私が幼馴染の婚約者と浮気をしていた? そんな事実はないのですが?

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
5 / 29

第2話 もう一つ現れたウソ クレア視点

しおりを挟む
「今からちょうど、1か月前だね。俺は以前から彼女の聡明さや振る舞いに惹かれていて、交際を申し込み恋人となっていたんだよ」

 ………………。たまらず言葉を失っていたら、その間にスラスラと説明が行われた。

 1回生から所属が同じで2年間注目していて、抱いていた関心が好意に変わった。
 自分はクレアのことを知っているけど、クレアは僕のことを知らない。だから知ってもらうために交際を頼み、受け入れてもらえた。
 ジュレイアル侯爵家には、交際の段階では周りに伝えない――『婚約』をしてから関係を外に伝えるという少々妙な伝統があり、その段階に至っていないから黙っていた。
 周囲に悟られルールを破ってしまわないように、学院などでは告白前の関係を続けていた。

 ……そんな理由が、あったみたい……。

「交際を始めて半月後に、幼馴染の婚約者に近づく。それはおかしな話だし、そもそも――。自分で言うのはアレだけれど、こちらは侯爵家であちらは子爵家だ。こんなにも『差』がある家の人間と関係を持っているのに別人と交際を始めるだなんて、正気の沙汰とは思えないよ」

『仰る通りですわ』
『ありえま、せんわね』
『ええ……。仮に行いたいと思っていても、実行できませんわ……』

 子爵家が侯爵家の顔に泥を塗ってしまったら、どんなことになるか――。それを知らない人はおらず、場内にいる人々は一様に頷く。そうして大量にあった私への白い目は、あっという間に消えてしまった。

「だから君達の言い分は、嘘。嘘を吐いていると確信していたから、愛する人の名誉を守るために首を突っ込ませてもらったんだよ」

 そう仰りながらジュレイアル様は私の隣へと立ち位置を変え、(話を合わせて)と私にしか聞こえない声量でメッセージが届いた。なので私はジュレイアル様の笑顔に笑顔を返し、差し出された手を握った。

「まさか、少し席を外している間にこんなことになっているなんてね。遅くなってごめんよ、クレア」
「いえ。助けてくださり、ありがとうございますマリアス様・・・・・。ですが……ルールを破る羽目になってしまい……。申し訳ございませんでした」
「それは、君の責任じゃないよ。悪いのは、ウソを出してきた2人で――さて、ダリア・エリテラット、ファビオ・オキユテ。どうしてあんな大法螺を吹いたのか、詳しく教えてもらおうか」

 私へ向いていた紳士的で穏やかな瞳が、変化。静かな怒りを含むようになり、そうすれば「「ひいっ」」――。
 ダリアとファビオ様は、揃って息を飲んだのだった。

しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

言いたいことは、それだけかしら?

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】 ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため―― * 短編です。あっさり終わります * 他サイトでも投稿中

記憶喪失を理由に婚約破棄を言い渡されるけど、何も問題ありませんでした

天宮有
恋愛
 記憶喪失となった私は、伯爵令嬢のルクルらしい。  私は何も思い出せず、前とは違う言動をとっているようだ。  それを理由に婚約者と聞いているエドガーから、婚約破棄を言い渡されてしまう。  エドガーが不快だったから婚約破棄できてよかったと思っていたら、ユアンと名乗る美少年がやってくる。  ユアンは私の友人のようで、エドガーと婚約を破棄したのなら支えたいと提案してくれた。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

婚約破棄にはなりました。が、それはあなたの「ため」じゃなく、あなたの「せい」です。

百谷シカ
恋愛
「君がふしだらなせいだろう。当然、この婚約は破棄させてもらう」 私はシェルヴェン伯爵令嬢ルート・ユングクヴィスト。 この通りリンドホルム伯爵エドガー・メシュヴィツに婚約破棄された。 でも、決して私はふしだらなんかじゃない。 濡れ衣だ。 私はある人物につきまとわれている。 イスフェルト侯爵令息フィリップ・ビルト。 彼は私に一方的な好意を寄せ、この半年、あらゆる接触をしてきた。 「君と出会い、恋に落ちた。これは運命だ! 君もそう思うよね?」 「おやめください。私には婚約者がいます……!」 「関係ない! その男じゃなく、僕こそが君の愛すべき人だよ!」 愛していると、彼は言う。 これは運命なんだと、彼は言う。 そして運命は、私の未来を破壊した。 「さあ! 今こそ結婚しよう!!」 「いや……っ!!」 誰も助けてくれない。 父と兄はフィリップ卿から逃れるため、私を修道院に入れると決めた。 そんなある日。 思いがけない求婚が舞い込んでくる。 「便宜上の結婚だ。私の妻となれば、奴も手出しできないだろう」 ランデル公爵ゴトフリート閣下。 彼は愛情も跡継ぎも求めず、ただ人助けのために私を妻にした。 これは形だけの結婚に、ゆっくりと愛が育まれていく物語。

【完結】恋を失くした伯爵令息に、赤い糸を結んで

白雨 音
恋愛
伯爵令嬢のシュゼットは、舞踏会で初恋の人リアムと再会する。 ずっと会いたかった人…心躍らせるも、抱える秘密により、名乗り出る事は出来無かった。 程なくして、彼に美しい婚約者がいる事を知り、諦めようとするが… 思わぬ事に、彼の婚約者の座が転がり込んで来た。 喜ぶシュゼットとは反対に、彼の心は元婚約者にあった___  ※視点:シュゼットのみ一人称(表記の無いものはシュゼット視点です)   異世界、架空の国(※魔法要素はありません)《完結しました》

【完結】いつも私をバカにしてくる彼女が恋をしたようです。〜お相手は私の旦那様のようですが間違いはございませんでしょうか?〜

珊瑚
恋愛
「ねぇセシル。私、好きな人が出来たの。」 「……え?」 幼い頃から何かにつけてセシリアを馬鹿にしていたモニカ。そんな彼女が一目惚れをしたようだ。 うっとりと相手について語るモニカ。 でもちょっと待って、それって私の旦那様じゃない……? ざまぁというか、微ざまぁくらいかもしれないです

婚約破棄を謝っても、許す気はありません

天宮有
恋愛
 侯爵令嬢の私カルラは、ザノーク王子に婚約破棄を言い渡されてしまう。  ザノークの親友ルドノが、成績が上の私を憎み仕組んだようだ。  私が不正をしたという嘘を信じて婚約を破棄した後、ザノークとルドノは私を虐げてくる。  それを耐えながら準備した私の反撃を受けて、ザノークは今までのことを謝ろうとしていた。

ヒロインは辞退したいと思います。

三谷朱花
恋愛
リヴィアはソニエール男爵の庶子だった。15歳からファルギエール学園に入学し、第二王子のマクシム様との交流が始まり、そして、マクシム様の婚約者であるアンリエット様からいじめを受けるようになった……。 「あれ?アンリエット様の言ってることってまともじゃない?あれ?……どうして私、『ファルギエール学園の恋と魔法の花』のヒロインに転生してるんだっけ?」 前世の記憶を取り戻したリヴィアが、脱ヒロインを目指して四苦八苦する物語。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...