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プロローグ マエル・ザルテーラス視点
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「ロゼ? どうかしたのかい?」
今日は最愛の婚約者と共に、ウチの庭でアフタヌーンティーを楽しむ約束をしていた。今週僕は父上の補佐があって会うことができず、彼女は予定が決まった1週間前から心待ちにしてくれていた――のに、やって来てくれた彼女の表情が優れない。
新雪で作られた雪ウサギのような顔は、今の空、澄みきった青い空とは正反対。曇り空となっているため僕は問いかけ、そうして彼女は教えてくれた。
「マエル様……。妹のアメリが、『わたしにマエル様を頂戴』と言い始めたのです……」
僕達は3か月前に婚約し、それによって彼女の家と――ハズオルエ子爵家の家族全員と、親密な関係になった。そうして近い距離で過ごしているうちに、興味を持つようになった。
姉の婚約者は、自分好みの要素がいくつもあったこと。
ウチは侯爵家で、格上の家に嫁げること。
結婚したら、将来は侯爵夫人となれること。
そういった理由で僕を求めるようになり、4日前にそう宣言したらしい。
「……なるほどね。ついに彼女は、人まで欲しがるようになったのか」
アメリには、姉の物を――厳密に言うと、『姉が持つ価値ある物』を欲しがり奪う性質があった。これまではネックレスや指輪だったのだけれど、その対象が者にまで広がってしまったようだ。
「はい……。あの子は元々、あのような子でしたが……。人を欲しがり、平然と奪い取ろうとするとは思いませんでした……」
「まさか、感情を持つ相手にも我を通そうとするとはね。それで、ロゼ。当主ご夫妻はなんと仰っているんだい?」
「いつもと、同じでした。まずはベルお母様がアメリの味方をし、それを見たお父様は『姉なのだから妹に譲ってあげなさい』と言い出しました……」
「はぁ。当主殿は相変わらず、性悪後妻殿の言いなりだね」
前妻――ロゼの母親は彼女が生まれた2か月後に亡くなられていて、現在の夫人は2人目。したがってロゼとベルの間に血の繋がりはなく、アメリは2学年下の実妹であるものの、腹違いの妹となっている。
まあ、それ自体に問題はないのだけれど――。厄介なのは継母とその娘の性格と、当主がそんな後妻にご執心だということ。
妻ベルが白だと言えば、黒でも白となる。
当主殿自身は一応、2人の娘を対等に扱っているものの――。ベルは実の娘を溺愛する上に前妻の子を面白く思ってはおらず、アメリの我が儘を許して贔屓をしろと言う。
その結果ベルに夢中になっている彼はほいほいと従い、我が儘を許し贔屓をしまうのだ。あとから来たはずのアメリが、『家族の中に半分他人な人間が居る』と姉ロゼを見下しバカにしていても。
「……ベルお母様は『マエル様が愛想を尽かすように振る舞え』『アメリの応援をしろ』と仰り、私は拒否をしました。そうすると、手が上がって…………」
協力しないのなら、もういいわ。……むしろそっちの方が面白そうだから、貴方が愛想を尽かされるようにしてあげる――。
いい? マエル様には内緒にして、大人しくしていなさいよ? もし伝えたり少しでも怪しい動きがあれば、ここにあるユリのネックレスを壊すわよ――。
親子で頬を平手打ちした後、ロゼの部屋から母親の形見を持ち出し脅迫してきたらしい。
「ふ~ん。そんな真似をしたんだね」
僕の愛する人に仲良く暴力を振るって、そんな形で釘を刺したのか。
…………へぇ。やってくれるじゃないか。
そっか、そうなのか。
そっちがそうするのなら――
今日は最愛の婚約者と共に、ウチの庭でアフタヌーンティーを楽しむ約束をしていた。今週僕は父上の補佐があって会うことができず、彼女は予定が決まった1週間前から心待ちにしてくれていた――のに、やって来てくれた彼女の表情が優れない。
新雪で作られた雪ウサギのような顔は、今の空、澄みきった青い空とは正反対。曇り空となっているため僕は問いかけ、そうして彼女は教えてくれた。
「マエル様……。妹のアメリが、『わたしにマエル様を頂戴』と言い始めたのです……」
僕達は3か月前に婚約し、それによって彼女の家と――ハズオルエ子爵家の家族全員と、親密な関係になった。そうして近い距離で過ごしているうちに、興味を持つようになった。
姉の婚約者は、自分好みの要素がいくつもあったこと。
ウチは侯爵家で、格上の家に嫁げること。
結婚したら、将来は侯爵夫人となれること。
そういった理由で僕を求めるようになり、4日前にそう宣言したらしい。
「……なるほどね。ついに彼女は、人まで欲しがるようになったのか」
アメリには、姉の物を――厳密に言うと、『姉が持つ価値ある物』を欲しがり奪う性質があった。これまではネックレスや指輪だったのだけれど、その対象が者にまで広がってしまったようだ。
「はい……。あの子は元々、あのような子でしたが……。人を欲しがり、平然と奪い取ろうとするとは思いませんでした……」
「まさか、感情を持つ相手にも我を通そうとするとはね。それで、ロゼ。当主ご夫妻はなんと仰っているんだい?」
「いつもと、同じでした。まずはベルお母様がアメリの味方をし、それを見たお父様は『姉なのだから妹に譲ってあげなさい』と言い出しました……」
「はぁ。当主殿は相変わらず、性悪後妻殿の言いなりだね」
前妻――ロゼの母親は彼女が生まれた2か月後に亡くなられていて、現在の夫人は2人目。したがってロゼとベルの間に血の繋がりはなく、アメリは2学年下の実妹であるものの、腹違いの妹となっている。
まあ、それ自体に問題はないのだけれど――。厄介なのは継母とその娘の性格と、当主がそんな後妻にご執心だということ。
妻ベルが白だと言えば、黒でも白となる。
当主殿自身は一応、2人の娘を対等に扱っているものの――。ベルは実の娘を溺愛する上に前妻の子を面白く思ってはおらず、アメリの我が儘を許して贔屓をしろと言う。
その結果ベルに夢中になっている彼はほいほいと従い、我が儘を許し贔屓をしまうのだ。あとから来たはずのアメリが、『家族の中に半分他人な人間が居る』と姉ロゼを見下しバカにしていても。
「……ベルお母様は『マエル様が愛想を尽かすように振る舞え』『アメリの応援をしろ』と仰り、私は拒否をしました。そうすると、手が上がって…………」
協力しないのなら、もういいわ。……むしろそっちの方が面白そうだから、貴方が愛想を尽かされるようにしてあげる――。
いい? マエル様には内緒にして、大人しくしていなさいよ? もし伝えたり少しでも怪しい動きがあれば、ここにあるユリのネックレスを壊すわよ――。
親子で頬を平手打ちした後、ロゼの部屋から母親の形見を持ち出し脅迫してきたらしい。
「ふ~ん。そんな真似をしたんだね」
僕の愛する人に仲良く暴力を振るって、そんな形で釘を刺したのか。
…………へぇ。やってくれるじゃないか。
そっか、そうなのか。
そっちがそうするのなら――
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(他「エブリスタ」様に投稿)
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