニエス様の人生を眩しいものとすると、お約束したします」

 2人の時間が始まって、8か月後――1か月前に、私アニエスはこの方の婚約者となっていたのです。

しおりを挟む
感想 140

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

呪われた指輪を王太子殿下から贈られましたけど、妹が盗んでくれたので私は無事でした。

田太 優
恋愛
王太子殿下との望まない婚約はお互いに不幸の始まりだった。 後に関係改善を望んだ王太子から指輪が贈られたけど嫌な気持ちしか抱けなかった。 でもそれは私の勘違いで、嫌な気持ちの正体はまったくの別物だった。 ――指輪は呪われていた。 妹が指輪を盗んでくれたので私は無事だったけど。

結婚式間近に発覚した隠し子の存在。裏切っただけでも問題なのに、何が悪いのか理解できないような人とは結婚できません!

田太 優
恋愛
結婚して幸せになれるはずだったのに婚約者には隠し子がいた。 しかもそのことを何ら悪いとは思っていない様子。 そんな人とは結婚できるはずもなく、婚約破棄するのも当然のこと。

エデルガルトの幸せ

よーこ
恋愛
よくある婚約破棄もの。 学院の昼休みに幼い頃からの婚約者に呼び出され、婚約破棄を突きつけられたエデルガルト。 彼女が長年の婚約者から離れ、新しい恋をして幸せになるまでのお話。 全5話。

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。

田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。 ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。 私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。 王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

冤罪で婚約破棄してくれてありがとう。頭がお花畑の二人がどうやって自滅していくのか見守ってあげます。

田太 優
恋愛
事実無根の嫌がらせを理由に婚約破棄された私。 婚約者はきっと病弱な幼馴染と婚約したかったからそのようなことをしたのだろう。 だから私は二人の愛を応援し見守ることに決めた。 本当に病弱なのかを明らかにし、二人がしたことを明らかにし、私に非が無いことを明らかにしてからだけど。

処理中です...