私が幼馴染の婚約者と浮気をしていた? そんな事実はないのですが?

柚木ゆず

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第3話 追及 クレア視点(1)

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「さあ、答えてもらおうか。なぜあんな嘘を吐いたんだい?」
「「………………」」

 二人はそれに返事をできず、パクパクと口を動かすことしかできない。ファビオ様は今にも泣きそうな顔になり、ダリアは汗を沢山掻くようになってしまった。

「突然言語が通じなくなったのかな? 俺は君達に訪ねていて、君達には回答する義務がある。さあ、早く聞かせて欲しい。なぜ、あんな嘘を吐いたのかな?」
「ぁ……。ぇ……。ぁ……。ぇ……」
「うっ、嘘ではありませんわ……っ! こちらは、事実っ! 実際に起きた出来事なんですのっ!」

 そうしたのは、認めたら大変なことになってしまうから。ダリアは声を張り上げ、私とファビオ様を交互に見つめた。

「わたくしは確かにっ、目に致しました! クレアとファビオ様が口づけを交わし、仲良くお屋敷の中へと消えてゆく姿をっ!」
「……俺はついさっき、説明したよね? 今日は都合で会えてはいないけれど、それ以外は毎日会っていた。それにこちらは侯爵家だ。そんなことはしない、できないはずだけどね?」
「仰る通りでございます。ですがクレアはきっと、それほどまでにわたくしの婚約者を気に入っていたのですわっ。そのため必死に時間を調整して接触し、悟られないよう立ち回っていたのだと思いますっ」
「は、はいっ。クレア様とお会いする際はいつも短時間ですし、必ずお屋敷の中と決まっておりました! ジュレイアル様との交際は存じ上げておらず、実は不思議に感じておりまして! その理由がようやく納得できましたっ!」

 ダリアは早口で言い切ったあと隣へと高速で顔を向け、そうするとファビオ様は何度も何度も頷きを行った。

「残念ながら……その証拠を残す術はなく、証明はできません……。ですが間違いなく目撃していて、なによりっ、ファビオ様が――本人が認めております!」
「……クレア様を、裏切ることになりますが……。ダリア様への罪悪感を、強く覚えておりまして……。白状、致しました……」
「ジュレイアル様、皆さんもっ! ファビオ様が嘘を吐くメリットはありますか? ありませんよねっ?」

『……そう言われてみると……。ありません、わね』
『どちらに転んでも、白眼視が待っているんですもの。偽る理由が、ありませんわね……』
『だとしたら……。やはり、事実……? ジュレイアル様という御方がありながら、醜悪なお付き合いをされていた……?』

「ええっ、間違いありませんわ……。わたくし自身も、認めたくはありませんが……。そうとしか、思えませんわ……」

 おかしな点はないためオーディエンスからはこういった声が聞こえるようになり、それを引き立てるためにダリアは再び涙を――嘘泣きをする。そしておそらく、もう一押しするべく口をひら――こうとしていた時だった。

(ふぅん、そう出るのか。……素直に謝れば俺はこれで許してあげるつもりだったけど俺はここで引っ込むつもりだったけど、変更だ。最後まで相手をしてあげようじゃないか)

 私の左耳に、そんな小声が聞こえてきたのだった。

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