私が幼馴染の婚約者と浮気をしていた? そんな事実はないのですが?

柚木ゆず

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第8話 2つ目の聴取 クレア視点(1)

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「君は昨日の午前11時半過ぎに、サネテリアス邸に到着した。そしてこの場所でクレアに迎えられ、手を繋いでキスまで行ったそうだね?」

 次に私達がやって来たのは、玄関の前。ダリアが目撃したとされる位置に集まり、マリアス様はファビオ様に身体ごと向き直られた。

「……………………」
「ファビオ? 君に尋ねているんだよ? そうなんだね?」
「はっ、はいっ! 細かい時間は記憶しておりませんが……。そういったことを、確かに行いました!」

 黒目がせわしなく動き、何度もコッソリとダリアを見ていたファビオ様。『相棒』のミスで内心激しく動揺している彼は、慌てて返事をした。

「……そう、なのか。…………いくら俺達の交際を明かしていないとはいえ、外でそこまでの行為に及ぶだなんて。そういった管理能力に長けている、クレアらしくない行動だね」
「わたくし達は都合が合わず、数日間会えておらず……。『我慢できなくてつい』と、その際にクレア様は仰られていました」
「ふぅん、我慢か。そんなにもクレアは、君を求めていたんだね?」
「は、はいっ。ジュレイアル様の前では、申し上げにくいことなのですが……。非常に、気に入ってくださっておりまして。そう、感じられていたようです」
「なるほどね。だとしたら納得で――おや? 待てよ。それならおかしいぞ」

 縦に動き始めていた首が、突如ストップ。そのまま僅かに傾き、今一度玄関の前へと視線が向けられた。

「ど、どこが……。どちらが、おかしい、のでしょうか……?」
「確認を、させてもらうよ。クレアは『我慢できなくてつい』と口にして、屋敷に入るまで待てない程の――1秒でも早く愛を伝えたいという状態に、なっていたんだよね?」
「ぇ……。………………」

 確認からの、ダリアの失敗。それが鮮明に、焼き付いているからだと思う。
 ファビオ様は言い淀み、でも――熟考する猶予は与えてくれない。

「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」

 質問には即答できる。その宣言と、治安局員の目。それによって長い沈黙は許されず、ファビオ様は肯定することとなってしまった。
 そして――

「だとしたら、やっぱりおかしいね。一秒でも早く伝えたいのなら、こんな場所で待っているはずはない。そんなにも待てないのであれば、あちらで――馬車を降りた君に駆け寄って、口づけなどをするはずだ」

 その結果この人は、そこを攻められることになったのだった。

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