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第2話 もう一つ現れたウソ クレア視点
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「今からちょうど、1か月前だね。俺は以前から彼女の聡明さや振る舞いに惹かれていて、交際を申し込み恋人となっていたんだよ」
………………。たまらず言葉を失っていたら、その間にスラスラと説明が行われた。
1回生から所属が同じで2年間注目していて、抱いていた関心が好意に変わった。
自分はクレアのことを知っているけど、クレアは僕のことを知らない。だから知ってもらうために交際を頼み、受け入れてもらえた。
ジュレイアル侯爵家には、交際の段階では周りに伝えない――『婚約』をしてから関係を外に伝えるという少々妙な伝統があり、その段階に至っていないから黙っていた。
周囲に悟られルールを破ってしまわないように、学院などでは告白前の関係を続けていた。
……そんな理由が、あったみたい……。
「交際を始めて半月後に、幼馴染の婚約者に近づく。それはおかしな話だし、そもそも――。自分で言うのはアレだけれど、こちらは侯爵家であちらは子爵家だ。こんなにも『差』がある家の人間と関係を持っているのに別人と交際を始めるだなんて、正気の沙汰とは思えないよ」
『仰る通りですわ』
『ありえま、せんわね』
『ええ……。仮に行いたいと思っていても、実行できませんわ……』
子爵家が侯爵家の顔に泥を塗ってしまったら、どんなことになるか――。それを知らない人はおらず、場内にいる人々は一様に頷く。そうして大量にあった私への白い目は、あっという間に消えてしまった。
「だから君達の言い分は、嘘。嘘を吐いていると確信していたから、愛する人の名誉を守るために首を突っ込ませてもらったんだよ」
そう仰りながらジュレイアル様は私の隣へと立ち位置を変え、(話を合わせて)と私にしか聞こえない声量でメッセージが届いた。なので私はジュレイアル様の笑顔に笑顔を返し、差し出された手を握った。
「まさか、少し席を外している間にこんなことになっているなんてね。遅くなってごめんよ、クレア」
「いえ。助けてくださり、ありがとうございますマリアス様。ですが……ルールを破る羽目になってしまい……。申し訳ございませんでした」
「それは、君の責任じゃないよ。悪いのは、ウソを出してきた2人で――さて、ダリア・エリテラット、ファビオ・オキユテ。どうしてあんな大法螺を吹いたのか、詳しく教えてもらおうか」
私へ向いていた紳士的で穏やかな瞳が、変化。静かな怒りを含むようになり、そうすれば「「ひいっ」」――。
ダリアとファビオ様は、揃って息を飲んだのだった。
………………。たまらず言葉を失っていたら、その間にスラスラと説明が行われた。
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自分はクレアのことを知っているけど、クレアは僕のことを知らない。だから知ってもらうために交際を頼み、受け入れてもらえた。
ジュレイアル侯爵家には、交際の段階では周りに伝えない――『婚約』をしてから関係を外に伝えるという少々妙な伝統があり、その段階に至っていないから黙っていた。
周囲に悟られルールを破ってしまわないように、学院などでは告白前の関係を続けていた。
……そんな理由が、あったみたい……。
「交際を始めて半月後に、幼馴染の婚約者に近づく。それはおかしな話だし、そもそも――。自分で言うのはアレだけれど、こちらは侯爵家であちらは子爵家だ。こんなにも『差』がある家の人間と関係を持っているのに別人と交際を始めるだなんて、正気の沙汰とは思えないよ」
『仰る通りですわ』
『ありえま、せんわね』
『ええ……。仮に行いたいと思っていても、実行できませんわ……』
子爵家が侯爵家の顔に泥を塗ってしまったら、どんなことになるか――。それを知らない人はおらず、場内にいる人々は一様に頷く。そうして大量にあった私への白い目は、あっという間に消えてしまった。
「だから君達の言い分は、嘘。嘘を吐いていると確信していたから、愛する人の名誉を守るために首を突っ込ませてもらったんだよ」
そう仰りながらジュレイアル様は私の隣へと立ち位置を変え、(話を合わせて)と私にしか聞こえない声量でメッセージが届いた。なので私はジュレイアル様の笑顔に笑顔を返し、差し出された手を握った。
「まさか、少し席を外している間にこんなことになっているなんてね。遅くなってごめんよ、クレア」
「いえ。助けてくださり、ありがとうございますマリアス様。ですが……ルールを破る羽目になってしまい……。申し訳ございませんでした」
「それは、君の責任じゃないよ。悪いのは、ウソを出してきた2人で――さて、ダリア・エリテラット、ファビオ・オキユテ。どうしてあんな大法螺を吹いたのか、詳しく教えてもらおうか」
私へ向いていた紳士的で穏やかな瞳が、変化。静かな怒りを含むようになり、そうすれば「「ひいっ」」――。
ダリアとファビオ様は、揃って息を飲んだのだった。
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