私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
2 / 22

プロローグ マリエス視点(2)

しおりを挟む
「ふふふ、ふふふふふ。今の『ありがとう』は、『お願いを聞いてくれてありがとう』ではないんですの。『指紋をつけてくれてありがとう』、なんですのよ」

 普段のお顔とは、まるで違うソレ。別人だと思ってしまうほどの邪悪な笑みを浮かべられたロマーヌ様は、ご自身の背部を一瞥された。

「私の、指紋……。そのようなものを取って、なにをなさるおつもりなのですか……?」
「婚約者であるジョルジュ様は人気者で、実はずっと『最愛の人を誰に奪われるのではないか?』と危惧しついには被害妄想を抱くようになっていたマリエス。その結果自分へのプレゼントにはジョルジュ様への点数稼ぎという意図があると思い込み、激昂して相手を階段から突き落としてしまった。……こんな風にしようと、考えていますのよ」

 今回こうして人気(ひとけ)がない場所で待ち合わせをしたのも、ヒマワリのブローチを用意したのも、すべてはそちらを実現するため。ロマーヌ様に祝福してくださる気持ちは、微塵もありませんでした。

「……貴方様は、どうして……。そのようなことをなさるのですか……?」
「わたくしが、こうする理由。それは――この場で説明してあげるつもりだったけれど、残念。時間切れですわ」

 ロマーヌ様は懐中時計を取り出し、はぁと嘆息しました。

「貴方が遅れてきたせいで、もうすぐ音楽室を利用する生徒が来てしまいますわ。そのやり取りを聞かれてしまったら、台無しになってしまいますものね。そこは省かせてもらいますわ」
「……………………」
「とにかくわたくしは貴方を加害者にして、自分を被害者にしようとしていますの。そのためには尤もらしい証拠が必要で、それが『制服の背部に両手の指紋がべったりと付着している』なんですのよ」

 普通に生活していたらまず、そんな部分にそのような形でつきはしません。確かに、大きな意味を持つものとなりますね。

「わたくしの家は侯爵家で、そちらは子爵家。貴方にこの件をもみ消すだけの力はない」
「……そう、ですね」
「なのでこれとあの言い分・・・・・があれば少なくとも、退学には持っていける。わたくしがこんな話をした証拠は残らないけれど、指紋はしっかりと残っているから――。貴方をやっと、この学院から消せますわ」

 クスリ――。しっかりと嘲笑を浮かべたロマーヌ様は踵を返し、踊り場の端に――階段の手前に、移動を行いました。

「さぁて。わたくしがここからこの体勢で転げ落ちたら、罪の捏造が完成しますわ」
「…………ロマーヌ様、おやめください。そちらを実行された場合は、大変なことになってしまいます」
「うふふ。大変なことになるのは、貴方の方ですわよ?」
「………………ロマーヌ様。今ならまだ、取り返しがつきます。やり直せます。こういったやり取りはなかったことに致しますので、どうかおやめくだ――」
「懇願ではなく、偉そうに命令してくるだなんて。あの方と結婚できると思って調子に乗っているんですのねぇ。ああ不愉快、ますます嫌いになりましたわ」

 私の訴えは刺々しい声音に遮られ、冷たく攻撃的な視線による睥睨がやってきました。
 ……そう、なのですね。でしたら、仕方がありませんね。

「だから、会話はもう終わり。……貴方のせいで実際に痛い思いをするのは腹立たしいけれど、一石二鳥なのだからよしとしましょうか」

 正しい状況・・・・・を把握されていないロマーヌ様は私を鼻で嗤い、そのあと上機嫌で前方へと身体を倒してゆきます。そうして――

「きゃあああああああああああああああああああああああ!?」

 ――離れた場所にもしっかりと聞こえるよう大きな大きな悲鳴を上げ、派手に階段を転げ落ちていったのでした。













 ※次のお話は、ロマーヌ視点となります

しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

処理中です...