結婚式当日。婚約者様は、時間を巻き戻したいと仰りました

柚木ゆず

文字の大きさ
13 / 24

第7話 幸せに満ちた日々は、突然姿を変える 俯瞰視点(4)

しおりを挟む
「……1月18日に、画家レナテイラは発表した……。『ザンダテールズ焼き』を題材とした絵を……。だからあの日見たザンダテールズ焼きに、あんな値札が付いていて…………父上は臍を噛んだ……」
「……………………」
「あれは、見間違いでも勘違いでもない……。その証拠に、式場にも――控え室にも、飾られていたのだから……」

 もしかしたら自分はとんでもない見間違いをしていて、父も同じように勘違いをして悔しがっていたのかもしれない。万が一の可能性を考えましたが、控え室の演出は式場側が行ったもの。ザンダテールズ焼きの価値が従来のままなら到底置かれているはずはなく、発表も高騰も確かなものだと再度確信をしました。

「間違いない。あの時あの場所で、『ザンダテールズ焼き』を題材にした絵は発表されたんだ……! なのにソレは発表されず、代わりに靴が題材の絵がまるで違う場所で発表された……。なんなんだ、これは……!?」
「……………………」 
「…………俺は、俺達は、巻き戻った時間を進んでいるのに……。なんで…………まるで違うことが起きているん――………………。ちがう、こと……?」

 自分の口から出てきた言葉への、違和感。
 それによってバジルは、すでに起きていた『異変』に気付くのでした。

「バジル……?」
「…………いや、それは、俺が違うことをしたからだ。だから俺が関わることが、そうなっているだけ。そこ以外は一切――……。ぁ、ぁ……。ああ……!」
「どっ、どうしたのだ!?」
「今はっ! 今はぁっ!! 俺が知っている未来だけどっ、完全に俺が知っている未来じゃないんだ!! 違うこともっ、起きてしまうんだ!!」


『……早く治さないと、来週も会えなくなってしまうからな。とにかく今は、回復に専念しよう。幸いにも来週は出席しなければならないパーティーなどもなくて、フェローテで1泊できるのだから――ん……?』


 帰国後風邪をひいてしまった時の、あの違和感。
 あれの正体は、パーティー。
 時間が巻き戻る前は、次の週は出席しなければならないパーティーがあったのです。

「諸事情で中止になったローランザルク侯爵主催のパーティーは巻き戻る前は中止になっていなかったんです! 俺はっ、アナと関係を持つことで変わるのは風邪など俺が関わることだけだと思っていたんです!! でもそれは違っていてっ!! 他にも変わっているところはあったんですよ!!」
「………………なんてことだ……。では……。では…………」


 ――ザンダテールズ焼きの価値が上がることは、ない――。


 神に祈りながら『第二の発表』を待ったものの新たな絵が発表されることはなく、それによって――






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

その言葉、今さらですか?あなたが落ちぶれても、もう助けてあげる理由はありません

有賀冬馬
恋愛
「君は、地味すぎるんだ」――そう言って、辺境伯子息の婚約者はわたしを捨てた。 彼が選んだのは、華やかで社交界の華と謳われる侯爵令嬢。 絶望の淵にいたわたしは、道で倒れていた旅人を助ける。 彼の正体は、なんと隣国の皇帝だった。 「君の優しさに心を奪われた」優しく微笑む彼に求婚され、わたしは皇妃として新たな人生を歩み始める。 一方、元婚約者は選んだ姫に裏切られ、すべてを失う。 助けを乞う彼に、わたしは冷たく言い放つ。 「あなたを助ける義理はありません」。

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

処理中です...