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第7話 気絶(演技)中に起きていたこと ~とあるやり取り~ 俯瞰視点
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「いいえ。俺はこの力――膨大な魔力と2145ある魔法を、己の欲を満たす道具とはしませんよ」
それは今から、1時間ほど前のこと。学院内にある一室では、ジョルジュが鏡に向かって首を左右に振っていました。
「その世界に存在しない力を好き勝手に使ってしまえば、その世界のバランスが大きく崩れてしまう。ゆえに他者に攻撃性のある魔法を使用するのは、大切な人を護る時のみですよ」
《さ、さようでございますか。さすがは大魔法使い様でございます》
鏡面に映っている、顎にのみ髭を蓄えた初老の男性――治安組織のトップであるグレゴワール・ライナラスは、浮かんでいた脂汗を拭い安堵の息を吐き出しました。
――ジョルジュ・ハランテワことダンケル・マテリアスが本気になれば、この国はおろかこの世界はあっという間に支配下に置かれてしまう――。
対話をしたいと連絡を受けた彼は――素性を知得してしまっている彼には、そんな懸念がありました。しかしながらダンケルでありジョルジュは悪しき考えを持つ者ではなかったため、大きな大きな杞憂となっていたのです。
「したがって俺はこのあとロマーヌ・ジュリエラスに対し、そういった性質を持つ魔法を使う。精神干渉魔法『ループ』というものを使用します」
使用者が指定した時間を、かけられた者が反抗の気力を失くすまで繰り返し経験させる。かつて自身が創造した魔法の詳説を、グレゴワールに対して行いました。
「あの手の輩は収監してもまったく改心はせず、必ずまた動き出す。だから強制的に改心をさせ、再犯の芽を摘むのですよ」
《……な、なるほど……》
「この国の貴族法では、貴族間のトラブルはある程度刑の融通が利きます。そちらを使えば問題ありませんよね?」
《え、ええ。ございません》
貴族間のトラブルは、周囲を巻き込む厄介な争いの種に――国力の低下につながりかねません。そのため国王の命によって少しでも不満を解消できるルールが設けられており、ジョルジュは今回ソレを利用しようと考えていました。
「では、これよりそうさせていただきますね。グレゴワール殿、あちらの件も含め、よろしくお願い致します」
《はい。承知しております》
強大な力の存在が広く認知されれば、『不安』『恐怖』『利用』などなど、様々な問題を生みかねない。それをよく理解しているジョルジュは、自身の正体の公表および口外を控えて欲しいと口にしていたのです。
《今回の件は調査による冤罪発覚といたしますし、厳重な箝口令を敷きます。わたくしが責任を持って監督いたします故、ご安心を》
「助かります。それでは今度こそ、失礼致します」
そうしてジョルジュは保健室へと向かい、精神干渉魔法ループを発動させました。そのためロマーヌの繰り返しが始まり、その結果――
それは今から、1時間ほど前のこと。学院内にある一室では、ジョルジュが鏡に向かって首を左右に振っていました。
「その世界に存在しない力を好き勝手に使ってしまえば、その世界のバランスが大きく崩れてしまう。ゆえに他者に攻撃性のある魔法を使用するのは、大切な人を護る時のみですよ」
《さ、さようでございますか。さすがは大魔法使い様でございます》
鏡面に映っている、顎にのみ髭を蓄えた初老の男性――治安組織のトップであるグレゴワール・ライナラスは、浮かんでいた脂汗を拭い安堵の息を吐き出しました。
――ジョルジュ・ハランテワことダンケル・マテリアスが本気になれば、この国はおろかこの世界はあっという間に支配下に置かれてしまう――。
対話をしたいと連絡を受けた彼は――素性を知得してしまっている彼には、そんな懸念がありました。しかしながらダンケルでありジョルジュは悪しき考えを持つ者ではなかったため、大きな大きな杞憂となっていたのです。
「したがって俺はこのあとロマーヌ・ジュリエラスに対し、そういった性質を持つ魔法を使う。精神干渉魔法『ループ』というものを使用します」
使用者が指定した時間を、かけられた者が反抗の気力を失くすまで繰り返し経験させる。かつて自身が創造した魔法の詳説を、グレゴワールに対して行いました。
「あの手の輩は収監してもまったく改心はせず、必ずまた動き出す。だから強制的に改心をさせ、再犯の芽を摘むのですよ」
《……な、なるほど……》
「この国の貴族法では、貴族間のトラブルはある程度刑の融通が利きます。そちらを使えば問題ありませんよね?」
《え、ええ。ございません》
貴族間のトラブルは、周囲を巻き込む厄介な争いの種に――国力の低下につながりかねません。そのため国王の命によって少しでも不満を解消できるルールが設けられており、ジョルジュは今回ソレを利用しようと考えていました。
「では、これよりそうさせていただきますね。グレゴワール殿、あちらの件も含め、よろしくお願い致します」
《はい。承知しております》
強大な力の存在が広く認知されれば、『不安』『恐怖』『利用』などなど、様々な問題を生みかねない。それをよく理解しているジョルジュは、自身の正体の公表および口外を控えて欲しいと口にしていたのです。
《今回の件は調査による冤罪発覚といたしますし、厳重な箝口令を敷きます。わたくしが責任を持って監督いたします故、ご安心を》
「助かります。それでは今度こそ、失礼致します」
そうしてジョルジュは保健室へと向かい、精神干渉魔法ループを発動させました。そのためロマーヌの繰り返しが始まり、その結果――
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