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第5話 前夜の出来事~ダリアとファビオは、あのあと~ 俯瞰視点(2)
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「見つかった、見つかりましたわ……! これなら、回避できる……!! 浮気は捏造ではないと、思い込ませられますわ……!!」
ファビオに平手打ちをして黙らせてから、三十数分後のことでした。俯いていたダリアの顔が上がり、パチンと指を鳴らしました。
「わたくしったら、ついつい難しく考えてしまっていましたわ。どうしてこんな、単純なことに気付かったのかしら」
「た、単純……? なにをお気づきになられたんですかっ?」
作戦の失敗は、報酬や蒸発支援のなしを意味する――ファビオにとっても、失敗は死活問題です。そのため前傾姿勢になって反芻し、そうすればニヤリとした笑みが返ってきました。
「ジュレイアル様とクレアは、交際を行っていた。でも2人が会っていない時は、こっそり会えるでしょう?」
「そ、そうですね。会えますね」
「だから、浮気が嘘とは言い切れない。そこで、『怒られたくないからクレアが嘘を吐いているのかもしれない』。ジュレイアル様がそう思い込むように振る舞えばいいんですのよっ!」
「そ、それは仰る通りですが…………可能ですかね? ジュレイアル様が口にされていたように、あまりにも格上で浮気なんて――」
「お馬鹿ね、可能だから言っているのよ。そこも、問題ありませんわ」
再び、ニヤリ。ダリアは口元を緩めて遮り、余裕たっぷりで説明を始めました。
「わたくし達は浮気の証拠を持ってはいないものの、あちらだって浮気を否定できる証拠を持っていない。だからジュレイアル様の問いに、目撃者と張本人が――わたくしと貴方が全てに違和感なく答えられたら、惑わすことができるのよ」
「な、なるほど……! ですが……。どんな質問が来るか分かりませんし、そもそも……。オレは、クレアのことを殆ど知りません。簡単にボロが出てしまうのでは――」
「そうですわね。だからこれから、みっちりクレアの知識を叩き込んでもらいますのよ」
とんとん、と。ダリアは目の前にいるファビオの額を、人差し指で突っつきました。
「幸いにもわたくしはあの子の情報を沢山持っていて、ディープな秘密も知っている。それら、そしてこれから教えてあげる秘策を駆使すれば、可能なのよ」
「……ダリア、様……。もし偽装が失敗すれば、今度こそ大変なことになってしまいます……。今度こそ、大丈夫、なんですよね……?」
「自分の将来がかかっているのに、適当に考えると思う? 考えないでしょう? 二度も過ちは繰り返しませんわよ」
自信満々に言下首を縦に振り、ダリアはファビオを引っ張りエリテラット家の馬車に押し込みます。これは勿論、秘策のレクチャーとクレアの情報を覚え込ませるためです。
「貴方のお家にはウチの使者が事情を説明し、『2人で話し合うからエリテラット邸で一夜過ごす』と伝えておきますわ。……貴方は余計なことを考えなくていい。わたくしの指示に従っていれば、今度こそ幸せが手に入りますわ」
「はっ、はいっ! そうさせていただきます!!」
そうして2人を乗せた馬車は走り出し、ダリアとファビオによる新たな作戦がスタート。その後ファビオは厳しく『教育』を施され、どうにか無事全ての知識を記憶した状態で、サネテリアス子爵邸を――強敵・マリアスが待つ場所を、目指したのでした。
ファビオに平手打ちをして黙らせてから、三十数分後のことでした。俯いていたダリアの顔が上がり、パチンと指を鳴らしました。
「わたくしったら、ついつい難しく考えてしまっていましたわ。どうしてこんな、単純なことに気付かったのかしら」
「た、単純……? なにをお気づきになられたんですかっ?」
作戦の失敗は、報酬や蒸発支援のなしを意味する――ファビオにとっても、失敗は死活問題です。そのため前傾姿勢になって反芻し、そうすればニヤリとした笑みが返ってきました。
「ジュレイアル様とクレアは、交際を行っていた。でも2人が会っていない時は、こっそり会えるでしょう?」
「そ、そうですね。会えますね」
「だから、浮気が嘘とは言い切れない。そこで、『怒られたくないからクレアが嘘を吐いているのかもしれない』。ジュレイアル様がそう思い込むように振る舞えばいいんですのよっ!」
「そ、それは仰る通りですが…………可能ですかね? ジュレイアル様が口にされていたように、あまりにも格上で浮気なんて――」
「お馬鹿ね、可能だから言っているのよ。そこも、問題ありませんわ」
再び、ニヤリ。ダリアは口元を緩めて遮り、余裕たっぷりで説明を始めました。
「わたくし達は浮気の証拠を持ってはいないものの、あちらだって浮気を否定できる証拠を持っていない。だからジュレイアル様の問いに、目撃者と張本人が――わたくしと貴方が全てに違和感なく答えられたら、惑わすことができるのよ」
「な、なるほど……! ですが……。どんな質問が来るか分かりませんし、そもそも……。オレは、クレアのことを殆ど知りません。簡単にボロが出てしまうのでは――」
「そうですわね。だからこれから、みっちりクレアの知識を叩き込んでもらいますのよ」
とんとん、と。ダリアは目の前にいるファビオの額を、人差し指で突っつきました。
「幸いにもわたくしはあの子の情報を沢山持っていて、ディープな秘密も知っている。それら、そしてこれから教えてあげる秘策を駆使すれば、可能なのよ」
「……ダリア、様……。もし偽装が失敗すれば、今度こそ大変なことになってしまいます……。今度こそ、大丈夫、なんですよね……?」
「自分の将来がかかっているのに、適当に考えると思う? 考えないでしょう? 二度も過ちは繰り返しませんわよ」
自信満々に言下首を縦に振り、ダリアはファビオを引っ張りエリテラット家の馬車に押し込みます。これは勿論、秘策のレクチャーとクレアの情報を覚え込ませるためです。
「貴方のお家にはウチの使者が事情を説明し、『2人で話し合うからエリテラット邸で一夜過ごす』と伝えておきますわ。……貴方は余計なことを考えなくていい。わたくしの指示に従っていれば、今度こそ幸せが手に入りますわ」
「はっ、はいっ! そうさせていただきます!!」
そうして2人を乗せた馬車は走り出し、ダリアとファビオによる新たな作戦がスタート。その後ファビオは厳しく『教育』を施され、どうにか無事全ての知識を記憶した状態で、サネテリアス子爵邸を――強敵・マリアスが待つ場所を、目指したのでした。
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