2 / 33
第1話 なぜ? アニエス視点
しおりを挟む
「………………ヒューゴ・ノズエルズ様。これはどういうことなのですか?」
純白のタキシードに身を包み、真っ赤な薔薇の花束を携えた、見かけだけは爽やかな男性。もう二度と会いたくないと思っていた人を、半眼で見据える。
貴方様は11か月前に、浮気をしましたよね? ドロテ様が良いと仰って、ドロテ様を選ばれましたよね? 急にどうされたのですか?
「アニエス、あの時は本当に済まなかった! あの頃の俺の目は、濁りきってしまっていたんだよ!」
ノズエルズ様は深々と腰を折り曲げ、門を挟んで目の前にいる私達は――私と父と母は、思わず言葉を失ってしまう。
この人が、謝った。それはあの経験をした私達にとっては、信じられないものなのだから。
「ドロテが1番? あんなの間違いっ、大間違いだっ! 品格を備えた容姿! 広く清らかな心! それらを持ち合わせた君こそが1番!! 俺はようやく、それに気が付いたんだよっ!!」
「……だから……。貴方様は、こうされたと……?」
「ああっ!! その証拠に、すでにドロテとの関係は解消している! あんな見た目だけしか能のないダメ女との縁は、綺麗にばっさり絶ったんだよ!!」
見た目だけしか能のない……。ダメ女。
この人は、あの時もそうだった。飽きたら途端に、罵倒するのです。
「そしてっ、証拠はもう一つあるんだよっ! 今の俺は心から君をっ、アニエスだけを愛している! これが、それがまことだと表すものさっ!!」
ノズエルズ様がパチンと指を鳴らすと、後方で停まっている馬車から2人の男性が――使用人の方々が降りてきた。それぞれがお札の束、様々なアクセサリーが収まった箱を抱えて。
「150万ルーベル(1ルーベル=1円)のルビーの指輪。サファイヤのネックレス。ダイヤモンドのティアラ。総額、400万ルーベル超えの品々が見えるだろうっ?」
「……間近に、ありますので。見えていますよ」
「すごいだろう? すごいよなっ?」
彼は私の顔を見つめて独りで頷き、バッと勢いよく両手を広げる。
「なんと今日は、これをだ! あの日のお詫びとして、全て君にプレゼントする!! ……アニエス。これが、俺の誠意だ」
舞台俳優のような動作を続けるノズエルズ様は、言下姿勢を正します。そしてすぅっと大きく息を吸って息を吐き、
「アニエス。今の俺には君しか見えていないんだ! 俺と復縁して欲しい!!」
私を見つめながら、薔薇の花束を差し出してきました。
絶対に成功する――。そう感じていると一目で分かる、自信が漲る瞳。私はそんな目に微笑みを返し、
「っっ! ありがとうアニエ――」
「嫌です」
両手を前で揃え、深々と頭を下げたのでした。
純白のタキシードに身を包み、真っ赤な薔薇の花束を携えた、見かけだけは爽やかな男性。もう二度と会いたくないと思っていた人を、半眼で見据える。
貴方様は11か月前に、浮気をしましたよね? ドロテ様が良いと仰って、ドロテ様を選ばれましたよね? 急にどうされたのですか?
「アニエス、あの時は本当に済まなかった! あの頃の俺の目は、濁りきってしまっていたんだよ!」
ノズエルズ様は深々と腰を折り曲げ、門を挟んで目の前にいる私達は――私と父と母は、思わず言葉を失ってしまう。
この人が、謝った。それはあの経験をした私達にとっては、信じられないものなのだから。
「ドロテが1番? あんなの間違いっ、大間違いだっ! 品格を備えた容姿! 広く清らかな心! それらを持ち合わせた君こそが1番!! 俺はようやく、それに気が付いたんだよっ!!」
「……だから……。貴方様は、こうされたと……?」
「ああっ!! その証拠に、すでにドロテとの関係は解消している! あんな見た目だけしか能のないダメ女との縁は、綺麗にばっさり絶ったんだよ!!」
見た目だけしか能のない……。ダメ女。
この人は、あの時もそうだった。飽きたら途端に、罵倒するのです。
「そしてっ、証拠はもう一つあるんだよっ! 今の俺は心から君をっ、アニエスだけを愛している! これが、それがまことだと表すものさっ!!」
ノズエルズ様がパチンと指を鳴らすと、後方で停まっている馬車から2人の男性が――使用人の方々が降りてきた。それぞれがお札の束、様々なアクセサリーが収まった箱を抱えて。
「150万ルーベル(1ルーベル=1円)のルビーの指輪。サファイヤのネックレス。ダイヤモンドのティアラ。総額、400万ルーベル超えの品々が見えるだろうっ?」
「……間近に、ありますので。見えていますよ」
「すごいだろう? すごいよなっ?」
彼は私の顔を見つめて独りで頷き、バッと勢いよく両手を広げる。
「なんと今日は、これをだ! あの日のお詫びとして、全て君にプレゼントする!! ……アニエス。これが、俺の誠意だ」
舞台俳優のような動作を続けるノズエルズ様は、言下姿勢を正します。そしてすぅっと大きく息を吸って息を吐き、
「アニエス。今の俺には君しか見えていないんだ! 俺と復縁して欲しい!!」
私を見つめながら、薔薇の花束を差し出してきました。
絶対に成功する――。そう感じていると一目で分かる、自信が漲る瞳。私はそんな目に微笑みを返し、
「っっ! ありがとうアニエ――」
「嫌です」
両手を前で揃え、深々と頭を下げたのでした。
5
お気に入りに追加
2,518
あなたにおすすめの小説
妹は聖女に、追放された私は魔女になりました
リオール
恋愛
母の死と同時に現れた義母と異母妹のロアラ。
私に無関心の父を含めた三人に虐げられ続けた私の心の拠り所は、婚約者である王太子テルディスだけだった。
けれど突然突きつけられる婚約解消。そして王太子とロアラの新たな婚約。
私が妹を虐げていた?
妹は──ロアラは聖女?
聖女を虐げていた私は魔女?
どうして私が闇の森へ追放されなければいけないの?
どうして私にばかり悪いことが起こるの?
これは悪夢なのか現実なのか。
いつか誰かが、この悪夢から私を覚ましてくれるのかしら。
魔が巣くう闇の森の中。
私はその人を待つ──
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
妹が最優先という事で婚約破棄なさいましたよね? 復縁なんてお断りよッ!!
百谷シカ
恋愛
私の婚約者クライトン伯爵エグバート卿は善良で優しい人。
末っ子で甘えん坊の私には、うってつけの年上の彼。
だけど、あの人いつもいつもいつもいつも……なんかもうエンドレスに妹たちの世話をやいている。
そしてついに、言われたのだ。
「妹の結婚が先だ。それが嫌なら君との婚約は破棄させてもらう」
そして破談になった私に、メイスフィールド伯爵から救いの手が差し伸べられた。
次々と舞い込んでくる求婚話。
そんな中、妹の結婚が片付いたと言ってエグバート卿が復縁をもちかけてきた。
「嘘でしょ? 本気?」
私は、愛のない結婚なんてしないわよ?
======================================
☆読者様の御親切に心から感謝申し上げます。本当にありがとうございます。
ご心配頂きました件について『お礼とご報告』を近況ボードにてお伝えさせて頂きます。
引き続きお楽しみ頂けましたら幸いです♡ (百谷シカ・拝)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~
アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる