上 下
24 / 28

第9話 世界を超えた再会 ステラ視点(1)

しおりを挟む
「すばるっ。すばるっ! すばる! すばるっ! すばるっ!!」

 気がついたらわたしは、昴に抱き付いて胸に顔を埋めていた。
 言いたいことは沢山あるのに、他の言葉が出てこない。大切な人の――もう二度と呼べないと思っていた人の名前を、繰り返し呼ぶ。

「すばるっ! すばる! すばるっ。すばるっ!」
「うん……。うん。うん。僕だよ、林檎」

 そうしていると優しく抱き締めてくれて、昴の腕に包まれた。
 身体はあの頃とは違っているけど、温もりはおんなじ。肌を通して懐かしい温もりが伝わって来て、だからなんだと思う。昔の思い出が、間欠泉のように溢れ出してきた。


『林檎さん、貴方のことが大好きです。よかったら付き合ってくれませんか?』
『はい、喜んで。わたしもずっと、貴方のことが大好きでした』

 高校2年生の夏。体育館の裏で告白をされたこと。したこと。

『あ、あのさ。ええっと……。て、手を握っても、いいかな?』
『え!? どっ、どうぞっ! どうぞいくらでも握ってくださいっ!』

 わたし達は恋やデートの経験がなくって。お互いにドギマギしながら初めて手を繋いだこと。


 いくつもの掛け替えのないものが浮かび上がってきて、それらがますますわたしの語彙を貧困にさせてしまう。

「すばるっ。すばる! すばるっ。すばる! すばるっ!」

 いくら呼んでも、もっともっと呼びたくなってしまう。
 大好きな人に抱き付きながら感情の赴くままに声を出し、どのくらい経ったのか分からない――きっと、三十分以上は繰り返したんだと思う。そうしていたわたしはとある記憶を思い出し、それによって長時間続いた『すばる』は止まることになった――繰り返している余裕がなくなってしまったのだった。

『……林檎、これが僕の気持ちです。受け取っていただけますか?』
『………………はい。昴、ありがとう。わたしは今、幸せです』

 忘れもしない、9月8日。わたしの誕生日。二人で食事をしたあと立ち寄った夜景が綺麗な丘で、昴から婚約リングをもらった。

((…………それは前世の出来事で、昴にはずっとあの頃の記憶がなかった……。マイクス公爵家の嫡男レオナードとして、18年生きてきている……))

 わたしは鈴原林檎だと思い出していたし次女だったから、お父様とお母様が意を汲んでくれた。昴以外の人と婚約するなんて考えられなくて、我が儘を言ってそういった話は全部止めてもらっていた。
 でも昴はそうじゃなくて、だとしたら。だとしたら…………。
 昴には……。


 婚約者が、いる……?

しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

悪役令嬢だから知っているヒロインが幸せになれる条件【8/26完結】

音無砂月
ファンタジー
※ストーリーを全て書き上げた上で予約公開にしています。その為、タイトルには【完結】と入れさせていただいています。 1日1話更新します。 事故で死んで気が付いたら乙女ゲームの悪役令嬢リスティルに転生していた。 バッドエンドは何としてでも回避したいリスティルだけど、攻略対象者であるレオンはなぜかシスコンになっているし、ヒロインのメロディは自分の強運さを過信して傲慢になっているし。 なんだか、みんなゲームとキャラが違い過ぎ。こんなので本当にバッドエンドを回避できるのかしら。

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

処理中です...