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第9話 フィリップ・ライナス視点(1)

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「エミ。君と出逢えて幸せだよ」

 家族全員にエミを加えて行われた、楽しい夕食のあと。彼女を自室に招き入れた俺は、ソファーで横並びになって雑談を楽しんでいた。

「もぅ、殿下ったら……っ。唐突にどうされましたの?」
「エミを見ていると、自然と浮かんできたんだよ。誰よりも美しく、その上ずっと俺を想い続けてくれた人。そんな君と巡り合えたことが嬉しくて、触れ合えば触れ合うほどに喜びが溢れてくるんだよ」

 夜会で姿を見た刹那、心を奪われてしまった。

 顔も、身体も理想的。まるで、美の女神の寵愛を受けているかのよう。

 おまけにその中にある心は俺へと向き続けていて、何もかもが完璧。100点満点。

 なぜこれまで、存在に気付かなかったんだ?
 留学する前に知り合っていれば、もっと早くから同じ時を過ごせたのに。

 あの夜ほど、後悔した日はない。

アリシアあの女とと一緒にいても、こんな気持ちにはならなかった。俺達はやはり、運命の相手なんだね」
「わたくしも、殿下といる時が一番幸せですわ。……フィリップ殿下は婚約をされていましたが、どうしてもこの恋心は抑えられなくって……。勇気を振り絞って想いを告げて、本当に良かったです……っ」
「たくさん困らせてしまって、たくさん悩ませてしまってごめんよ。あの頃の俺は、どうかしていた。どうしてあんなブスに、興味があったんだろうね」

 今思えば全盛期でも、ここにいるエミに遠く及ばないのに。
 それになにより。この俺にだ。顔は『特上(とくじょう)』、生まれも『特上』、育ちも『特上』の特別尽くしのこのオレに、一切興味を示していなかった女なのに。なぜ、あそこまで夢中になったのだろうか。

「この件は生涯、一二を争う『疑問』になりそうだ。そしてこれは間違いなく、一番となる『取り消したい過去』だよ」
「殿下はこのお話になるといつも、そう仰ってますわね」
「そりゃあそうさ。アイツと婚約をしてしまったせいで、キミと即座に婚約できないのだからね」

 婚約破棄後すぐに新たな婚約を発表したら、詮索を始める国民バカがいる。
 変な噂が立つと、エミに迷惑がかかってしまうからな……。最低でも6~7か月は待たないといけない。

「今は心から、アイツが憎いよ。アイツが俺の前に現れなかったら、今頃何もかもが上手くいっていたのだから」
「わたくしも昔からアリシアに酷いことされていて、実は苦手で大嫌いだったんですの。久し振りにあった時は、怖さもありましたけど……。今は殿下がお傍に居てくださっていますし、追放もされた。安心、ですわ」

 そっと俺に寄り添ってきて、頬がピンク色になった顔で見つめてくる。
 その仕草も、その表情も。とにかく可愛らしくて、愛おしい。

「そうだね、二度とそんな思いはさせないよ。その言葉通り俺が傍に居るし、なによりだ。あのブスはもう、この世にはいないはずだからね」

 確かあの時のヤツは熱があって、家を追い出されたのは雪が降る夜だった。
 どうせ途中で倒れて、凍死しているはず。まだ報告はあがっていないから、そうだな……。橋の下あたりで死んでいて、明日の朝には吉報・・が届くだろう。
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